今年の5月、Samsungが発売した360°全方位の映像空間を見渡せる、ゴーグル型のヘッドマウントディスプレイ「Gear VR Innovator Edition for S6」(以下、Gear VR)。
Gear VRは、ゴーグル部分にGalaxy S6またはGalaxy S6 edgeをセットし、頭に装着してゲームや動画、写真をバーチャルリアリティで体験することができる。
「すごいらしい」という噂を確かめるために、飯田橋 グラン・ブルームにあるGalaxyショールーム「Galaxy Square」へ立ち寄ったところ、Samsung Product Groupの待場さんにお話をお伺いすることができた。
―Gear VRの特徴を教えてください。
Gear VRの大きな特徴は、VRの中では本家本元の会社、Oculus(オキュラス) VR社と共同開発をしているという点です。
元々Oculus RiftのOculus Rift Development Kit 2の時に液晶パネル等々でSamsungが技術提供していることもあって、Gear VRはそのあとのVRのモバイル版として、リリース・開発されました。
パソコンとの大きな違いはコードがなく、機動性にすぐれ、色々な場所に持ち歩けるところです。スマートフォンをベースとし、パソコンのように大きなCPUは積んでいないので、カジュアルなVRを見るというのがGear VRの特徴です。
また、Galaxy S6とGalaxy S6 edgeは、フラッグシップモデルSシリーズの6台目になり、CPUはオクタコア、ディスプレイはクアッドHD(2560×1440)と、非常にスペックが良くなったということで、スマートフォンでも体験できるようになったというのもポイントです。
―たしかにコードがないですね。
回転イスに座ってくるくるまわっても360°見渡せるので、今は座ってみるというのがレギュレーションになっていますが、コードがないのは業界でも評判となっています。
―ゲームひとつとっても360°見ることができるかどうかというのは大きいですね。ケーブルが絡まないのがいいと思います。
「ケーブルがないのはいいね」と様々な方に言ってもらえています。
ご存じだと思うんですが、昨年Oculus VR社がFacebook社の傘下に入り、人とのコミュニケーションを大事にしている彼らがVRをどのように使っていくかわかりませんが、ゲームに限らず、今後は実写の映像や画像というものも大きな可能性があると思っています。
―そうすると、今まで行ったことのない世界遺産に入り込んだりできるイメージですか?
はい、色んな文化遺産や、何十年に一度しか入ることができないところなどでも360°の映像や画像を取っておけば、とても貴重なアーカイブとして残されます。360°の映像や画像となると、そこに入りこんだような感覚を体感することでき、今までの写真の情報とは違うものが得られるのかな、と思っています。
―Gear VRは他社製のスマートフォンでは使うことができないと聞きました。
はい。きちんとVRのことまで考えてスマートフォン開発が進められているので、Oculusにとって相性のいいスマートフォンを作りました。
―加速度センサーの精度もいいんだろうなと思っていて、目に見えない部分のセンサーの精度がよくないとVRの世界はつまらなくなってしまうと思っています。ほんの少し動いただけで、動いてくれないとリアル感はなくなってしまうのではないでしょうか。
他社製はスマホの6軸センサーを使用しているんですが、Gear VRはヘッドマウントにも3つのセンサーが入っているので、パフォーマンスはかなりいいです。通常は、頭を動かす時に360°の大容量データなので遅延が発生するんですけど、そこをカバーするタイムワープ機能というものがあり、遅延を遅延と感じさせないところまで考えられているのが、Oculusのすごい技術です。
一番Oculusが気にしているのは「気持ち悪くなる」ことなんです。我々のこのGear VRはInnovator Editionいうことでリリースしているんですが、何がInnovator Editionかというと、機械が未開発というわけではなくて、コンテンツ自体が、まだあるものによっては気持ち悪さを感じさせるものがあるんですね。そして、今OculusとSamsungでレギュレーションを作っていってその辺が固まってくれば、コンシューマーバージョンが出てくるかなと思っています。コンテンツをみて気持ち悪くなって、「もういいや」と離れられるのが我々としてはとても残念なことなので、一度VRを見たらそこから離れられない世界というのを作っていかなきゃいけないかなと考えています。
―体験させていただいたときに、ヘッドフォンまでつけると完全に世界に入り込むというか、ゲームの中だけど上等な遊園地に行ってるような感じがしました。やってみないとわからないすごさです。
ありがとうございます。VRのコンテンツの定義というのは本当にまだまだ可能性があるので、それこそ私たちが考えて「これがVRです!」とも言えなくて、色々な企業様が考えるVRの世界というのも、興味深いものがどんどんでてきています。
今後、例えば小学校の入学式の写真を撮って数十年後にGear VRを使ってみてみたら、その場所いるかのようなタイムスリップをした感覚を体験できるのではないかなと考えています。
例えば、Oculus 360° Photoには、ゲッティイメージズさんが撮った写真で、サッカーのワールドカップの試合前の選手たちがフィールドで横並びで立っている写真があります。通常の写真では緊張感などは伝わりにくいんですが、VRで見ると自分がフィールドに立って緊張感を味わえます。これは360°見ることができるGear VRならではかなと思います。
―オリンピックに向けて、なにか検討されていることはありますか?
