NECと日本電産は、無線ネットワーク経由で小型コンピュータを内蔵したモータである、「インテリジェントモータ」(※1)を遠隔からリアルタイムかつ高精度に協調制御する技術を共同開発した。
IoT化が加速する中、市場拡大が見込まれるロボット業界では、ロボット単体での作業から、複数ロボットでの協調作業へと進化が求められている。
そこで両社は、NECの無線通信技術と日本電産のモータ間同期技術を融合させることで、「インテリジェントモータ」搭載ロボットをリアルタイムかつ高精度に協調制御する技術を開発した。
NECの無線通信技術は、無線ネットワークにおける通信遅延を考慮して「インテリジェントモータ」の状態を正確に予測するとともに、予測に基づいた先回り制御により、「インテリジェントモータ」のリアルタイムな遠隔制御を可能にした。
また、日本電産のモータ間同期技術は、複数の「インテリジェントモータ」同士で密に会話することにより、複数「インテリジェントモータ」間、また「インテリジェントモータ」を搭載した複数ロボット間での高精度な同期を実現する。
今回、工場や倉庫での自動搬送車を想定した実験を、周辺機器からの通信やノイズの影響で無線が不安定である環境下で行い、搬送効率(※2)を従来比で30%改善できることを検証した。
背景
昨今、IoTの普及に伴い、様々なロボットが無線ネットワーク経由で、遠隔から制御されるようになってきている。
また、市場拡大が見込まれるロボット業界では、ロボット単体での作業から、複数ロボットでの協調作業への進化が求められてきている。
しかし、高精度なリアルタイム制御を必要とするロボットを、無線ネットワーク経由で遠隔から協調制御しようとすると、通信遅延によってロボットからのデータや制御コマンドが時間どおりに到着しないため、正確な協調制御が難しいという課題があった。
今回、NECと日本電産は、オープンイノベーションとして、ロボットを駆動する「インテリジェントモータ」に対して、NECの無線通信技術と日本電産のモータ間同期技術を融合させることで、リアルタイムかつ高精度なロボットの協調制御を実現した。
新技術の特長
1. 制御サーバと「インテリジェントモータ」間の通信遅延を予測
Wi-FiやLTEなど様々な無線ネットワークにおける遅延発生の高精度な確率モデルを発見し、この確率モデルを活用して通信遅延を予測することに成功した。
2. 通信遅延予測に基づく先回り制御で遠隔からリアルタイム制御を実現
1項の通信遅延予測技術により、「インテリジェントモータ」からフィードバックされた情報(位置、速度、トルク等)がどれだけ時間が経過した情報であるか、「インテリジェントモータ」へ送信する制御コマンド(位置や速度の指令)がどれだけ遅延して到着するかが予測できる。
この予測により、制御コマンドが到着する時刻での「インテリジェントモータ」の状態を正確に推定するととともに、推定した未来の状態に基づいて先回り制御(※3)を行うことで、通信遅延を含む遠隔からもリアルタイム制御が実現できるようになる。
3. モータ間の高精度な同期によるロボットの協調制御
「インテリジェントモータ」は日本電産が開発した小型コンピュータ内蔵のモータで、無線ネットワーク経由で簡単に制御を行うことができる。
今回開発されたモータ間同期技術は、複数のインテリジェントモータ®同士で密に会話することで高精度に同期し、「インテリジェントモータ」を搭載した複数ロボットの協調制御を実現できる。
また、従来ではロボット側に必要だった高価な制御用コンピュータが不要。その結果、例えば工場や倉庫の搬送業務においては、高コストの大型自動搬送車ではなく、低コストの小型自動搬送車を複数台組み合わせ協調させることで様々な形状・重量の荷物を搬送可能になり、オペレーションの低コスト化に繋がる。
NECと日本電産では今後、同技術の応用事例として、工場や倉庫における自動搬送車、警備ロボット、災害時の調査ロボット、検査や宅配のためのドローンの遠隔制御など、様々な領域の社会システムに応用するために実証・製品化を進めるとしている。
※1 「インテリジェントモータ」: 日本電産が開発した小型コンピュータを内蔵したモータ。無線ネットワークで簡単に制御可能であるとともに、位置、速度、トルクなど様々なモータ情報を取得することができる。
※2 搬送効率: 自動搬送車を遠隔から制御して、所定の経路から外れないように搬送させたときの所要時間
※3 先回り制御: 制御系の未来の状態を予測して制御する手法
【関連リンク】
・日本電気(NEC)
・日本電産(Nidec)
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技術・科学系ライター。修士(応用化学)。石油メーカー勤務を経て、2017年よりライターとして活動。科学雑誌などにも寄稿している。