独シーメンスから、Amazon AWSに対応したIoTプラットフォーム、MindSphere3がリリースされた。
「IoTのオペレーションシステム」とシーメンスが呼ぶ、このプラットフォームは、シーメンスがこれまで培った様々な産業におけるインフラをコントロールしてきた経験に基づいて作られている。
しかも、ネットワークコネクティビティや、各種既存データベース、アプリケーションなどとの連携の幅がかなり広く、メジャーなものに関してはほとんどがサポートされているといえる。
このプラットフォーム、様々なエッジデバイスから取得したデータを、既存データとかけ合わせたり、既存の分析システムに投入したり、AIサービスを活用したりと、MindShpereが様々なデバイスから収集するデータとの掛け算がシームレスに、簡単にできるよう設計されているため、利用者は業務アプリケーションを開発する、もしくは、ありものの業務アプリケーションを設定する程度でIoTの恩恵にあずかれるのが特徴だ。
しかも、価格も数万円~とかなり安く、中小企業にとってはとても活用しやすいものとなっている。
今回は、この新しいMindShpereについて、シーメンスの日本法人代表取締役CEOの藤田氏が全体的な見通しを、専務執行役員の島田氏が改善されたポイントについて解説されたので、その模様をレポートする。
目次
シーメンス株式会社 代表取締役兼CEO 藤田研一氏

短期的視点
これまでも多くのベンダーIoTプラットフォームを発表してきているが、コンセプチャルなものも、具体的なものもあった。そんな流れの中で、2018年は「プラットフォーム元年」だという。
生産の現場で、「IoTが何に活用できるか」という理解をする必要があったり、経営企画の人がプラットフォームを使ってどういうことをやりたいのか、ということを見出すのに時間がかかっていた。
「IoTというキーワードは広がっているものの、何をするのか?」が明確でなかったという。
それが、最近になってだんだんやることが見えてきたという状況で、その結果2018年はプラットフォーム、産業のプラットフォームの元年だと言えるのだと述べた。
3年くらい先の視点
3年後、IoTプラットフォームが普及することで、デジタルファクトリーやデジタルプラント(発電所など)が加速するタイミングとなるという。
その頃になると、これからデジタルファクトリーやデジタルプラントがポピュラーになっていくという見通しを示した。
5年くらい先の視点
5年後くらいになると、デジタルファクトリーやデジタルプラントという考え方が、コーポレートレベルまであがった結果、「デジタルエンタープライズ」が登場するのだという。その時、「サプライチェーンの下克上が起きる」のだという。
非常に大きなITの投資は、これまで資金力のある、大企業が中心だった。しかし、インダストリー4.0ではすべてがネットワーク型につながるようになる(系列に代表されるようなピラミッド型ではなくなる)。そこで、企業の力は規模やレイヤー、ポジションよりも、どれだけスピーディーに決断して、実行していくかが重要となっていくというのだ。
ピラミッド型の工場は崩れ、これまで2番手だったサプライヤーが、キーテクノロジーを握る、モノづくりの重要なポジションを握るということが起きていくだろうと考えているのだという。
シーメンス株式会社 専務執行役員 島田太郎氏

また、島田氏からは、「IoTとは何であるか?」について、「標準品が専用品を置き換えていく世界」だと説明があった。
そこでIoTに関して、「IoTのオペレーションシステム」を提供しようと考えたのだという。つまり、「IoTを民主化したい」と考えたのだ。
IoTプラットフォームは、IoTのデジタリゼーションの出発点となり、そのうえでデータが自由にやり取りができ、アプリケーションが開発でき、販売でき、新規サービスが作れることが非常に重要なのだという。
シーメンスは長年、あらゆる産業のインフラ企業であった。その中で、「コントロールをする」ということをやってきていて、すでに3000万の自動化システム、7500万のスマートメーターを始め、80万以上の製品が接続されたようなエコシステムがすでにできているのだという。
これを「民主化」することで、だれでもこういったデータを集めたり、覗けるようになる、そういったインフラを提供しようと考えているのだ。
「クラウドベース・オープンIoTオペレーションシステム」を提供するというのだ。
機器の違いを吸収しなんにでもつなげる(MindConnect)
データをクラウドに持ってくるのには、かなりの手間がかかるのが一般的だが、このOSにつなぐだけで簡単にデータをクラウドにアップロードすることができるようになるのだ。
パソコンのOSでいうとドライバー層ともいえる。
「MindConnect IoTExtention」は、現場の情報をそのまま持ってくるといったことができるコネクタだ。OPC-UAだけでなく、Modbus/TCP, CAN, MQTT, Java, C++, REST, Web SDKなど、世の中の接続方式をほとんどフォローしている。
APIライブラリーも多数の公開されているので、簡単にデータコントロールができるし、自身でもデータをコネクトするソフトウエアやハードウエアを開発することができるのだ。
MindSphere API
- 総合サービス
- 動的データサービス
- MindConnect API
- エージェント管理
- アクセス権限管理
- アセット管理
- イベント管理
- (データ)モデル管理
- ファイルサービス
- コンテクストサービス
- データフローエンジン
- 通知サービス
- 異常検知
- シグナル確認
- シグナル計算
- KPI計算
- トレンド予測
- イベント分析
