デザイン会社もモノを作る時代だ。これまで、Webサイトやスマホアプリ上で最適なUXをデザインしていた遺伝子たちが、モノを作るとどうなるのか?
現在、スマートファクトリーなどに代表されるBtoB向けIoTや、AIやVRなどの最先端技術が注目を集める傾向にあるが、今後はもっと気軽なエンターテインメントとしてのIoTも広がっていくだろう。
今回、株式会社 ワン・トゥー・テン・ドライブ(以下、1→10drive)代表取締役社長 梅田亮氏と、同社最高技術責任者 森岡東洋志氏に、現在開発中のプロトタイプやビジネスモデルついて伺った。
-御社について教えてください。
梅田氏(以下、梅田): 弊社1→10driveはクリエイティブスタジオ1→10designが母体となっており、インターネットメディアでFLASHの表現が全盛だった時代にぐっと業績が伸びた会社です。
流行る技術は終焉していくモノで、FLASHが終わりつつある中、「次は何をしていこう?」と考えたときに、Webサイト制作にこだわらず、スマホやロボット、空間のインスタレーション、インタラクティブな作品、あるいはAIやIoTなど、どんどん表現の幅を広げていこうと考えました。
そうすると、もはや1→10designという1社の枠には収まらなくなりました。そこで、新たなテクノロジーを活用し、モノづくりやサービス開発の領域から企業のブランド開発を担う会社として、1→10driveを作りました。弊社CTOの森岡は、組織作りからチャレンジしてくれています。
また、1→10Roboticsでは、感情認識パーソナルロボット「Pepper」の人工知能・感情認識と連携した会話エンジンの開発、1→10imagineという昨年できたばかりの会社では、デジタルテクノロジーを駆使した新たなビジネス創造、空間クリエイティブ事業を行っています。現在ワントゥーテングループでは主にこの4事業を展開し、ワントゥーテンホールディングスの代表が創業者である澤邊芳明です。
森岡氏(以下、森岡): 1→10 のエンジニアは、普通の会社のエンジニアと違っていて、「こう受け取られたいから、こういう形で作ろう」と考えるタイプが多く在籍しています。
一般的なメーカーのエンジニアは「これができるからこれを作ろう」、と考えるので、ときとして生活者とギャップがあったり、作ったモノがあまりハマらなかったりする場合もあります。逆に1→10のエンジニアの場合、「ハマるようにこういう技術を使おう、足りない部分はこの技術から持ってこよう」、という考え方がすごく強く、それはまるで糊(ノリ)のようなエンジニアリングです。
梅田: 森岡と話しあい、「プロトタイプを大事にする会社にしたい」という想いから、1→10 driveのタグラインとして、「ブランドプロトタイピングカンパニー」という理念を掲げています。
例えば、発売して3ヶ月で終売してしまう商品ではなく、「10年100年と続いていく製品であってほしい」、と考えたときに、そもそもモノ製品にブランドや良い体験を提供するような魂が入っているべきだと思いました。
その視座でモノを作るためには、プロトタイプ、アルファ版のさらに手前のものを作り、開発チームだけでなく、クライアントも巻き込んだ大きなプロジェクトの中で、メンバー全員でそのプロトを共有し体験します。そこから、「これは、いけるね」とか「このやり方はちょっとだめだったから、捨てよう」という取捨選択がモノづくりの超初期段階で実施していることで、今にあったやり方なのでは、と考えています。
-モノづくりは、かくあるべし、をそのままきちんとやられていますね。おそらく大手メーカーも、始めは自分がワクワクしたくてモノを作っていて、だんだんと会社が大きくなって変わっていったのだろうと思います。元に戻ろうよってことですよね。
梅田: いま新しいモノを生み出そうとする流れが様々な会社に求められているので、サードパーティと一緒に共創する流れが各社来ていて、そういう流れにうまくハマっているのかなと思います。
例えば、パソコンやテレビはある程度作り方が確立されていますので、分業制で成り立ち、ウォーターフォール型の開発でうまくいきますし、そうじゃないときちっと作れないと思います。しかし、今まで誰も作ったことがないようなモノは、そのやり方だと難しいと思います。
ですので、そういうやり方に慣れてしまったクライアントに対しては、開発プロジェクトを、中の力も外の力もうまく巻き込めるよう、円卓型にしましょう、と言うようにしています。
-円卓型ですか?
