国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下、産総研)と昭和電工株式会社(以下、昭和電工)と先端素材高速開発技術研究組合(以下、ADMAT)は、AIの活用により、要求特性を満たすポリマーを設計する際の試行回数を約1/40に低減できることを見いだした。
この開発は、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト(プロジェクトコード:P16010、プロジェクトリーダー:村山 宣光 以下、超超PJ)」の委託事業として実施している。
超超PJでは、従来の経験と勘を頼りにした材料開発からの脱却を目指し、マルチスケールシミュレーションやAIを積極的に活用することで、従来の材料開発と比較して開発期間を1/20に短縮することを目指している。
具体的内容
昭和電工と産総研、ADMATは、ポリマー設計におけるAI技術の有用性を実証するため、AIを活用して要求特性を満たすポリマーの探索を行った。
モデルケースとして耐熱性の指標であるガラス転移点に着目し、構造とガラス転移点が判明しているポリマーの構造データ417種の中から最もガラス転移点が高いポリマーをAIで探索し、発見までに要する試行サイクルを短縮できるか検証した。
まず、無作為に抽出した10件のデータをAIに学習させる。学習データにはExtended Connectivity Circular Fingerprints (ECFP)という手法を応用し、ポリマーの構造的特徴を数値化したものを用いた。
次に、残りの407件の中から最もガラス転移点の高いポリマーをベイズ最適化(※1)を用いて予測・検証を繰り返し、実際に所望のポリマーを発見するまでの試行回数を調べた。データの選び方で結果が変わることを防ぐため、初期データを変えた試験を500回実施し、試行回数の平均値を評価した。
試験の結果、平均4.6回という極めて少ない試行で最もガラス転移点の高いポリマーを発見した(図1)。この値は、無作為にポリマーを選出した場合と比べて約1/40と非常に少ない値であり、AIによるポリマー設計の有用性を裏付ける結果と考えられる。
AIの構築には、ポリマーの特徴を数値に変換する必要がある。この開発では、モノマーの構造を表す手法であるECFPを応用することで、官能基などの分子の部分構造を自動的に抽出し、構造的特徴を数値ベクトルで適切に表せることを見いだした(図2)。
このデータから構築したAIの活用により、ポリマー1つ当たり0.25秒という非常に短時間で高精度の物性予測を実現し、限られた時間内で膨大な数の候補ポリマーに対して網羅的な物性予測が可能になった。
さらに、予測方法にはベイズ最適化*を用いることで、13.6件の学習データで約400種類の候補ポリマーの中から最もガラス転移点の高いポリマーを発見した。
従来、学習データが少ない場合、AIの予測精度が低くなりやすい課題があり、AIの活用には大量の学習データが必要と考えられてきた。この開発の結果は学習に使用できるデータが少ないと想定される最先端の材料開発においても、AIにより課題解決できる可能性を示唆している。
※1 ベイズ最適化:予測値だけでなく推定される誤差も考慮して、次の候補を選出する方法。
写真提供:産総研
【関連リンク】
・産総研(AIST)
・昭和電工(SHOWA DENKO)
・産総研リリースページ
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