株式会社KDDI総合研究所は、撮影している映像をリアルタイムでカメラが存在しないアングルも含む任意の視点から視聴できる、自由視点VRリアルタイム制作システムの開発に成功したと発表した。
自由視点VRは、あらゆる視点からの映像視聴を可能とする自由視点技術を、複数のカメラから抽出された選手などの人物領域を3次元コンピュータグラフィクス(3DCG)モデルとして合成することによって実現するKDDI総合研究所の技術だ。
今回開発された技術を活用することで、スタジアムやコンサートなどライブイベントの開催と同時に、モバイル端末や大型スクリーン、ヘッドマウントディスプレイを介した任意アングルでのライブ視聴が可能となる。なお会場だけではなく、遠隔からのイベント視聴においても新たな体験価値を提供できるようになる。
これまでの自由視点VRでは、人物領域の3DCGモデルを表現するために数十万~数百万以上の膨大な数のデータを扱う必要があり、計算機での処理時間がボトルネックになっていた。例えば、従来10秒のハイライトシーンを制作するためには数十分の処理時間がかかっており、リアルタイム制作には程遠い状況だった。
さらに従来広く用いられている人物抽出技術では、撮影する背景舞台を青色や緑色に統一する必要があり、一般の撮影環境における抽出品質の向上が大きな課題となっていた。
今回、KDDI総合研究所は、自由視点VRコンテンツの制作において、従来の3DCGを構成する点群やポリゴンを介さず、平面の集合体としてモデルを表現する新しい方式を採用することで、制作処理の大幅な高速化(KDDI総合研究所の現行技術比60倍)を実現。
さらに、一般撮影環境への対応についてAIを活用した人物判別エンジンの高速化を図り、高精度な自動抽出のリアルタイム化を達成した。今回、両方式を併用することで、制作処理のリアルタイム化と一般撮影環境への適応に成功。リアルタイム処理により10秒のハイライトシーンは10秒以内に制作が可能だ。
今回の成果により、例えば柔道競技では競技中の選手を普段見ることのできないアングルからライブ観戦できるのに加え、3DCGと組み合わせてリング上で試合する様子を鑑賞するなどのバーチャル体験が可能になるという。
今後は、サッカーやバレーボールなどさまざまな撮影対象での評価を進めながら、次世代のモバイル通信方式である5Gでのサービス展開にむけて、同技術の実証実験を行っていく意向だ。
【関連リンク】
・KDDI総合研究所(KDDI Research)
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技術・科学系ライター。修士(応用化学)。石油メーカー勤務を経て、2017年よりライターとして活動。科学雑誌などにも寄稿している。