これまでのCESでは、LVCCと呼ばれるメイン会場のど真ん中の入り口には、インテルやクアルコムといったチップメーカー大手が存在感をもって鎮座しており、チップの高度化によって、「こんなこともできるようになるんだ」、ということを教えてくれていた。
しかし、3年ぶりに参加したCESでは、そこにはメタバースブースが置かれていた。
メタバースが話題のキーワードであることはわかるが、ここまで良い場所におかれたことで、出展企業はかなり知名度も上がったのではないだろうか。
それはさておき、展示会のよいところは、体験できることだ。
普段世界のニュースを読み漁っていても、YouTubeに公開された動画をいくら見ていても、本当のところどこまでできるのかは体験してみないとわかならい。
初めに体験したのは、MRメガネ、Magic Leap2
Magic Leap2は、以前のものと比較すると68g軽くなっていて、利用シーンもコンシューマ向けから産業向けという方向に舵が切られた。
そして、IEC60601 認証、つまり医療用電気機器としての認証を取得したという、大きなニュースも発表され、その方向性がより鮮明になっていた。
実際に装着すると、現実世界に対し、かなり正確に物体が重ね合わせて表示される。私が試したデモでは、オフィスデスクが室内に表示されるもので、つい触りたいと思ってしまった。
この手のAR表現は、物体の位置がきちんと定まっていないとリアリティを感じにくいということもあるが、次は医療関係などで使うようなデモも体験してみたい。
よりリアルな映像を表示することで、そこにある物体を触ってみたい、「触れるから仮想空間であるにも関わらず操作したい」、と思うようになっていくのだなと感じた。
そう考えると、ハプティックデバイスや触覚フィードバックデバイスの進化が気になる。
ハプティックデバイス HaptX Gloves G1
HaptX Gloves G1は、前世代のグローブのように、無骨な形状から、グローブ内部には数百個のマイクロ流体アクチュエータを搭載し、エアパックからの圧縮空気を精密に制御することで、リアルな触覚フィードバックを提供するタイプに進化したものだ。

上の画像を見てもわかるように、構造的に進化している。左のタイプだと、なにかに引っかかったりしそうだ。
展示では、新しいタイプのグローブを体験することはできず、前世代のものだけだったのが残念だが、こう言ったデバイスとMagic Leap2のようなデバイスの連携は、仮想空間の中でものを掴む動作をする上では重要で、もっというと、テレイクジスタンスにはもっと有効だ。
テレイクジスタンスとは、例えば、遠く離れたところにあるロボットに人が宿っているような状況を生み出すことだが、遠方のロボットが掴むものがよりリアルに掴める可能性をもたらすのだ。
没入中も現実世界での手が自由になる Shiftall FlipVR
仮想空間に没入している時、キーボードを打ちたいとか、お茶を飲みたいとなった時、コントローラーを置くとすぐに操作できなくなる。
そこで、Shiftallは、手をひねれば手が自由になるコントローラーを展示していた。
長時間没入する人にとってはありがたいツールなのだ。
触覚フィードバック bHaptics
仮想空間でものが掴めるようになったら、仮想空間上での出来事をリアルな感触として得たいものだ。
そういう時に使うのが、触覚フィードバックと呼ばれるもので、ベスト型のものから、全身スーツのものまで豊富に存在する。
bHapticsは、ベスト型のもので、デモでは画面上の体の部分を指定すると、カラダにフィードバックがかえってくるというものだった。
実はこの手のものでは、昨年のCESでアワードを取っていたスペイン初のOWOも展示されていて、触覚フィードバックに取り組む企業が増えることで、ゲームにおける没入体験は向上しそうだ。
多様なラインナップが登場するも、精度や軽量化などの課題も多い
今回のCESを通して、Magic LeapやHaptXのように、性能や外装面等で、メタバース関連デバイスの進化が見られた。また、ShiftallのFlipVRのような周辺デバイスも生まれてきたことは着実にマーケットの期待に応えようとしている関係者の努力によるものだと思う。
昨年に続きキャノンが。今年はシャープが出展していることからも、直接的にも間接的にも市場に参入しようとするメーカーが増えてきていることも朗報だ。
その一方で、現状、まだまだ日常的に、自宅でこれらを身につけて楽しむというシーンは遠いと感じる方も多いだろう。
ブラウザにメタバースを展開するようなカジュアルなものも登場する一方で、VRChatのように、世界中の人が楽しんでいるメタバースでも、高性能なゲーミングPCが前提となっているということもあり、リアルでレスポンスの良い仮想空間体験をするには、まだまだ処理性能を追う必要がありそうだ。
実際、デバイスやPCの進化と、マーケットの盛り上がりを待つ間、Magic Leapのようにコンシューマ向けから産業向けにピポッドする関連事業者は国内にも海外にも多い。

ゲーム向けというと、発売直前のPlayStation VR2が展示されていて話題を呼んでいたが、性能が良くても対応するゲームソフトもまだまだ少ない。
ゲームや産業向けの市場の可能性を感じ、盛り上がる一方で、冷静にメタバース関連の業界を眺めると、デバイスなやPCなど性能向上と、軽量化や低価格化が実現されると、もっとカジュアルに楽しめるタイミングがきそうだ。
また、ゲームユーザーが、ヘッドセットなどをつけなくても、ゲーミングPCで十分没入して楽しんでいるという側面もあるということを考えると、ヘッドセットありきでメタバースを捉えないほうが良いのかもしれない。
CES2023の展示を通して、変化がないとがっかりしている方もいるようだが、見方を変えて、もう少し長期的に、この市場と技術の進化を、あたたかく見てほしい。
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IoTNEWS代表
1973年生まれ。株式会社アールジーン代表取締役。
フジテレビ Live News α コメンテーター。J-WAVE TOKYO MORNING RADIO 記事解説。など。
大阪大学でニューロコンピューティングを学び、アクセンチュアなどのグローバルコンサルティングファームより現職。
著書に、「2時間でわかる図解IoTビジネス入門(あさ出版)」「顧客ともっとつながる(日経BP)」、YouTubeチャンネルに「小泉耕二の未来大学」がある。