現在、世界の新規がん患者数は2018年で約1,800万人、国内でも死因の1位はがんによるもの(※1)とされ、効果的ながん治療の向上が依然として求められている。とりわけ、自身の免疫系を利用してがんを治療するがん免疫療法は、次世代の治療法として注目されている。
日本電気株式会社(以下、NEC)では、がんの創薬研究に高知大学や山口大学と長年取り組んできた。このほど、NECはヘルスケア事業強化の一環として、同社のAI技術群「NEC the WISE」を活用したがんなどの先進的免疫治療法に特化した創薬事業に本格参入すると発表した。
第1弾として欧米において、パートナーであるTransgene SAと共に頭頸部がんと卵巣がん向けの個別化ネオアンチゲン(※2)ワクチンの臨床試験(以下、治験)を開始する。すでに2019年4月に米国FDA(※3)から同治験実施の許可を取得しており、その他、イギリスとフランスで申請中だ。なお、今回の治験薬は、NECとTransgeneが共同で開発する。
ワクチン開発の鍵となる、患者ごとに特異的なネオアンチゲンの選定には、NECが開発した「グラフベース関係性学習」を活用したネオアンチゲン予測システムが使用される。「グラフベース関係性学習」は、「NEC the WISE」の1つで、点とそれらを結ぶ線とから成る構造で物事の関係を表すグラフ構造のデータを用いて、物事の属性や関係をモデル化する機械学習技術だ。
このAIエンジンは、NECが独自に蓄積してきたMHC結合活性の実験データによる学習に加え、ネオアンチゲンの多面的な項目を総合評価し、患者それぞれが持つ多数の候補の中で、有望なネオアンチゲンを選定することができる。
NECは最先端のAIを創薬分野に活用することで、より安全で効果の高い先進的免疫治療法の開発を行い、同創薬事業の事業価値を2025年に3,000億円まで高めることを目指すとした。
※1 厚生労働省「平成29年(2017)人口動態統計(確定数)」
※2 がん細胞の遺伝子変異に伴って新たに生まれたがん抗原のこと。正常な細胞には発現せずがん細胞のみにみられ、またその多くは患者ごとに異なる。
※3 U.S. Food and Drug Administration(米国食品医薬品局)
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