Holoeyesが切り拓くXR技術による医療支援 ーHoloeyes 南健一氏講演レポート

2022年10月、IoTNEWSの会員向けサービスの1つである、「DX事業支援サービス」の会員向け勉強会が開催された。本稿では、その中からHoloeyes株式会社 セールスマーケティングチーム 東日本セールス セールスエグゼクティブ 南健一氏のセッションを紹介する。

Holoeyes株式会社は外科医の杉本真樹氏が外科医療の現場で抱えていた課題に対し、技術者の谷口直嗣氏とVRで支援することができるのでは、という思いから2016年に創業した企業である。

講演ではHoloeyes株式会社 セールスマーケティングチーム 東日本セールス セールスエグゼクティブ 南健一氏から、外科医療の現場が抱える課題と、Holoeyesが提供するサービスによる支援内容について説明いただいた。

外科医療現場のギャップと生まれるリスク

医療リスク
2D画像とリアルにはギャップが存在していることを示している。

まず、南氏は外科医療が抱えている課題について触れた。

外科医療において手術に臨むにあたり、医師は一般的にCTやMRIのデータから、頭の中で立体構造を組み立てイラストに描いたり、ソフトウェアで3D画像への変換したりする。これにより、手術のための解剖の地図を作成し、腫瘍や血管、神経などの位置関係を把握しようとする。また、手術中においてもCTのデータや事前に作成した3D画像などを参照しながら手術を進める。

しかし、CTの連続した断面図から脳内で組み立てた解剖の想像図は、実際の解剖と正確に一致するとは言えず、ギャップがある。X線やCT、さらには3D画像構築などの医療技術の発展により、このギャップは埋まりつつあるというが、未だに医療リスクとして存在し続けているという。

VRで高める空間認識、埋まるギャップ

医療支援技術の変化
左から、レントゲン画像、CT/MRI画像、モニタで見る3Dモデル、VRで見る臓器。

現在の医療現場では、3Dワークステーションを使い、CTやMRIなどのデータを取り込んで手術に関係の無い血管や不必要なものをクレンジングし、3D画像を作成している。3Dワークステーションとは、AIを使用することでCT/MRIのデータから自動的に任意の臓器を抽出し3D画像にすることができるソフトウェアである。

3Dワークステーションで作成した3D画像は、PC等の2Dモニタで確認することが一般的である。そのため、3D画像はモニタ以上に拡大はできず、モニタの横から確認しようとしても見ることができない。
また3Dプリンタによって臓器の模型を生成する方法が登場したが、コスト面や時間などの課題もあった。

そこでVRを使うことで、簡便に、より短時間で支援するのがHoloeyesの事業であり、患者ごとに個別の臓器を3Dプリンタと同様に実際の臓器のように立体的に体感できるというのが利点だという。

CTやMRIのデータから作成した3Dモデルを、イメージではなく、VRでオブジェクトとして空間上に浮かべることで、回り込んで横側や裏側から見たり、拡大して臓器の中に入り込んだりすることが可能になる。そうすることで空間認識が格段に向上するというのだ。

また、現在の外科医療の現場では、患者の体に開けられた小さな切開(穴)から手術器具を挿入して行う腹腔鏡手術が増えている。ロボット支援手術もそのうちの一つだ。この場合、執刀医は直接臓器を見るのではなくモニターを見ながら進める方法が取られる。そういった空間認識が難しい状況にもVRで支援できるところは多いという。

VRを使用した場合の解剖学的理解度の向上

XR活用による解剖学的理解度の向上
Holoeyesが提供するサービスによって、解剖学的理解度の向上が実証されている。

Holoeyesは、King Salmon Project(キングサーモンプロジェクト)という東京都がスタートアップ企業を支援しているプロジェクトに参加し、Holoeyesのサービスを実際に使用した場合の解剖学的理解度にどれだけ違いが生まれるのかといった検証を都立病院で実施したという。

検証は、術野(実際の手術で見える部分)の解剖学的理解度を10とした時に、2D画像、2Dモニタ上の3D画像、3D空間上の3Dモデルそれぞれの解剖学的理解度を医師が評価するという内容になっており、対象者は医師の熟練度別に、後期研修医、専門医、ベテラン専門医に分けてアンケートやインタビューで評価を行った。

この実証から、VRを使って3Dモデルを見せることで解剖学的理解度を向上させることができるというデータが出ているという。また、対象者の中で最も熟練度が低い後期研修医の理解度に大幅な向上が見られたという。このことから、Holoeyesが提供するVRを活用した医療支援は、医師個人が頭の中で解剖の地図を組み立て、手術を行うといった医療の暗黙の技術を、若い医師や医学生に共有できる教育的ツールとしても活用できるとした。

Holoeyesが提供する4つのサービス

Holoeyesでは、「Holoeyes MD」、「Holoeyes XR」、「Holoeyes VS」、「Holoeyes Edu」という4つのサービスを提供している。
Holoeyesでは、「Holoeyes MD」、「Holoeyes XR」、「Holoeyes VS」、「Holoeyes Edu」という4つのサービスを提供している。

Holoeyesでは、「Holoeyes MD※」、「Holoeyes XR」、「Holoeyes VS」、「Holoeyes Edu」という4つのサービスを提供している。

※医療機器認証に関する情報

  • 一般的名称:汎用画像診断装置ワークステーション用プログラム
  • 販売名:医療用画像処理ソフトウェア Holoeyes MD
  • 認証クラス分類:管理医療機器(クラスⅡ)
  • 認証番号:302ADBZX00011000
  • 認証日:令和2年2月28日

