マイクロソフト、イノベーション共有の時代に向けた新たな知財戦略

今日、すべての企業がある意味ではソフトウェア企業であるといえる。

自動車メーカー、小売業者、ヘルスケアプロバイダー、金融サービス企業といった顧客は、マイクロソフトのソフトウェアを使用して自社ビジネスを変革するだけでなく、マイクロソフトのコンサルタントやエンジニアと協力し、マイクロソフトのプラットフォーム上で稼働する新しいデジタル製品やサービスを作り出している。

将来的に、クラウドサービス、データアナリティクス、AIの普及などにより、この傾向はますます強まっていくとマイクロソフトは考えているという。

これが、マイクロソフトが Shared Innovation Initiative を発表した理由だ。この取り組みは、共同開発されたテクノロジと知的財産(IP)の課題に対応し、顧客が確信を持ってマイクロソフトとの協業を行えるようにするための規範に基づいている。

また、テクノロジによる顧客のビジネスの成長とマイクロソフトによるプラットフォーム製品の継続的改良の間の健全なバランスを生み出すことを目標にしている。

デジタルトランスフォーメーションの良い例として、韓国の 365mc Hospital のソリューションが挙げられる。

同病院は、マイクロソフトと共同開発したモーショントラッキング AI アプリケーションによって、手術の正確性と安全性を向上している。

センサーによって手術中の外科医の手の 20 億回以上の動きのデータを収集し、機械学習を使用したパターン認識により、「外科医の GPS」とでも呼べる機能を提供している。

この AI システムは手術中に外科医をガイドし、ミスが起きそうな時には警告を発し、対策を提案する。これによって外科医は患者のリスクを低減しながらスキルを学ぶことができる。

同病院は、このテクノロジを自院のビジネスに適用することに加えて、ソフトウェアと研修プログラムを他の病院に外販することによって、新たな事業ラインと収益ストリームを確保する計画だ。

このようなテクノロジ企業とその顧客のコラボレーションが増すにつれ、特許などの知的財産の扱いに関する課題が生まれる。

顧客の主要特許を新たなソリューションに適用するというアプローチがなければ、テクノロジ企業が自らの知識に基づいて顧客の市場に参入し、おそらくは顧客と共に作り出した知的財産を使って、顧客と競合することになるのではないかという懸念の声が高まっている。

過去において、マイクロソフトが重要な課題や懸念材料に遭遇した時には、ビジネスの指針となり外部への説明にもなる規範を作成し、公表することが有効だったという。

10 年以上前にWindows Principles を公表して以来、Interoperability Principles、Privacy Principles、そして最近ではCloud Trust Principles を公表してきた。新たに公表された Shared Innovation Principles は、以下の 7 つの領域をカバーする。

1. 既存テクノロジの所有権の尊重

協業を開始する時、マイクロソフトと顧客はそれぞれ既存のテクノロジと IP を持ち寄る。顧客との協業の結果としてそれぞれのテクノロジに対して行われた改良も、それぞれが所有することになる。

今日の世界において、新しいテクノロジの共同開発が無から行われることはほとんどないとしている。マイクロソフトが既存の製品、IP、専門知識を持ち込み、多くの場合顧客も自社の領域における世界有数の専門知識を活用して、同じことを行う。

共同開発では、両者が相手の IP を尊重することが大前提だという。

2. 新たな特許と意匠の権利は顧客が所有

協業により新たなテクノロジが作られた時には、マイクロソフトではなく、顧客が共同イノベーションの成果の特許権と意匠権を取得することになる。

特に重要な点として、これは、マイクロソフトが新しい発明の出願手続きに協力することを意味する。また、共に作り出した特許の権利を顧客のものにするということも意味する。

3. オープンソースのサポート

共同イノベーションの成果としてソースコードが開発され、顧客がオープンソースとしてのライセンスを希望される場合には、マイクロソフトはそれに協力する。

マイクロソフトはオープンソースに積極的に貢献しており、顧客が選択した時には、共同開発コードをオープンソース化することを歓迎するという。

マイクロソフトは、Linux カーネルにコードを提供し、世界中のデータサイエンティストに使用されている統計プログラミング言語である R の強化にも貢献した。

今日、Azure で稼働するバーチャルマシンの 40 パーセント以上が Linux を使用している。既存プラットフォームテクノロジの一部は、オープンソースコードを利用して開発された。

マイクロソフトは、.NET、 Visual Studio、SQL Server といった多くのテクノロジを Linux 上に移植している。顧客が共同開発の成果物を GitHub 上でリリースすることを希望されることがあるが、その場合にはマイクロソフトも協力する。

4. 新 IP のマイクロソフトへのライセンスバック

マイクロソフトは、共同イノベーションの結果として得られた特許権と意匠権のライセンスを得ますが、その目的はマイクロソフトのプラットフォームテクノロジの機能向上に限定される。

ここで言うマイクロソフトのプラットフォームには、Azure、Azure Services (例: Cognitive Services)、Office 365、Windows、Dynamics、Enterprise Mobility and Management、Cortana、Bing、Xbox、Xbox Live、HoloLens、Systems of Intelligence (例: Customer Care Intelligence、Market Intelligence、Sales Intelligence) の現在、および将来のバージョン、そして顧客のビジネスを技術的に支援するためにマイクロソフトが開発、または開発を委託したコードとツールが含まれる。

5. ポータビリティ

マイクロソフトは、顧客が所有する共同イノベーションの成果を他のプラットフォームに移植することを制限する契約条項を設けないという。

今日の世界では、顧客は共同開発した成果物を将来必要なときに他のプラットフォームに移植する上で、契約上の自由を維持したいと望んでいるという。

マイクロソフトはその権利を尊重するという。マイクロソフトは誰よりも優れた性能と価値を提供することで、顧客を維持することにコミットしており、顧客が希望しないプラットフォームへの囲い込みは行わないとしている。

6. 透明性と明確性

共同イノベーションの進行に伴い、発生し得る IP 上のあらゆる課題について、マイクロソフトは顧客と協力して透明性と明確性を維持する。

IP 上の課題は複雑になり得るため、プロセス全体を通じて顧客にとっての透明性と明確性が確保されなければ共同イノベーションはうまく行かないという。

マイクロソフトは、顧客が常に明確で完全な情報を得られるような体制を整え、プロセスを定義することにコミットしている。また、共同イノベーションにおいて生じた疑問や課題への迅速な対応を支援する担当役員を任命する予定だ。

7. 学習と改善

マイクロソフトはこの取り組みから得た教訓を活かし、将来の共同イノベーションをさらに改善していくという。

共同イノベーションは先進的テクノロジ開発における次のフロンティアだ。これらの規範が重要なステップであることには確信を持っているが、これが必要な最終形であるとは考えていないという。

【関連リンク】
マイクロソフト(Microsoft)

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