特許庁は、第四次産業革命との繋がりが深いIoT関連技術である「スマートマニュファクチャリング技術」や、バイオテクノロジー技術である「ゲノム編集及び遺伝子治療関連技術」等、社会的に注目を集めている分野を中心に選定した15の技術テーマで、特許出願情報の調査を実施した。特許庁では、市場創出に関する技術分野、国の政策として研究開発を推進すべき技術分野を中心に技術テーマを選定し、特許出願技術動向調査を実施している。
世界の特許出願件数が年々増加する中、第四次産業革命との繋がりが深く「Connected Industries」の実現に重要となるIoT関連技術については、一つの産業分野に閉じたIoT関連技術だけでなく、複数の産業分野にまたがる技術についての特許出願件数も増加している。また、バイオテクノロジー分野においても、近年の技術開発が、社会的に大きな注目を集めている。
そこで、本年調査した15の技術テーマのうち、IoT関連技術として「スマートマニュファクチャリング技術」、「クラウドサービス・クラウドビジネス」及び「施設園芸農業」、また、バイオテクノロジー技術として「ゲノム編集及び遺伝子治療関連技術」及び「人工臓器」について、以下紹介された。
スマートマニュファクチャリング技術
スマートマニュファクチャリング技術をはじめとする、工場におけるIoT活用には2025年に最大3.7兆ドルの経済効果が期待されており、IoT技術の様々な応用分野の中でも、経済的な効果が最も高いと予測されている。
スマートマニュファクチャリング技術全体では、日本からの出願が最も多く、調査対象の出願の4割超だったものの、工場内の改装モデルにおける階層を飛び越えたデータ転送技術や、人工知能を利用した解析技術では、米国からの出願が最多だった。
日本の目指すべき方向として、次の点に注目して研究開発を進める必要があるという。
- 階層を飛び越えてデータを伝送する技術など、経営層がPDCAサイクルを回すために必要な情報をリアルタイムに効率良く収集する仕組み
- 「人工知能(AI)」などの高度な情報処理技術の活用
クラウドサービス・クラウドビジネス
クラウドサービスの中で最大の市場規模を有するSaaS(Software as a Service:クラウドを介してソフトウェアを提供するサービス形態)は、市場の寡占が進んでいないため(5%以上のシェアを有するのは3社のみ)、中小・ベンチャー企業を含め、新規参入に適しているという。
SaaS市場での特許出願動向による注目領域は、4つの応用産業分野(i.医療・福祉、ii.運輸業等、iii.製造業、iv.電気・ガス等)と、用途・機能ではIoTに関連する機械監視。これらの注目領域においては、AIの活用が期待されている。
注目領域において、クラウドにAIを組合せることにより、既存市場の獲得、新たなクラウドサービスの創造に注力すべきとしている。
施設園芸農業
日本の食料自給率を向上させ、日本ブランドの作物を海外展開するためには作物の生産性・品質のさらなる向上が必要。そこで、ICT・IoT技術を駆使した植物工場など、施設環境の高度な計測・制御により高収率化・高付加価値化を実現可能な施設園芸農業を拡大することが重要だ。
施設園芸農業に関する出願件数は、年間数百件程度だったが、2008年以降は毎年数百件ずつ増加し、現在では年間2千件を超えている。特に、「人工光型植物工場」に用いられる照明とその制御技術については、他国に比べて日本からの出願件数が最も多く、日本が強みを発揮しているという。
日本が強みとする「人工光型植物工場」の特長を活かして、作物の高収率化・高付加価値化を図り、施設園芸農業市場を拡大することが望まれる。
ゲノム編集及び遺伝子治療関連技術
生物のゲノムの標的配列に特異的な切断、挿入を行うことができるゲノム編集技術は、近年画期的な標的認識技術である「CRISPR」が開発され、既存の技術である「ZFN」等と共に、今後遺伝子疾患の治療・診断や有用品種の育種など多方面の産業への応用が期待されている。
特に「CRISPR」関連技術は、2012年の論文報告以来、論文発表に加えて、特許出願数が全世界で急増しており、各国の研究グループによる知的財産権確保の勢いが加速している状況にある。このような状況下、日本からの特許出願数の増加は、論文発表数の増加に比して緩やかであり、研究成果の特許化の点で課題があると考えられる。
ゲノム編集関連技術に代表される新規革新的技術に対し、日本としても早期からキャッチアップし、投資サイクルを回し、質の高い知的財産権を確保していく必要があるという。
人工臓器
人工臓器の世界市場は年率8%前後の成長が期待され、2019年には約2兆円となる予想であり、従来の人工材料に代わる生体由来材料を活用した新タイプの市場拡大が見込まれる。
新タイプの人工臓器に関する特許出願数をみると米国からの出願が多いものの、ティッシュエンジニアリングの細胞シート工学法では日米がほぼ同規模の出願数だという。
当該市場で日本が巻き返すためには、産学連携や異業種連携を一層推進し、新タイプの人工臓器において、技術的なブレークスルーを牽引することが必要としている。
これらの調査結果を活用し、例えば、他の産業との繋がりを生み出せるIoT関連技術を活用した新たな製品・サービスの開発など、自らの強みを更に広げることが期待される。特許庁も、これらの調査結果を積極的に情報発信していくという。
※平成28年度調査実施テーマ一覧
- スマートマニュファクチャリング技術
- クラウドサービス・クラウドビジネス
- 施設園芸農業
- ゲノム編集及び遺伝子治療関連技術
- 人工臓器
- 移動体用カメラ
- 電池の試験及び状態検出
- ASEAN各国及びインドにおける自動車技術
- ファインバブル技術
- 繊維強化プラスチック
- LTE-Advanced及び5Gに向けた移動体無線通信システム
- 次世代動画像符号化技術
- GaNパワーデバイス
- 高効率火力発電・発電用ガスタービン
- 水処理
出典:経済産業省ウェブサイト
【関連リンク】
・経済産業省(METI)
・特許庁(Japan Patent office)
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