梅田: 中華テーブルに丸く座って、料理を回しながら同じものを食べて、みんなでワイワイ会食するイメージです。具体的には、「領域侵犯を積極的にしましょう」、と言っています。例えばエンジニアが企画のことを言ってもいいですし、マーケターが技術について様々な発言をしてもいいのです。積極的に他の領域について発言をしていくことで相互認識が深まって、開発が早くなると思います。
クライアント業務におけるプロトタイプの開発
梅田: 弊社の事例として代表的なものですと、サンスター「G・U・M PLAY」があります。その事例を皮切りに今のお仕事内容としては、家電メーカー、エンタメ系、文具系など、IoTや新しいデジタルを活用したモノづくりや体験作りを提供しているクライアントと、モノづくりにおけるプロトタイプ開発や、施設空間における体験開発を、企画提案の段階からご一緒しております。
現在は、デジタルインクというプラットフォームを推進しているワコム社と、そのプラットフォームを活用したペンタブレットプロダクトのコンセプトモデル「感情を伝える手紙」(Letter with emotion」)の取り組みを実施しています。
プロトタイプとして昨年の秋にお披露目し、CESやSXSWでも展示しました。
-IoTNEWSでも取材させていただきました。他のプロトタイプも見せていただけますか?
snipAR(スナイパー)
梅田: 弊社では「1→10drive 試作室」という自社開発プロジェクトがあります。そこで進んでいるプロトタイプを幾つかご紹介いたします。
こちらはsnipAR(スナイパー)という、LenovoのTango対応端末を利用した、市販の水鉄砲をハックしたモノです。
snipAR_1→10drive from 1-10 on Vimeo.
当初Webで公開した動画より、今はもう少し遊びがリッチになり、画面を覗くと平面の机や天井から自動的にモンスターが出てきて、それを倒せます。Tango対応端末が一台あるだけで、日常空間をゲーム空間にハックするプロダクトです。
水鉄砲は市販のモノですが、弊社には3Dプロダクトデザイナーがいるので、今独自で鉄砲部分の型をおこし、オリジナルのデザインとして作っているモノがこちらです。
-製品化も考えられているのでしょうか。
梅田: あくまでもプロトタイプですので、技術モジュールだと捉えていただけると良いと思います。
ビジネスモデルとしては、弊社で作ったプロトタイプを半製品としておもちゃメーカーなどに持ちかけて、その企業ブランドで展開するとなったときには、弊社で提供できる部分は提供し、あとは仕上げを一緒に作りましょう、といった展開です。
もうひとつは、触って試して遊べるようなモノの展示は、とてもニーズが出てきていますので、そのようなイベント展開も考えています。
ジャンピング紙相撲
梅田: ジャンピング紙相撲のデモをお見せします。昔のトントン相撲は、台をトントンして揺らしますが、これは自分がまわしを着けて跳ねると、モノが自分の分身として動きます。
たくさんジャンプするとモノもそれに合わせて動きます。
ジャンピング紙相撲_1→10drive from 1-10 on Vimeo.
去年のメーカーフェアに出店したときには、子どもたちに大人気で、ずっと一心不乱にジャンプして対戦していました(笑)今はプロトタイプですのでiPod touchをセンサーとして利用していますが、商用化時には、まわしにもっと小さい安価なセンサーを付けて代用することもできます。
相撲レスラーの裏側は、配線がむき出しですが、iPod touchと繋がっています。ジャンプの挙動をセンシングすると、振動モーターが震える仕組みです。
-面白いですね。
梅田: メーカーフェアでは親子連れが多いので、子どもでも楽しめるようなことをやってみよう、というアイディアのひとつです。ビジネスモデルの幅として、最終的には弊社がメーカーとなり販売するところまでできたらいいなと思いますが、一足飛びにいきなりメーカーになることは難しいですね。
-流通や在庫のこともあります。
梅田: さらにユーザーサポートもあります。クリアすべき壁は色々とあるので、必ずしもメーカーになることは最優先事項ではないかなと思っています。
Traveling Scope(トラベリング・スコープ)
梅田: こちらはTraveling Scopeです。双眼鏡って、あるとつい覗いてしまうというアフォーダンスがあると思いますが、これは覗くと遠くが見えるのではなく、違う景色を見ることができます。
いわゆる簡易VR系のプロダクトなのですが、それをVRという言葉を使わず「双眼鏡ですよ」と言うことで、遊びとしての体験があるんじゃないかな?と。ジョグダイヤルは通常の双眼鏡だとピントを合わせる役目ですが、Traveling Scopeのジョグダイヤルを回すと、違う世界へワープしていける機能を開発しています。
タネを明かしてしまうと、スマホ型の簡易VRなのですが、モノの体験に近い形の操作性を担保したいと思っています。スマホでできてしまうことも多くありますが、(前述のsnipARも然り)モノにすることで遊びの熱中度や没頭度合いが違うと思うので、そこはこだわっていきたいです。新しい技術ためのIoTでなくて、より自然で新しい体験をつくっていきたいです。
Bubble Chanbara(バブル・チャンバラ)
Bubble Chanbara_1→10drive from 1-10 on Vimeo.