VR/MRデータを自動で生成し提供する「Holoeyes MD」と「Holoeyes XR」

「Holoeyes MD」と「Holoeyes XR」は、CTやMRIの撮影データから作成された3Dデータを基に、VR/MRデータを自動で生成し医療機関に提供するサービスだ。医療機関は生成されたVR/MRデータを市販のデバイスを使用し、見ることができる。

「Holoeyes MD」と「Holoeyes XR」は、機能は類似しているが、医療機器認証を取得しているか、していないかによってサービスが分かれている。

手術中や診断など臨床で使用するケースには医療機器認証を取得している「Holoeyes MD」を使用する。ほとんどの外科系診療科で使用実績があるという。

「Holoeyes XR」は医療機器認証を取得していないため、主に教育用途での使用を想定しており、臨床では使用できないが、若手医師や医学生への教育や患者への説明などに用途を限定して使用する場合には適したサービスとなっているという。

VR空間で会議ができる「Holoeyes VS」

「Holoeyes VS」は、複数人がメタバース空間で、ユーザーが作成した臓器モデルを共有できるオプションサービスである。遠隔地の複数のユーザーがアバターとなりリアルタイムの症例カンファレンスを実施することができる。「Holoeyes MD」と「Holoeyes XR」のオプションとして提供されている。

「MD」「XR」「VS」を導入する場合、市販のデバイスを病院側で用意する必要がある。現在、主に使われているデバイスは、メタ・プラットフォームズが提供しているMeta Quest2とマイクロソフトが提供しているHoloLens2だ。

Meta Quest2を使用すると、VR空間上の暗闇の中に立体的な臓器を浮かべることができ、HoloLens2を使用すると実際の現実視野の中に臓器が浮かび上がって見えるという。

この市販のデバイスを使用することはHoloeyesの強みでもあるという。デバイスの開発には大きなコストがかかり挑戦できない部分であるが、メタとマイクロソフトはメタバースへの投資を積極的に行っているため、開発のレベルが高く、この開発レベルに合わせてHoloeyesで可能な体験の価値も自動的にアップデートされるからだという。

VR体験をする時、以前はパソコンとデバイスを接続し複数の付属品が必要だったが、今ではデバイスのみで体験が可能となっている。その他、液晶の画角が広がるなど、進化のスピードが早いという。

「Holoeyes Edu」

「Holoeyes Edu」は、すでにVR化しているコンテンツを用意し、看護学校の解剖学の授業などで立体的な3Dモデルを見ることができる教育用サービスだ。

「Holoeyes Edu」は、スマートフォンを利用して閲覧をすることが可能で、利用者が高価なデバイスを購入する必要が無いのが特徴である。安価なデバイスでVR体験が可能であり、スマートフォン単体でも利用できる。

導入事例

「Holoeyes MD」は、既に医療機器として臨床使用されており、各診療科で活用事例がある。

整形外科での一例だが、湾曲した脊椎にスクリューを打ち込んで矯正する手術ではCTやMRIの画像からVRを作成し、スクリューの打ち込みの角度のシミュレーションや脊椎周辺の注意が必要な血管の事前の解剖理解に役立てられているという。

また、医療機器認証を取得していない「Holoeyes XR」は、主に医師や医学生の教育用に使用されている。多くの手術において実際の術野(実際の手術で見える部分)は執刀医以外からは見えにくく、若手医師などと手術の具体的なプランを詳細に共有することは難しい。執刀医以外の周りの医師は何をしているのか分からないという課題があるという。そういった課題に対し、「Holoeyes XR」を使うことで解剖の3次元的な理解を術前、術中、術後に共有するといった活用事例があるという。

ビジネス環境とHoloeyesの展望

市場環境

南氏はHoloeyesがサービスを展開している市場について次のように述べた。

1点目は日本国内のCTの台数が多いという点だ。OECD health care activities 2016という調査によると人口当たりのCT台数は世界一となっており、日本のCT絶対数は人口が日本の約5倍のアメリカと同じレベルということから、CT画像を使ってサービスを提供するHoloeyesにとって、日本の市場は大きいという。

2点目はMedTech市場の拡大だ。MedTechと呼ばれる「診療・診断・治療支援領域などの医療分野に対して、AI(人工知能)、IoT、XR(VR、AR、MR)、5G、4K/8Kなどの最新技術を取り込み、新たな価値を提供する商品やサービス、またはその取り組み」は、2022年で41億だった市場規模がその後4年で160億まで増える試算があるという。

3点目はVRと別にAIによる医療支援が現在のトレンドとしてあることだ。CT画像などをAIで自動的に判別するといった医療支援がトレンドとなっており、このAI支援が発展することでHoloeyesのサービスがより補強される可能性があるのではないかとした。

無料メルマガ会員に登録しませんか?

膨大な記事を効率よくチェック!

IoTNEWSは、毎日10-20本の新着ニュースを公開しております。 また、デジタル社会に必要な視点を養う、DIGITIDEという特集コンテンツも毎日投稿しております。

そこで、週一回配信される、無料のメールマガジン会員になっていただくと、記事一覧やオリジナルコンテンツの情報が取得可能となります。

  • DXに関する最新ニュース
  • 曜日代わりのデジタル社会の潮流を知る『DIGITIDE』
  • 実践を重要視する方に聞く、インタビュー記事
  • 業務改革に必要なDX手法などDXノウハウ

など、多岐にわたるテーマが配信されております。

また、無料メルマガ会員になると、会員限定のコンテンツも読むことができます。

無料メールから、気になるテーマの記事だけをピックアップして読んでいただけます。 ぜひ、無料のメールマガジンを購読して、貴社の取り組みに役立ててください。

無料メルマガ会員登録