日本をはじめ、中国「以外」の国での5Gは、4Gとのハイブリッドで提供される予定だ。既にローンチしている北米や韓国でも4Gの設備を活用して5Gが提供されている。この4Gの資産を活用して提供される5Gサービスは「ノンスタンドアロン方式」と呼ばれている。
一方で、中国は4Gと5Gを完全に切り離し、5Gは5Gの設備を新たに構築する「スタンドアロン方式」で提供される。スタンドアロン方式では、無線区間だけでなくコアネットワークや管理システム、クラウド網も5G本来のスペックが発揮できる仕様で構築されるのだ。
5Gスタンドアロンの方式はなにがよいのか
日本などでは4Gと5Gが並走し、5Gのカバーエリアが広がるとともに、じわじわとネットワークを形成する機器やソフトウェアが5G向けにリプレースされていく予定だ。つまり、ローンチしてすぐは無線区間は5Gならではの低遅延を提供するものの、4G用のコアネットワークやクラウドがボトルネックとなり、5Gならではの低遅延がシステム全体で提供できないことが予測されている。
また、ノンスタンドアロン方式では、自動運転など低遅延が求められる用途ではすぐに5Gが活用できないということにもなる。そのため、中国は5Gをスマートシティのインフラとして位置づけ、自動運転なども踏まえ、スタンドアロン方式で提供する判断をしたと言われている。つまり、スタンドアロン方式とは5Gならではの無線区間の大容量化・高速化を、できる限りEnd to Endでボトルネックを無くすためのネットワークと捉えられる。
既にエリアは限られるが、いくつかの都市では5Gのプレサービスが始まっているという。
5Gでリモートコントロール可能なドローンを活用した物流プロセスの最適化や、8K映像のライブ配信などが事例で挙げられていた。ちょうどこのMWC19 Shanghai終了後に杭州でも、5Gを活用した自動運転バスのテスト運行が始まっていた。
5Gを活用した取り組みが急増している中国では、5Gのインフラ整備のために2018年から2025年の7年で約200兆円(GSMA調べ)を投資する見込みだという。
日本は2024年度末までのMNO4社(いわゆる通信キャリア)の5G特定基地局等設備投資額の合計金額は、2兆円にも満たない。国土の広さも人口もスケールが違うため、単純な比較はできないが、中国の5Gに対する期待と本気度が世界一であることは疑う余地はない。
電力、ゲーム、医療や銀行での5Gのユースケース
用途に合わせて通信スペックを最適化するネットワークスライシングも5Gの大きな魅力だ。論理的には4Gでも実現可能な技術ではあるが、大量端末接続はもちろん、それぞれの端末の用途に対する最適化に対応するネットワークスライシングも、スタンドアロン方式の5Gだから、すぐに提供できる。
例えば、チャイナモバイルの展示ではネットワークスライシングについて、電力会社に対しては、電力供給の制御信号をやりとりするために、10msの低遅延のネットワークを提供する、とされていた。
また、同じ低遅延でもテンセント向けにはオンラインゲーム用途ということもあり、CCTVへの通信では遅延スペックはそれほど厳しくなく100ms程度だが、上下の映像配信用に通信速度を60Mbpsで提供するという。
一方、医療向けはさらにハイスペックとなり、45~65Mbpsの通信速度に加え、20msの低遅延という条件にも対応するということだ。
医療領域においては、具体的なユースケースも見えてきている。
救急医療現場における、現地へ予定通り到着するためのルート案内や誘導、救急車と病院を5Gで接続し、リアルタイム治療を行える環境が構築されつつあるということだ。今年のMWCバルセロナでも救急車内での遠隔医療の展示があったが、高速・低遅延の5Gならではのユースケースといえ、世界でも標準化が進むべきユースケースだと思う。
さらに、チャイナモバイルは、SPD BANK(上海浦東発展銀行)に対して、3種類のネットワークを提供する前提で取り組みを進めているという。
1つ目はリモート窓口用のブロードバンド回線だ。VRなどへの対応も考慮し、店頭に来店せずに、映像を活用した遠隔商談をするためのネットワークとなる。
2つ目は銀行内用のシステムを繋ぐ低遅延ネットワーク、そして3つ目は今後増加する様々な資産の現況確認をするための大量端末接続を想定したネットワークだという。2つ目と3つ目は銀行の業務システムで活用することを想定したものだ。
日本おいても、5Gの様々なトライアルが始まっているが、中国では現行ビジネスへの導入を前提とした取組が加速しているといえる。
5Gエリアの拡大と同時に、5Gならではのスペックを活用できる中国では、ビジネスシーンでの現行ネットワークからの5Gへのリプレースが世界で最も早く進むだろう。これから数年は、中国がビジネスユースを前提とした5G活用事例を見出す宝庫になる可能性が高い。中国で先行するであろうC-V2Xなどの自動運転やMAAS、スマートシティの5G活用についても引き続き注目したい。
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未来事業創研 Founder
立教大学理学部数学科にて確率論・統計学及びインターネットの研究に取り組み、1997年NTT移動通信網(現NTTドコモ)入社。非音声通信の普及を目的としたアプリケーション及び商品開発後、モバイルビジネスコンサルティングに従事。
2009年株式会社電通に中途入社。携帯電話業界の動向を探る独自調査を定期的に実施し、業界並びに生活者インサイト開発業務に従事。クライアントの戦略プランニング策定をはじめ、新ビジネス開発、コンサルティング業務等に携わる。著書に「スマホマーケティング」(日本経済新聞出版社)がある。