梅田: さらに、Bubble Chanbara(バブルチャンバラ)というプロトタイプがあります。
これは、普通のおもちゃの刀に見えて、シャボン玉を斬ったときだけその液面に反応してランダムに、「ぽよん」「シャキン」「チャリン」などの音が鳴るおもちゃです。3歳ぐらいの子どもはシャボン玉を吹いたり剣を振り回したりして遊ぶことが好きなので、それを組み合わせたときにどういうことができるか考え、開発した遊びです。
-シャボン玉はどのように認識しているのでしょうか?
梅田: シャボン玉を斬った瞬間に、刀がその液に触れたときに通電して、音が鳴るという仕組みです。
Track Tank(トラック・タンク)
Track Tank_1→10drive from 1-10 on Vimeo.
さらに、最近発表させていただいたプロダクトは、HTC VIVEの3Dトラッキングコントローラーを活用したモノです。
これは白い箱にHTC VIVE製コントローラーを付けており、プロジェクションマッピングで戦車の形を白い箱に投影して、子どもが自由に動かしても、戦車の柄が追いかけてきます。またコントローラーのボタンを押すと弾のエフェクトを出すこともできます。プロジェクターを用意する必要はありますが、ただの白い箱にHTC VIVEのセンサーコントローラーを付けるだけで、戦車ごっこ遊びができるのです。
HTC VIVEのこのデバイスは、VRのコントローラーとして開発されたモノですが、VR以外にもこんな風に活用できますよ、というプロトタイプとなります。
-動いている位置がわかるのですよね?
梅田: そうです。CTO森岡がシアトルで講習を受けており、ノウハウがあります。
「1→10drive 試作室」の今後について
現在発表したプロダクトはこの5つですが、今後もいままで以上に開発に注力していきます。今でも既にご来社いただくお客さまに触っていただいて、「これだったら、これに使えるね。もっとこんなことできないの?」との会話が弾んでおり、ビジネスに生かしていきたいと思っています。
-実際にモノがあると、ディスカッションが始まりそうですね。
梅田: そうですね、メーカーや体験を提供している企業からの引き合いがありますが、今後は、イベント需要などで広告業界や広告主からの引き合いもあると思います。
さらに、森岡が手がけたZIGプロジェクトというものがあります。センサーをイチから作るのではなく、スマホはセンサーの塊だからそれを使ったほうが早い、という思想に基づいています。例えば、さきほどのジャンピング紙相撲だったら、ジャンプの挙動というのがどんな波形で取れているのか見ることができると便利だね、ということで、開発しました。
プロトタイプを作るために、センサーを買ってきて通信も組んで、とやっていくと、非常に長い時間がかかってしまうのですが、ZIGシミュレーターを活用すると工期を短縮できます。
IoTのB to Cの普及は、まだまだこれからだと思いますが、開発メンバー間で実際に体験がすぐに共有できる、という点がプロダクト開発(をよりスムーズにしてIoT等の新たなプロダクト普及を促進していくための)鍵かなと思っていますので、今こういうことをやっています。
-ファミコンを買って、セットを変えるだけで様々な遊びができる感じになると良いですね。スマートフォン側の多様性に対して、モノ側のほうがどんどん進化して吸収していく世界ができてくると、こういうのはとても面白くなりますね。
梅田: 「1→10drive 試作室」のアップデートは随時進めておりますが、3ヶ月に1回ぐらいはプレスリリースもしていきたいなと考えていますので、今後は、ワントゥーテンのFacebookや試作室のWebサイトでチェックしていただければと思います。
-本日はありがとうございました。
【関連リンク】
・1→10drive 試作室
・ワントゥーテンFacebook
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