AIは人間を超えるか?
そんなホットなテーマで、開催されたWearable Tech 2015のパネルディスカッション。
あまりにも興味深い議論であったので、なるべくそのまま掲載する。
【登壇者】
SNS株式会社 堀江貴文 氏
脳科学者 中野信子 氏
ロボット開発者 林要 氏
モデレータ 湯川鶴章 氏
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堀江: コンピュータは記憶容量や消さなくてよいという面で、性能面では人を超えているとも、超えていないとも言える。
ディズニーのインサイドヘッドという映画などは、脳の仕組みをわかりやすく説明していると思う。
例えば、クラウドなんて言葉は昔からあったが、みんなが使うようになったからそう呼ぶようになったのだけど、AIの一つの分野で音声認識や翻訳などが進化したのは、クラウドのおかげだ。
Googleの検索システムのおかげで、膨大な間違いの情報を蓄積した結果が正解に近くなったのだ。つまり、AIにおいて正しい答えを出すには、膨大な量の失敗をする必要があるのだ。
子供も、お父さんのことをなんども呼び間違えるけど、「パパ」といった瞬間に、お父さんがいい反応をしたから、「お父さんをパパと認識していく」、それと同じだ。
音声認識やAIは長らく研究されているが、SiriやGoogle翻訳のように、ようやく正解の道筋が見えてきたのだと思う。
中野: 私が面白いと思ったのは、「忘れてしまったほうが、学習はより良くなる」ということだ。知識を膨大にしていくだけでなく、わざと忘れてしまうほうが精度が上がっていくのだ。
記憶力を良くするにはどうしたらよいのでしょうか?暗記ができなくて困ってますという質問を受けることが多いのだけど、本当は忘れるのが適切だから忘れるのであって、忘れるというは悪いことだと思いがちだ。そして、忘れるのを補完するために機械(コンピュータ)がある。
なので、コンピュータが人を超えるというのは発想として変な気がしていて、コンピュータが人を超えるのを恐怖に思うのはなぜなのか?と思っている。
ー人類を超えるという定義を、「機械が進歩して、人間より賢くなって、仕事がなくなってしまうような時代がくるのか?という」定義で話したい。
堀江: すでにそういう時代がきているのではないかな。今も自分も遊んでいるだけで、仕事をしている気がしない。ロボットは労働コストとのトレードオフだと思う。
例えば、私はバンコクに昨日までいたが、自動ドアにするよりドアマンのほうが給料が安いから、ドアマンをおいているのだ。といっていた。
林: ロボットというのは、繰り返しの作業を人にかわってやるようになってきた。僕らが今問題としている部分は、「利害関係の一致しない人たちをどう、仲裁するのか?」といったAIではできないことだ。
それで、AIはツールとしてというより、信頼関係を得て、利害関係をどう調整するか?という課題は解決できないと思うのだ。人間を超える、超えないというより、新しいツールが出ると見るのがよいのではないかと思っている。
堀江: 僕は、ロボットは身体系をもっているとおもっている。実際は、僕らがよく気にしているようなロボットの形ではなく、監視カメラが目になったりするのだ。ハリウッド映画で、監視網の話がでるように。その世界では、ネット網が神経のような役割を果たす。
コンピュータは、自分の意思(自分で自分の意思)を生み出すことができるようになってくる気がしていて、自分が自分であると信じることで、自分の意思を持つようになると考えている。
中野: 意識の問題は実は議論が起こることだ。よくある誤解としては、人間のカラダと心は別物だという話だが、実際は体の抹消でうけた反応が心の反応になるケースは多い。例えば、笑顔をつくれば、楽しい気持ちになる、力強いポーズをすることでやる気がでる、などだ。
自分の体と他人の体が別々だと認識しているが、それ自体脳が認識していることなので、他人の脳と混線することもあり得る。自分の体がここまでだと認知しているのだが、それが壊れるとこういうことが起こりえるのだ。
例えば、ラバーハンド実験という二人羽織の実験では、他人の体が自分の体のようにとらえることができている。
堀江: 僕もこういうことはコンピュータでできると思っていて、自分の意識が自分が自分であると思い込んでいるだけなので、例えば、解離性人格障害などは人工的に作れるのだと思う。
林: 自分が認識している部分のうち、言語化できている部分だけを言語化しているので、実際はもっと多くの情報を得ているということがある。
コンピュータが脳を持つとしても、生殖・増殖の考え方が違うので、違う存在として、ロボットを認識することになると思う。
グローバル社会の中で、様々な人種の人と交わろうとしてきたのと同じ行為が起きると思う。
ー人間と全く同じものを作ろうという動きもある。何世紀もかけて人がやってきた進化をロボットもたどるのか?