特に、アクセス管理について、データに価値がでてくる未来に対して、自分のテナント上でデータに対して自由にアクセス権を設定することができることが重要だ。シグナルや通知の仕組みも整っているのだが、こういった考え方は、実際の現場で運用をした経験が生かされているのだという。
データレイクとクラウドサービス
次にデータをプールするデータレイクが必要になる。今回は、これをAWS上で構築することとなったのだという。
自社内でクラウドをもって提供するようなやり方は、もう成り立たない時代がきている。Amazonのような規模と価格でデータの民主化を進めてきた企業がある以上、そこに対抗するようなクラウドベンダーを作るのは難しい。
そこで、Amazon AWSを使うこととなったというのだが、シーメンスは、Amazonではわからない「電圧の情報の見方」や、「様々なデバイスとの接続」、「予知保全」などのノウハウを提供し、その上でいろんな人がアプリケーションを自由につくることができる、そういったプラットフォームを提供するということだ。
また、Amazon AWSに載せたことにより、大幅なパフォーマンス強化がされ、広範囲に機能面も改善されているのだという。
分析の分野についてもコネクタが準備されている。企業内には、すでにテキストベースのデータが存在していて、IoTデータはそれらとの接続が重要なのだ。クラウド・コネクト、オンプレミス・コネクトの両方で、SNS, Apatche, SAP, Web Sphere, LotusNotesなどにある、既存のデータとのアクセスも可能となるのだ。
例えば、Salesforce.comなどはWebSphere上で動いているので、簡単に接続できるといった具合だ。
これは、クラウドでアプリケーションを販売しているメーカーにとって、これまでも様々な基盤上で動くソフトウエアを作ったりデータを管理しているベンダーから見るととても魅力と思えるはずだ。
モノからくる情報と、自分たちの持っているデータとのかけ合わせがすぐにできるからだ。
コンプリート・デジタルツイン
これまでは、「デジタルで定義したものでリアルのものをつくる」という一方通行であった。しかし、IoTによって、「リアルからの情報もデジタルに戻り、様々な設計の強化やモノをつかったデジタルサービスが可能となる」のだ。
これをシーメンスでは、「コンプリート・デジタルツイン」と呼んでいる。
以前、航空機を設計していた島田氏によると、「飛行機の飛んでいる状況は、実際はがわからなかった」のだという。
その結果、設計者は、設計時に「安全率」をかけるのだという。しかし、実際の飛行機が、どう使われているかということがわかれば、設計はさらに最適化できたはずだと振り返る。
そのためには、リアルの世界で、「何が起こっているか」、「物理現象がどうなのか」」を見える化されることが重要なのだという。これができることで、シミュレーションによってさまざまなことを解き明かしていくことができるのだという。
これを実現するためには、MindShpereからのデータだけでなく、現象を解きほぐすために、様々なシミュレーションソフトと連携していくことが重要だと考えているのだという。
例えば、製造業において、最終的に品質検査のプロセスがあるが、検査しなくても必ず同じものが製造できる設備があるならその方がよいはずだ。しかし、それができないから、検査をしているのだ。
「できない理由は何なのか」、「実際に何が起きているか」、といったことを解き明かすことができ、何を測定しておけば問題が起きるのかというメカニズムを理解することができるのだ。
プレディクティブラーニング環境の提供
データをMindSphereで集めてきたけどAIのエキスパートがいない、でもモデルを作って欲しい、分析をしてほしい、といった時、データをプレディクティブラーニング環境に置くと、すでに存在する様々な企業のツールをつかって分析をすることができるのだ。(アプリケーションとして、Zepelin Notebookの上で、TensorFlowなど既存のライブラリを使ってAIでの分析を行うことができるのだ)
こうやって、いろんな役割を分担しながら、データを確認、活用できるOSの環境は他にはなかった。
MindSphere Store
MindSphere Storeでは、自分たちの作ったソフトウエアをデプロイしたり、自分たちのお客様に売ったりすることができる。こういったことをテナント間でプッシュしたり、パブリッシュしたりすることができるということだ。
定額制を導入
価格は、MindAccessIoTバリュープランが基本で、デベロッパープランは、APIが使えるようになり自社でアプリを作って売っていきたいというパートナー向け、もしくはシステムを提供していきたいという企業が使うプランだ。
コンポーネントもコネクティビティ、アップグレード、分析などもしやすくなってきている。また、サービスを支援するメニューも増えてきているのだという。
データの保全性に関して、データを安心してつかってくれるように、お客様のデータにはシーメンスもアマゾンもタッチしないという方針でいるということだ。
今後は、ほかのクラウドサービス上でも動くようにしていき、一層どんな環境でも動くようなOSを提供するという流れを作っていくと述べた。
参考:シーメンス
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IoTNEWS代表
1973年生まれ。株式会社アールジーン代表取締役。
フジテレビ Live News α コメンテーター。J-WAVE TOKYO MORNING RADIO 記事解説。など。
大阪大学でニューロコンピューティングを学び、アクセンチュアなどのグローバルコンサルティングファームより現職。
著書に、「2時間でわかる図解IoTビジネス入門(あさ出版)」「顧客ともっとつながる(日経BP)」、YouTubeチャンネルに「小泉耕二の未来大学」がある。