株式会社日立製作所は、米国のユタ大学(The University of Utah、President:David W. Pershing)と共同で「糖尿病治療の処方薬選択支援システム」を開発した。
同システムは、機械学習を活用した解析を用いて、処方薬の種類別に、糖尿病の代表的な指標であるHbA1c値(*1)の低減目標(治療目標)を達成できる確率を予測し、患者別の特性も考慮した内容で、それぞれの効能・効果、副作用などのリスク、価格等の項目を、連携する電子カルテの画面上で比較表示する。
同システムにより、患者は、詳細なデータを画面で見ながら、医師との話し合いにより治療方針を決める共有意思決定(Shared Decision Making)を行うことができるため、長期にわたる治療を納得して続けられるようになることが期待される。
今後、日立とユタ大学は、同システムを用いた臨床試験をめざし、共同研究を進めていくとしている。
*1HbA1c(ヘモグロビンA1c)値: 血液内の1~2カ月間の血糖値の平均を反映する検査値。糖尿病治療の代表的な指標であり、低 減目標は、年齢や患者の状態を考慮して医師が個別に設定する。
米国では、糖尿病の患者数が2,310万人にのぼり、65歳以上の4人に1人が糖尿病と診断されていると言われている。糖尿病患者の約半数は医療ガイドラインで定められている治療目標(HbA1c値 7%未満)を達成していないという。
個人が民間健康保険を利用するため、保険償還対象薬剤に制限がある場合や、加入保険によって一定の自己負担枠を超えるまで保険償還されない場合もある。治療方法や処方薬の選択によっては、経済的負担が大きくなり、治療中断、治療薬の変更などにつながる要因の一つになると言われている。
そのため、近年の医療現場では、患者が医師や薬剤師の判断に一方的に従うのではなく、患者自らも治療方針の決定に参加し、その決定に従って治療を受けるという、共有意思決定(Shared Decision Making)の考え方が重要視されつつある。
同システムは、処方薬の効果だけでなく、長期的に治療を継続していくための経済的な負担も考慮し、処方薬を選択できるシステムとして患者と医師が話し合いで治療方針を決定する有効な支援ツールとなることが期待されている。
同システムは、昨年11月に、日立がcと共同開発した機械学習を用いた「糖尿病治療薬の効果を予測・比較する技術」(*2)を、ユタ大学の診療意思決定支援システム(OpenCDS*3)と統合し、次世代医療通信規格のHL7 FHIR(*4)を用いることで、HL7 FHIR対応型電子カルテと連携可能な処方薬選択支援システムだ。
同システム開発にあたり、学習に用いるデータ数や項目数を増やすことで、「糖尿病治療薬の効果を予測・比較する技術」の予測性能も向上した(*5)。また、同システムは、さまざまな機械学習モデルを電子カルテと連携させるプラットフォームとしても活用可能だという。
日立とユタ大学は引き続き協力して同システムの効果実証に向けた共同研究を行うとともに、本技術の応用などITを医療に活用するヘルスケアインフォマティクスを通じて、医師の支援や患者へのよりよい医療サービスの実現に貢献していくとしている。
*2電子カルテデータの解析により、糖尿病治療薬の効果を予測・比較する技術を開発 (2017年11月6日)
*3OpenCDS:ユタ大学が開発しているオープンソースの診療判断支援システム
*4HL7 FHIR:Health Level Seven Fast Health Interoperable Resources、米国のHL7協会本部が開発している迅速な医療情報相互運用のための次世代の医療 IT 標準仕様フレームワーク。
*5AUC(Area Under the Curve) 0.88。AUCは統計・データ解析で用いられる、判断・分類精度の良さを0.5~1で表す指標。最も良い精度は1であり、その場合100%の確率で正しい判断・分類が可能。
【関連リンク】
・日立(HITACHI)
・ユタ大学(The University of Utah)
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