中野: そもそも脳が優れた機械だとは思っていない。人々の苦しみの元凶となっている脳がすばらしいとは思わない。
これは、生殖のことがあって、個体を犠牲にして、個体を存続させるための理性を麻痺させて、生殖活動を行う必要があるので、脳がある。
ロボットには、それがないので、わざわざ人の脳の苦しい状態を満たすような機関をギミックを持つ必要がない。
まずは、生き延びるということと、生殖活動をすることを考え、たてましたてまししてきた脳を、わざわざコピーせず、最初から綺麗に設計してつくればよいと思う。
林: 人工知能が人間を凌駕して、滅亡するという話があるが、もし、人工知能に意思があるとしても、人を滅ぼすメリットがロボット側にない。
今起きている議論は、天動説が地動説に変わった瞬間のようで、新しいプレーヤーがくることを恐れているだけで、ロボットからしたらメリットがない。
中野: 人間にとって仕事を奪うロボットはいらないという話になっているだけではないか。
堀江: それについて、人は仕事をしないと食べていけないと思う人が多いが、そんなことはない。
食料はほとんど廃棄しているからロスを減らすようなITのソリューションはすでにできてきている。自動車もシェアでいいし、農業生産だってどんどん自動化しているのでほとんど人間が介在する必要はない。実際、日本の政治を見ると、自国の農業の保護といって非効率なことをしているのはナンセンスだ。
中野:「働かざるもの、食うべかざる」が、ロボットの登場によってどう変わるか?だと思う。
堀江: そういう常識は、150年前の考え方でみんなが一所懸命働いていた時代の価値観。今は、ずっと遊んでいればよいと思われる。なので、投資先として注目しているのは、エンターテイメント産業だ。これからは、遊んでいる人がヒーローになる時代だ。
例えば、タイの田園に、ウェイクボードを永遠遊び続けている人がいて、楽しいのだが、そういう遊びが一般化したら遊んでいるだけなのに生活ができるし、インストラクターにだってなれる。これからは、こういう産業がいっぱい出てくる。田園はどうしているかというと、機械が耕している。
これから、ユニクロが週休3日制にしたように、休みが増えるので、遊び方を教えてあげるのが大きな産業になっていくと思う。
林: 人間は、今後は無意識下で発生する五感を刺激することが楽しさになる。
なので、エンターテイメントがロボットが残す最後の聖域になる。
中野: 機械の登場によって、専業主婦の概念が変わった。
昔の主婦は、安価で労働ができる、家庭に一台あるロボットだったが、機械がやってくれるようになって、子育てもアウトソーシングできるし、家事は機械がやってくれる。今や、主婦は憧れの職業だ。一方、自己実現がみたされないのが悩みだけど、ここはロボットがやってくれない。
林: 僕は2つのロボットが活躍する余地があると思っている。
一つは、教育だ。つねに24時間一緒にいるロボットが無意識下で人に働きかけて教育をしていく。というのは可能性があるのではないかと考えている。
もう一つは、存在感を認めてあげるというのがある。Pepperをやっている時、女性から要望があったのが、話をとにかく聞いてほしい。聞いてあげるだけであれば、今の人工知能をチューニングして、会話の内容を変えていけばよい。
堀江: 今でもペットのやりとりは同じだ。
林: 究極的には仏像でよいのではないかと思っている。少しだけコミュニケーションすればよいと考えている。
−大阪のロボットメーカーで、「ペット以上、人間未満」という市場を考えている。そのあとは友達以上、自分の分身になるというところをやりたい。という会社がある。
堀江: 私は、スマホを取り出してツイッターなどをやっていると。その先にいる大勢の人は、人なのだけど、完全じゃない人だ。でも、それが何万人といると集合意識のような気分になってきて、「すごい人」がいるように感じられる。
中野: 大衆が歴史に登場したのは、昭和の戦前期だ。新聞が発明されて、大衆の声を反映してきた。今は新聞の代わりにTwitterがあり、意思を持っている。オリンピックのロゴ問題でも、大衆がいじめをしていた。
いじめをやらないと人間は集団を維持できないのだ。強力な仮想敵が現れないと、いじめは無くならない。
堀江: そこはプライドの問題があると思う。自分のプライドを下げることで、人も自分にとってアプローチしやすくなる。
