お馴染みの、「鉄腕アトム」。そのカラダを支える技術は、センサー、高速通信、人工知能(AI)、そしてロボティクスだ。
東京スカイツリータウンで、7月15日から7月28日まで開催されている、「Society5.0科学博」の特設パビリオンで、「もし鉄腕アトムを再現するとしたら、今ある技術では、きっとこういうものが使われるのではないか?」という展示が行われていた。
そこで、具体的に鉄腕アトムのパーツとなり得る技術はどういう技術なのかについて紹介していく。
目次
アトム分解図
アトム分解図をまとめると上記のようになる。下記では、それぞれの詳細をみていく。
アトムの鼻
匂いセンサー
アトムの鼻になるものとして、国立研究開発法人 物質・材料研究機構 (NIMS)の味覚IoTセンサーが展示されていた。 限られたニオイサンプルの中で基準となるニオイ「擬原臭 (ぎげんしゅう) 」を選定する技術を、嗅覚センサーと機械学習を利用し開発した。
この擬原臭という新概念を導入することで、様々なニオイを擬原臭として選定された数種類のニオイの混合比で表す「デジタル化」が可能となるという。これにより、色のように、ニオイも分解・合成が可能となり、ニオイの記憶、学習、送信、理解、さらには見える化も促進できる。
アトムの肌
湿潤センサー
これはただの湿度センサーではなく、湿度の「質」がわかるセンサーだ。従来の湿度計・結露計では微小な水の存在を検知することは不可能だというが、このセンサーは湿度の粒が大きくベタっとした湿度なのか、粒が小さくさらっとした湿度なのかを見分けることができる。
熱流センサー
国立研究開発法人 物質・材料研究機構 (NIMS)は、人間の体感に近い温度を感知し、発汗状態をモニタすることができる技術を開発した。磁性体特有の熱電現象を用い、薄くて軽く、低価格で加工性に優れている素材を使う。
この熱流センサーは、アトムの肌に使われることを想定していたが、他の応用としては、太陽光パネルに用いて効率的なエネルギー変換率を可能にしたり、土壌の熱変化を調べ気象観測に利用したりすることを想定しているという。こちらも、国立研究開発法人 物質・材料研究機構 (NIMS)が開発したものである。
アトムの関節
人工関節
人工関節は、病気やけがなどで関節が変形したり、壊れたりしたときに使用する人工材料だ。その他にも生まれつきの体質や加齢、その他の病気によって特殊な形の人工関節が必要な場合、3Dプリンティング技術を使ってその人の体にあった人工関節をつくることができる。
帝人ナカシマメディカルによると、近い将来、人工関節をオーダーメードで作れる時代がやってくるという。
アトムの頭
アトムの頭脳として、国立研究開発法人情報通信研究機構、サイバーセキュリティ研究室で行っている研究開発の一部が公開されていた。
インシデント分析センターNICTER(ニクター)
映し出されていた映像は、サイバー空間(=インターネットの世界)を世界地図と重ねて描いているものだ。さまざまな色の矢印は、実際に起こっているサイバー攻撃を可視化したもので、矢印の出発点が攻撃を出している場所、到着点が攻撃を受けている場所。
世界中から無差別に行われるサイバー攻撃を観測・分析している。
対サイバー攻撃アラートシステム DAEDALUS(ダイダロス)
流れていた映像は、サイバー空間で攻撃を出している会社・学校・自治体などの組織に、警告している様子を可視化したものだ。中央にある球体がインターネットを、その周りにあるリングが組織を表している。
リングの中で「警」のマークが表示されているところが、実際にサイバー攻撃を出している場所で、その組織にはすぐに警告が送られている。
サイバー攻撃統合分析プラットフォーム NIRVANA改(ニルヴァーナ・カイ)
流れていた映像は、組織のネットワークを流れる通信や、組織を守るセキュリティ機器が出した警告を可視化したものだ。平面のパネルがネットワークを表し、六角形のマークは警告の原因となった場所を指している。
警告の重要さを0から9までの数字で表すことで、組織のネットワークを管理している人が、どこでどのような異常が起こっているのかを簡単にわかるようにしている。
高感度磁気センサー
アトムの脳波をキャッチするものとして、国立研究開発法人 物質・材料研究機構 (NIMS)の高感度磁気センサーが展示されており、ねじを手で持つと、ライトが光るデモンストレーションが行われていた。たいした磁気を帯びていなくても、高感度であることにより、センサーが磁気を検知する。将来的には、脳波や心臓のパルスなども測ることも想定して作られているそうだ。
アトムの口
voice tra
実際の鉄腕アトムは、60か国語を自在にあやつることができる。展示では、60か国語とまではいかないが、31言語に対応したAI多言語翻訳システムvoice traが紹介されていた。
これは、英語、スペイン語、中国語はもちろん、ネパール語やクメール語など日本ではあまりなじみがない言語もサポートされているという。分野に応じてAIが学習し、翻訳の精度をあげていく。
アトムのボディ
しなやかタフポリマー
人類が発明した素材の中でもっとも広く使われているのが、プラスチックだ。しかしプラスチックは壊れやすかったり、もろかったりと扱いにくい側面もあった。
今回新しく開発された「しなやかタフポリマー」は、薄く伸ばしても壊れにくく、頑丈で扱いやすいのが特徴だという。さらに自己修復機能や形状記憶機能も持っている。展示では、このしなやかタフポリマーがコンセプトカーに使われていた。
アトムの足
義足
