近年、企業では、働き方改革や健康経営が喫緊の経営課題となっており、その一環として様々な施策をオフィスに導入する企業が増えている。そこで、「0次予防」が注目されている。0次予防とは、人々が健康的に生活することができる環境やまちづくりに取り組むことで、主に個人の生活習慣改善を指す「1次予防」の前段階として位置付けられている。特にオフィスでは、長時間座っている「座りすぎ」による健康影響が指摘されており、効果的な施策が求められている。
このような中、株式会社電通国際情報サービス(以下、ISID)、公益財団法人明治安田厚生事業団体力医学研究所、株式会社オカムラの3社は、2018年10月から共同で開始したオフィス環境改善による働き方改革に関する実証実験結果について報告した。
同実証実験では、オフィスワーカーの重要な健康課題である「座りすぎ」に着目し、ABW(Activity Based Working)という新しい働き方を取り入れたオフィスリノベーションに注目した。ABWとは、従業員がその時の仕事内容に適した場所や作業席を選択できる働き方のことである。
立位作業が可能な上下昇降デスクの導入や自由に選択できる共用席の増設、様々な目的地にアクセスするための回遊型通路の設置を実施し、リノベーションの前後で、座りすぎの解消効果をみるとともに、定点カメラによる動画撮影とディープラーニングを活用した画像解析技術を用いて、ABWの導入に伴う活用スペースの変化を検証した。
- 検証1.リノベーションによる座りすぎ解消効果
リノベーション実施の拠点をリノベーション群(13名)、他の2拠点を対照群(29名)とした。対象者全員に活動量計を装着してもらい、座位行動を中心とした行動のデータを取得した。測定期間はリノベーション前後の各2週間(計4週間)とし、各日とも睡眠・入浴時等を除いた終日とした。結果、対照群と比較して、リノベーション群の座位行動が40分/日減少した。また、立ったり歩いたりという低強度の身体活動が24分/日増加した。
- 検証2.活用スペースの特定:AIによる画像解析
定点カメラで撮影した映像データに、ディープラーニング・アルゴリズムを活用した画像解析技術を適用し、いつ、オフィス内のどこに、何人の従業員がいたかを認識・検出した。オフィス図面上の各エリアの人数を経過時間ごとに集計するシステムを開発し、検出したデータを分析した。結果、リノベーション前は通路ごとの活用度に差は見られなかったが、事後では回遊型通路の活用が多くなっていた。増設された共用席の中では、入口近くや窓際の活用度が高いという特徴が見出された。
これらのことから、ABWと上下昇降デスクを導入したオフィスリノベーションは、座りすぎ解消に有効であることが分かった。さらにAIの画像解析により、ABWが実践できている様子が確認できた。
今後、オフィス施策による座りすぎ解消や働き方の変化が、従業員の健康や労働関連指標にも影響を及ぼすかという点の検討を進めるとした。
なお、同研究は、文部科学省科学研究費補助金の助成を受けて実施された。
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