自分の弱いところだすことで、周りの人たちが話しかけやすくなるという性質がある。と考えている。
いじめというのは、自分のプライドを満たす行為だから、自分のプライドを下げれば問題がなくなるが、ネットの暇人はプライドが高いから細かなことを叩きたくなるのだ。
中野: たたくという快楽が脳に仕込まれているということを知らないといけない。集団を維持したい場合は、ただ乗りしている人を排除していかないといけないのだけど、ただ乗りしているように見える人を排除するときに大きな快感を得るような気持ちになっている。
ロボットに可能性があるとしたら、昨今の我々は仕事を集団で生きる必要がなくなってきている。そうすると、一人で生きられるようになっているから、誰かをいじめることによって快楽を感じるということがなくなることがある。
堀江: 今は好きな人とだけいればよい世の中になってきている。
同じ人とばかり、人生の時間を過ごし、集団でいきていくという小学校は不自然だ。そもそも、小学校生活は軍隊教育のために必要だったものだ。
教育なんか受けなくていいという前提で、その後集団で生きたい人は集団で生きていけばよい。一人でいるのが楽しい人もいる。そういう様々な可能性を許容する世の中にすでになっているのだが、過去の経緯上、集団で生きて行くということになっている。
中野: アメリカの学校だと、週休2日より3日のほうが教育効率があがったという結果ができている。
できる子が学校に行くのは無駄で、学校に行く時間を無駄に過ごさなければいけなくなる。親同士の見栄の張り合いに巻き込まれるだけだ。
eラーニングで教育するのもよい。
なぜ、日本からイノベーションが起きない理由は、底辺に合わせる教育をしているからだ。目立つ子は排除されるので、イノベーションなど起きるわけがない。
林: イノベーションは非合理性を是としているからではないかと思う。人間がAIと違う理由は、ありきたりでない、パッションを持っている非合理性があることがイノベーションを起こす。好きなことだけをやるというパワーは人間にしかない特徴となるだろう。
中野: 非合理性の最たる例としては、宗教のパラダイムがある。必ずしも自明ではないことを自明なものとして受け入れることで、非合理的であることの合理的な説明だと思う。そういうことをAIに入れこむ意味があるのかがわからない。
林: 非合理性は、AIに入れる必要がないのだと思う。
堀江: 成功の確率がわからないか、成功した時のリターンがわからないと、AIはそこに向かえない。一方人間は、リターンの見えないことをずっとやってきたのだと思う。
生物は、隕石が落ちてきたらどうしようなんてことは考えない。非合理なところに生きていた人がいるから僕らも生き残っている。
中野: 最適戦略をとるのか?好適戦略をとるのか?好適戦略とは、ある程度みたされると、そこで最適化をやめるということだ。
そういう種のほうが生き残れる。
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脳科学者である、中野氏の話を生で聴きながら、ロボットを作ってきた林氏と、広範囲に知見がある堀江氏のやり取りをみていると、彼らの見る世界が本当にそこに来ているかのように感じた。
また、AIやロボットが人を超えて、人の生活を脅かすという議論があまり意味がないことではないかとすら感じた。
なぜなら、「ロボットにとって人間を駆除する意味がない」からである。
人間の脳が認識している世界は、長い年月をかけて作られてきたから簡単に変えることはできないが、脳の動きを知ると何をロボットで補っていくべきか?ということが自ずとわかった。
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IoTNEWS代表
1973年生まれ。株式会社アールジーン代表取締役。
フジテレビ Live News α コメンテーター。J-WAVE TOKYO MORNING RADIO 記事解説。など。
大阪大学でニューロコンピューティングを学び、アクセンチュアなどのグローバルコンサルティングファームより現職。
著書に、「2時間でわかる図解IoTビジネス入門(あさ出版)」「顧客ともっとつながる(日経BP)」、YouTubeチャンネルに「小泉耕二の未来大学」がある。