Pepperに、「一般販売モデル」と「法人向けモデル」があることをご存じだろうか?
例えばこれまでは、店舗の前にPepperを設置し「いらっしゃいませ」と言わせたくても、基本的に「一般販売モデル」ではそのような使い方は推奨されていなかった。もしくは、Pepperの購入費用とは別に、数百万レベルの開発費用をかけるのであれば可能であった。
しかし、そうとは知らずに一般販売モデルのPepperを、店舗や会社用に購入した人も多く、相談が相次いでいたという。その対応をしていたのが、ソフトバンク・テクノロジーの100%子会社で、2000年に設立したM-SOLUTIONS(M-SOL)という会社だ。M-SOLは、Pepperのアプリ開発などを手掛ける会社で、2014年からこれまで20弱ほどの Pepper 用アプリを開発したという。
これまでは、個人向けに家庭での利用を前提とした「Pepper(一般販売モデル)」のみが販売されていたが、今年の10月に「Pepper」の法人向けモデル「Pepper for Biz」がスタートし、それに合わせて簡単にPepperを喋らせることができる「Smart at robo for Pepper」というサービスをリリースした。
そのサービスをスタートした背景などを、M-SOL 取締役 植草 学さんに伺った。

-「Smart at robo for Pepper」について教えてください。
どうしてこのサービスを作ったかというと、これまで我々が作ったアプリというのが「一点もの」で、他に流用できるものではなかったからです。
お客様のお話を聞くと、お店の前で「いらっしゃいませ」「16時になったらタイムセールですよ」といった事や、イベント呼び込みや製品の説明など、本当に「ただしゃべらせたいだけ」という法人用のニーズもすごく多いということがわかってきました。
一般販売モデルのPepperがだいぶ世の中に出ているのですが、そちらはあくまでも家庭で使う事を想定されたPepperなので、本来であれば法人用には使うことができません。しかし、アプリを作って入れてしまえば使うことができるので、これまでは弊社でアプリを作ってお渡しをしていました。開発費は300~500万ほどです。
少しプログラミングができる方であれば、Choregraphe(コレグラフ)というツールを使って、話す内容を繋げて作ることもできたのですが、けっこう大変だという声があり、今回のSmart at robo for Pepperをリリースしたという経緯になります。

Smart at robo for Pepperは、プログラミングをせずに、アプリを自由に作ることができるサイボウズのkintoneをベースにしています。kintoneであれば、Pepperが話す内容や、人が来たら話をさせるなどを設定し、簡単なスライドを説明させるくらいであれば、30分ほどで設定できるようになります。
Pepperを動かすには、エンジニアリングのSIで開発する要素は半分ほどですが、どちらかというと、話す内容や見せる画像というクリエイティブよりのものが多いのです。そうすると、エンジニアではなく、実担当の方が操作できるようなシステムをご提供した方がPepperの活用が広がるのかなと思い、簡単にWebで設定して変更ができるようにしました。



もともとはスクラッチで作ろうと思っていたのですが、サイボウズさんのクラウドに乗っていた方が、お客様もカスタマイズしやすいので、お客様の利便性も考え、サイボウズを使っています。
-サイボウズのkintoneは別途契約しなければいけないのでしょうか?
毎月の費用の中に含めておりますので、kintoneをすでに契約していても、していなくても3.8万円です。
これとは別にPepperの費用がかかりますが、毎月10万弱で、簡単に操作ができるようになれば、人がひとり働くよりはコストを抑えられると思います。
-できることとしては、動作時間、センサー起動、会話・画像とありますが、これ以上のことはできないのでしょうか?
クラウドサービスですので、今後拡充していこうと思っています。お客様からは、アンケートを取りたいというご要望が多く出てきているので、そこは検討しています。
-今だと、イベントなどの入り口にいると盛り上がりますよね。
今だとキャッチーで、集客にするにはいいと思うので、活用していただければと思います。
例えば、カンファレンスで英語と日本語を話さなければいけない場合、毎回英語を話せる人が対応しなければならないのですが、Pepperを持ってきて話をさせれば、英語で説明もできます。
頭と手、バンパーにセンサーがついているので、そこをさわったときに動作するという設定をしておくと、今後はデータを蓄積し、何時間くらいでどのくらい動いたのか、などがわかるようにもなります。
またこれとは別に、Smart at reception(スマート アット レセプション)というオプションで、iPadで受付をして横でPepperがおもてなしをするというサービスもやっています。
今引き合いが多いのは、お蕎麦やさん、ケーキ屋さんなど店舗さんです。