東京オリンピックまでに、オリンピックの見方が変わっていくんじゃないかなと考えられます。今、テレビや映像は、四角い世界の中でどう見せるか、切り取るかということを考えてきたと思うんですけど、360°というのは全く違うので、演出やカメラの撮影の仕方も変わってくると思います。
ぜひ試してみてください。ちょっと髪型が乱れてしまいますが・・・
-ありがとうございます。
※Gear VRを装着し、静止画を体験中
ご覧いただいているのはゲッティイメージズさんの360°撮影した写真で、いわゆるプロのフォトカメラマンでないと入れない場所なので、一般の人が体験できないようなところの写真のコンテンツです。
右手の部分が操作パネルで、前後左右動かして写真をスライドさせることができます。カンヌのレッドカーペットなども面白いですよ。静止画だけでこれだけ迫力がある写真なのはゲッティイメージズさんならではですね。
―写真がこんなにすごいとは思わなかったです。
「新たな写真の見方」というのをできるんじゃないかと思ってて、例えばバーチャル写真展なんかやったら面白いんじゃないかと思っています。Gear VRで8Kくらいのものを見ると、リアルな世界に入り込んだ感覚になると思います。
我々は動画も含め、多くのコンテンツを見ていますが、静止画でこれだけパンチ力があるものを見て、すごいなと思いました。画質ももっと上がってこなきゃいけないですし、細部もよくなってくる予定なのですが、さらに今度ライブストリーミング、生のものを同時間で見るものも色々なところで研究されているので、例えばテニスの試合をテレビではなくて、360°のVRで現場で観戦しているように見られるようになるという世界もくるかもしれません。
―動画の場合は、どう撮影しているんですか?
一つの例として、GoProを複数台使用して撮影する方法があります。そうすると、複数の映像データができ、その複数の映像データを球型に360°張り合わせていくスティッチという作業をします。その張り合わせたデータを編集して、はじめてAndroid化して見せているんですが、そのスティッチ作業がすごく大変な作業です。
映像の貼り合わせの部分でずれが生じるケースがあり、直す作業などもあるため平面の映像よりかなり手がかかります。複数のカメラ台数分の映像データで、さらに4Kだったりするとかなりのデータ容量なので、圧縮の技術もあがっていかないといけないし、データの送受信のスピードも気になってきます。まだまだ改善することはありますが、可能性はかなりあると思っています。
―Samsungさんで360°撮ることができるカメラの発売予定はありますか?
昨年11月に「Project Beyond(プロジェクト・ビヨンド)」発表、というニュースは本社から出ていたんですけど、マーケットにはまだ出ておらず開発中のものになります。
―この商品に競合はありますか?
様々な製品が発表されていても、まだ発売されていないものもあるので何ともいえませんが、競合というよりはまだ業界ができていないので、一緒にVRを盛り上げる同士かなと思っています。
―コンテンツはどこで購入できますか?
オンラインのOculusストアです。今は7~8割程度は無料コンテンツ、2~3割は課金コンテンツという割合です。ゲームに課金するコンテンツが多く、体験版とゲームを載せているというものが多いですね。価格は3~10ドルくらいのイメージです。
―Galaxy S6だから使いやすいというのはあると思うですが、スマートフォンにしてしまったがゆえに、他のスマートフォンを持っている人は買いづらいのでは?という点はどうお考えですか?
まだInnovator Editionということで、Galaxy S6とGalaxy S6 edgeという使う幅が狭い中でやってるんですが、これで様子を見て、今後どういう風に戦略をたてるかということを考えています。今、エンドユーザーにいきなり購入してもらう段階まではまだきてないですけど、色んなイベントで使ってもらえるようになっていて、多くの方に触れていただく機会が増えてきています。もちろん我々は売っていかなければいけないんですけど、ステップとしてまずは知ってもらって、これが必要な世界がくればエンドユーザーも買ってくれるはずなので、今ステップを踏みながら進めている状況です。
―製品開発とともキラーコンテンツの制作がけっこう急務ですね。これがあればみんな見たくて仕方ないというのが出てくれば、無理してでも買うのではないでしょうか。
Gear VRはゲームだけではなく、生活に根付いたコンテンツというのが増えていくかもしれないなと思っています。
―ありがとうございました。
Gear VRの市場想定価格は24800円(税抜)、ヨドバシ、ビックカメラなど量販店のオンラインショップと、量販店の中のGalaxy Shop(全国18か所で展開)で販売されている。
このGear VRはつけて体験してみないと、没入感のすごさがわからないので、なかなか文字だけでは伝えづらいのだが、本当に映像や写真の世界にすっぽり入り込んでいる感覚なのだ。不思議なのだが、全く違うリアルな世界に入ったせいか、取材時に体験させてもらったほんの数分で、気分がリフレッシュしていた自分に驚いた。そのくらい、没入感がすごいということだろう。
360°と聞いていても、体験する前は「目の前に広がるリアル世界」というイメージだったのだが、目の前どころかGear VRの中は完全に「球の世界」だ。「下」が遠く感じるので、浮いているような気分にさえなる。VRを体験したことがない人にとっては、想像を超えた世界感を体感できるだろう。
この臨場感をテキストと写真で再現するのはとても難しいので、体験したい人は、Galaxy ShopかGalaxyショールームでぜひ試してほしい。
VRの世界でオリンピックを生の映像で見ることができたら、選手の緊張感や会場の臨場感をリアルに味わうことができると考えると、ぜひSamsungには頑張ってもらいたいと思う。
【関連リンク】
Gear VR
無料メルマガ会員に登録しませんか?
IoTに関する様々な情報を取材し、皆様にお届けいたします。