国立大学法人佐賀大学農学部(以下、佐賀大学)ならびに佐賀県農林水産部(以下 佐賀県)、株式会社オプティムは、2015年8月に締結をした、IT農業に関する三者連携協定の実証実験の成果として、最新のIT農業に対する取り組みを2016年6月7日に開催した「IT農業の取り組み経過発表会」にて発表した。
同発表会では、IoT・AIを活用した最新のIT農業の取り組みや経済効果予測、その効果を最大限発揮するための新しい機器、自動運転による害虫発見、農薬自動散布を実現する「アグリドローン」、ハウス内作物の全天球画像分析を実現するロボット「アグリクローラー」、生産者と消費者をつなげる野菜の新しいコンセプト「スマートやさい」などが紹介された。
目次
IT農業に関する三者連携協定とは
IT農業に関する三者連携協定とは、2015年8月に、佐賀大学と佐賀県、オプティムとで「楽しく、かっこよく、稼げる農業」というコンセプトの下、世界No.1となるIT農業の実現を佐賀から行うべく締結した取り組み。産学官の三者による連携協定を行うことで、各々が持つ技術の融合を図り、技術開発の効率化、加速化、高度化、そして、現場技術として、生産者の方に着実に役立つ技術の開発を目指している。
同取り組みを通じて以下の三つのビジョンを達成するべく、三者で取り組んでいる。
●世界No.1農業ビッグデータ地域を目指す
●ウェアラブルでつながる世界で一番、楽しく、かっこいい農業ができる地域を目指す
●IoTで安心・安全で美味しい農作物を届ける世界No.1県を目指す
三者連携協定 活動状況
<2015年8月>
・佐賀県、佐賀大学、オプティムでIT農業に関する三者連携協定締結
・ビッグデータ収集チーム、ドローンによる関連圃場(ほじょう)全10箇所の撮影を開始
・ドローン撮影データと近赤外線による病害虫検出技術 共同特許出願
<2015年9月>
・佐賀県、佐賀大学、オプティムの三者での月次検討会開始
・ドローンによる撮影開始、画像解析実証実験開始
・スマートグラスによる農業活動のロギング研究開発を開始
<2015年10月>
・ドローン撮影画像の解析により大豆の害虫(ハスモンヨトウ)検出に成功
<2016年1月>
・画像分析に特化した課題解決を目的として、AI・画像解析チーム発足
<2016年2月>
・文部科学省が推進し、佐賀大学が取り組んでいる「地(知)の拠点大学による地方創生委推進事業(COC+:Center Of Community)」にオプティムが加わり、大卒者の地元就職率の向上と地域産業による雇用の拡大・創出を目指す
<2016年3月>
・施設園芸への映像解析技術導入
<2016年4月>
・佐賀の人材育成を目的に佐賀大学インターフェース科目「2年間でできる“がばいベンチャー”の作り方」を開講し、アントレプレナー育成を推進中。講師:渡邉 啓一(農学部)・田中 宗浩(農学部)・菅谷 俊二(株式会社オプティム、佐賀大学農学部招聘教授)
農業へのIoT導入効果の定量的評価を構築
現在は農業におけるITの活用により、へらす指標(経費、労力、労働時間、病害虫被害等)やふやせる指標(品質、収量、信頼、売上、後継者等)といった効果指標の仮説を品目ごとに明確化した。
三者連携では、ITを使って農業技術を効果的に適用することにより、農業収益の向上(稼げる農業の実現)を目指す。
自動でピンポイント農薬散布が行える「アグリドローン」
拡大するドローン市場において、産業へのドローン活用は農業分野が最も盛んな分野の一つとなっている。そこでオプティムではIT農業において有効なさまざまな機能を搭載したアグリドローンを開発した。アグリドローンを使用することで、農家の負荷をへらし、農作業の質を高めることが可能となるかの実証実験を佐賀県、佐賀大学、オプティムで行っています。
アグリドローンの特長
・自動飛行機能
設定されたルートをドローンが自動で飛行するため、オペレータの負担を大幅に軽減することが可能。
・カメラ切替え機能(近赤外線カメラ、サーモカメラなどマルチスペクトル撮影)
ドローンに搭載されているカメラを用途に応じて切り替えることができる。
・ピンポイント農薬散布
病害虫が発生している箇所へピンポイントで農薬を散布することで、不必要な箇所への農薬散布をせず、農作物を育てることができる。
・害虫駆除
ドローンにドローン対応殺虫器を搭載。害虫が活発に活動する夜間にドローン飛行を実施することで、農薬を使用することなく害虫駆除が行える。
アグリドローンの活用