-月10万弱で、集客になるのはいいですね。従業員が少ない会社はあまり受付が必要ないのですが、そういった会社は何か使い道はありますでしょうか。
小さい会社でも、受付に置いておいて、イベントがある時に移動させて、会社説明の日本語と英語を話す、という使い方もあります。
大きいイベントで、例えば「会場はこちらです」など、一方的にご案内をするだけ人の誘導などだけであれば、Pepperは活躍すると思いますので、使い方が広がってくるのではないかと思っています。弊社はいったんそこまでを第1段階としてサービスを作っています。
お客様からリクエストがあればどんどん広げていこうと思っています。
お客様からのお話で、Pepperのディスプレイは10インチという小ささなので、見えにくいという声がありました。
それを解消するために開発しているのは、Pepperとミラクル・リナックス社が開発したデジタルサイネージとの連携です。
例えば、「あなたにおすすめのサービスはこちらです」、とPepperが話した時に、横にあるサイネージに映すということを進めています。
-短期間で借りるプランはないのでしょうか?
現在は購入前提のみとなっております。
レンタルはレンタル業をやっていらっしゃる会社があります。

-御社の受付にPepperがいましたね。
弊社の受付にPepperが受付にいることで、雰囲気が変わりました。
弊社は入館の際に社員がお客様に事前にQRコードを発行しているのですが、Pepper導入前と導入後に比べて、11倍のQRコードが発行されています。社員が、お客様にきてもらった時にPepperと触れてもらいたいという気持ちがあるようです。
Pepperは、もう我々はタッチせず総務が全てコントロールしています。朝出して、電源を外して起動したら、Pepperは受付で9時から18時まで働いています。正確には8時間充電で12時間持ちます。夜8時間寝れば、残業も少しなら大丈夫です(笑)たまに、手が疲れて上がらなくなる時もあるのですが。
2月からはじめているので、頻繁にいらっしゃるお客様が飽きるポイントなどもわかってきたので、今は総務が秋の装いなどスタイリングし、早口言葉や撮影ポーズも、後から追加しました。
-Pepperの開発は、どう簡単なのでしょうか。
実はPepper自体はロボットにも関わらず、プログラムはコードをかかなくて済みます。ここに「こんにちは」と入れればこんにちはと話します。実機で開発するときは、PCとWiFiで繋ぎます。ちょっと動かすだけであれば、簡単に開発できます。
-プログラムを操作することはあるんでしょうか。どういうレベルになるとプログラムを操作しないといけないのでしょうか。
例えば、ディスプレイをある特定のところを触られて、選択肢に 合わせて何か違うことをするとなるとコードを書かないと動かません。サイネージ連携も同様です。
-このオブジェクトを作れば、いくらでもそこに差し込めば繋がるということですね。これ自体も一般的に配布されるのでしょうか。
中を配布しているところはあまりないですけど、SDKのプログラム自体は登録すると使えます。
-色々な人たちが作った動作のプログラムを取り込めば、自分のPepperも動くということでしょうか。
あまりプログラムは公開されていないようです。
操作は簡単なのですが、Pepperが話すタイミングと動作のタイミングを合わせるなどの細かい設定とチューニングが必要です。動きを見て直して、見て直して、の繰り返しです。
-右手をあげるにも、話しながらうまくあげるには裏ではけっこうな苦労があるんですね。
そうですね、コツはいるかもしれません。
今まではSDKのツールでコレグラフを使わなければいけなかったので、頻繁に変更はしないことが多かったです。Smart at robo for Pepperでは当日その場で直せるので、担当の方が、これちょっとしゃべらせた方がいいなと思えば、すぐその場で直してすぐ反映ができます。
今までは最低でも2週間くらいで、1分弱のコンテンツでも綿密に打ち合わせして、ということをやっていましたが、かなり時間が短縮されました。

-メールを送るとPepperがしゃべるという機能はありますか?
ないと思います。このあと増えてくるかもしれません。
PepperメッセージというBtoCのアプリがプリインストールで入っています。そこでアプリに登録すると、その内容をPepperがしゃべってくれるというのはあります。
-今後の展望を教えてください。
Pepperにはセンサーがたくさんついてますので、お客様が来た時に、男か女か、年代、笑っているかというところまでは取ることができます。今後店舗さんでは、そのデータを活用していくステップへ進めたいと思っています。
我々は、この1年企業様のイベントや展示でのお手伝いをしてきまして、ノウハウもたまってきたため、次のフェーズへ行きたいと思っています。
-本日はありがとうございました。
Pepperが発売されてからいろんな事例を積み重ねてきて、なんとかして簡単に利活用できないかと模索してきた様子がうかがえる。こうやってなるべく簡単に使いこなせる仕掛けが、今後もたくさん出てくることが期待される。
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