アトムの足になるものとして、CYBERDYNEの装着型サイボーグHAL(ハル)が展示されていた。HALは単に人を支え動くというものではない。装着した人の「動こう」という意思は脳から電気信号の形で筋肉として伝わるが、その微弱な電気信号をHALのセンサーがとらえ装着した人の動きたい意思を実現する。その様子は下記のデモ動画でご覧いただきたい。
アトムの目
LiDAR(ライダー)
LiDARとは、光を用いたリモートセンシング技術の一つで、レーザー光を使って対象物に光を照射し、その反射光を光センサでとらえ、遠距離にある対象までの距離やその対象の性質を分析するものである。
来たるべき超スマート社会Society 5.0における、工場や倉庫におけるロボット、農機・建機、さらには自動車等の自動運転のために、光を用いた測距システムであるLiDARが極めて重要となっている。
ここでは、京都大学がLiDARの小型化の開発に成功したとして、従来の1/3の体積のLiDARを展示していた。
アトムの耳
音源探知ドローン
アトムの耳として紹介されていたのが、ドローンだ。単なるドローンではなく、音源探知ドローンである。災害や事故現場などで状況確認をしたり、助けを求める人を探したりするのに役立っているドローンだが、カメラだけだと、がれきの中や真っ暗な場所での捜索には向いていない。
そこで開発されたのが高感度のマイクロフォンデバイスだ。マイクがドローンの耳になって、ドローン自身のプロペラや騒音の風、雨の音などがあっても、助けを求める声や音ををしっかりキャッチする。
アトムの心臓
原作の鉄腕アトムは、「原子力(後に核融合)をエネルギー源として動き、人と同等の感情を持った少年ロボット」だが、今の時代に実際に原子力を使っていくのは難しい。
そうなるとどういう代替エネルギーがいいのかという観点で、下記の3つが提示されていた。
水素エネルギー
石油や石炭などの化石燃料は、自動車や火力発電所、工場などの燃料として大きな役割を果たしているが、化石燃料を燃やすと二酸化炭素が発生し、地球温暖化の原因となる。そこで、燃料として使うときに二酸化炭素を出さないクリーンなエネルギーとして、水素が注目されている。
水素をつくる方法のひとつに「水の電気分解」がある。将来、社会全体で水素を利用するには、国内や海外にある自然エネルギーの発電所(太陽光発電、水力発電など)の電気で水素を大量につくり、安全に貯蔵・輸送することが必要である。
今後、そのための新しい技術が生み出され、水素で走る燃料電池自動車(FCV)やバス、電車といった乗り物の他に、水素発電所などが登場することが予想されている。
アンモニア燃料電池
上記で水素のメリットについてあげられていたが、水素を使って発電する燃料電池は、炭素を含む化石燃料から水素をつくると二酸化炭素が発生してしまう。そこで、別の角度から注目を集めているのがアンモニアだという。
アンモニアは水素と窒素からできていて、水素をつくっても二酸化炭素はできない。そこでアンモニアを燃料として直接利用する燃料電池も開発されている。
アンモニアは肥料や工業製品の材料として、すでに世界中で多く使われていて、安全に運び、貯蔵する技術を持っている。アンモニア燃料電池が普及することで、二酸化炭素が発生する量を少なくし、地球温暖化を食い止められるのではないかと期待されている。
スーパーキャパシタ
電気をたくさんためられる技術として、「スーパーキャパシタ」が展示されていた。このスーパーキャパシタがあれば、数分で充電ができ、一度の充電で200km以上走行できる電気自動車ができるという。
キャパシタとは、蓄電装置の一つである。化学反応を利用する電池とは異なり、キャパシタは電気を電子のまま蓄える。そのため、急速な充放電が可能となる。
以上が、特設パビリオンで展示されていた内容である。
原作の鉄腕アトムは、足からジェットの炎を吹き出して空を飛ぶ。大気中ではこのジェット噴射で、最高速度マッハ10を出す事ができ、宇宙空間ではロケットエンジンに切り替えて飛ぶ事ができるが、関係者によると、「この技術に関してはまだ実現できるものがないのではないか?」ということで展示はなかった。
7月28日まで展示されているので、未来の技術に興味がある方はぜひ見に行ってほしい。
Society5.0科学博の概要
2021年は、「第6期科学技術・イノベーション基本計画」の初年度で、ここで書かれている「Society 5.0」の未来像のイメージのほか、SIP・ImPACTといった内閣府が進める取り組みの成果や、国の研究機関等における先端的・独創的な技術を200点以上の展示物として集結し、学技術の面白さや大切さを目に見える形で発信するものだ。
開催場所
東京スカイツリータウン
開催期間
7月15日(木)〜7月28日(水)
※天望回廊の展示は9月5日(日)まで
主催
内閣府・国立研究開発法人海洋研究開発機構
フロア案内
- STAGE1:1Fソラマチひろば「Society5.0のはじまり」
- STAGE2:1F団体ロビー「科学技術のフロンティア」
- STAGE3:4Fスカイアリーナ 特設パビリオン「Society5.0の未来像」
- STAGE4:千葉工業大学 東京スカイツリータウンキャンパス「Society5.0シアター」
- STAGE5:天望回廊「Society5.0への軌跡」
公式サイト
Society 5.0科学博 https://society5expo.jp/
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