2015年10月にドローン撮影画像の解析により大豆の害虫(ハスモンヨトウ)検出に成功。この技術の有効性を検証するため、2016年には、通常圃場とIT農業用圃場の比較研究を行っていく。通常圃場による大豆の生育と、アグリドローンを活用した自動害虫発見、駆除による生育調査を行っていく。そのほかの作物においても、病害虫の検知、生育管理などの実証を行っていく。
IoT、ウェアラブル機器やネットワークカメラの活用
ウェアラブル機器遠隔操作支援専用スマートグラス「Remote Action」
「Remote Action」の新型機を使用し、遠隔地にいる指示者からの作業支援を行っている。また、作業の記録を「Remote Action」から、「OPTiM Cloud IoT OS」へアップロードすることで、データ蓄積をスマートに実現している。
カメラ(ネットワークカメラ、全天球カメラ、アグリクローラー)
ネットワークカメラや全天球カメラ、アグリクローラーで撮影された画像を「Cloud IoT OS」上で解析することにより、施設での農作物栽培作業の効率化や生産量、質の向上が見込めるかを佐賀県、佐賀大学、オプティムで評価している。
<イチゴ栽培での使用例>
現在イチゴ栽培を行うハウス内にネットワークカメラや全天球カメラ、アグリクローラーを設置し、以下の観点で画像解析による分析を行っている。
・日中と夜間におけるイチゴの状態を比較
・生育の実態の確認
・イチゴの実や葉と実の生え方のバランスを調査
・イチゴの実上に確認できる種と種との間の幅(間隔)の計測や種の数をカウント
・ハウス栽培された高品質のイチゴと、高品質でないイチゴとの関係性
OPTiM Cloud IoT OS
アグリドローンやスマートグラス、ネットワークカメラ、全天球カメラ、アグリクローラーで撮影された画像や各種センサーのデータを、「OPTiM Cloud IoT OS」上に保存。保存された各種データを「OPTiM Cloud IoT OS」上で解析することで、より効率化が図れるようになるかを佐賀県、佐賀大学、オプティムで評価している。
次世代型やさいコンセプト「スマートやさい」の検討
「スマートやさい」とは、佐賀の地から届ける、IoTやドローン、スマートグラスなどを利用し、ITの力でスマートに育てられた、同取り組みの中で生まれた野菜のコンセプト。野菜の生産から消費まで、スマートに自己紹介(トレーサビリティ、プレゼン)し、スマートに顧客との長い関係(マーケティング、評価)を作り、スマートに顧客を笑顔にすることを目指すという(美味しさ、減農薬)。
また、生産者と消費者をつなぎ消費者同士をつなぎ、人の輪をつなぐ、ベジタブル コミュニケーション&トレーサビリティ プラットフォームを提供していく。
スマートやさい2016年夏モデルではトレーサビリティ機能を実現しており、今後随時新しい機能を提供していく。
「スマートに自己紹介」
「スマートやさい」は、パッケージに付与されている二次元コードを、スマートフォンなどの機器で読み取ることで、読み取った二次元コードの野菜の植え付けから成長過程、収穫までを専用のWebサイトで確認することができる(プレゼン)。購入した野菜がどのように育てられたかを一貫して確認することができるため(トレーサビリティ)、顧客は安心・安全に購入できる。購入方法は、販売業者、JAと相談してながら検討を進める。
「スマートにお客様との長い関係」を作る
生産者と消費者をつなぎ消費者同士をつなぎ、人の輪をつなぐ「ベジタブル コミュニケーション&トレーサビリティ プラットフォーム」を活用することで、「スマートやさい」購入者は、野菜ごとの専用Webサイトに味の感想や農家の方に対してのコメントなどが行える(評価)。さらに、農家の方も作物の生産を行う際に、顧客の声を考慮したり、野菜の予約状況等から生産計画を立てるなどのマーケティング要素として活用できる。
スマートに顧客を笑顔に
「スマートやさい」は、ドローンやウェアラブル機器、ネットワークカメラ、全天球カメラ、アグリクローラー等から収集した画像データや作業指示などを含む記録を、「OPTiM Cloud IoT OS」上で収集・解析し、連携協定を通じて蓄積されるビッグデータを元に育てられた。作業指示を通じて培われた野菜を作るためのノウハウが最新のテクノロジーと融合することで、さらに美味しい野菜を、農薬を極力使用せず、体に優しい野菜を育成してお客様の元へ届けられるよう目指していくという。
【関連リンク】
・佐賀大学農学部(Faculty of Agriculture Saga University)
・オプティム(OPTiM)
・スマートやさい
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