11月18日、ゼンリンの子会社であるゼンリンデータコムとJR北海道が共同で行ったドローンの実証実験結果が公表された。
実証実験の内容は、ドローンがトンネル内を自動飛行しながら撮影した壁面の画像を、検査や点検の一部に活用するというものだ。
この実証実験は、インフラの点検にドローンが利用されるケースが増えてきた、と理解するのは十分でない。重要なのは「トンネル内」を「自動飛行」したという点にある。
ドローンの付加価値の1つに、高所や水中といった、人間が作業することが困難な場所に立ち入って、人間が行っていた作業を代替できるというものがある。
そのため人間がドローンを目視で確認しながら操縦できるというだけでは、人間が立ち入れない区域でドローンに作業してもらうには不十分だ。
人間が立ち入れない区域でドローンが作業をするには、人の目視によらず、ドローンが自動飛行・ホバリングしなければならない。そこで、ドローンの位置を把握する際に、一般的に必要とされているのがGPS(Global Positioning System)だ。
しかし、レシーバーの位置によっては人工衛星からの電波が上手く入らず、GPSが機能しないこともある。
例えば曇りや雨の日など厚い雲が空を覆っているときには、GPSの精度が落ちる。また、ビルなどの高い建物や山などは、GPSが発信する電波を反射してしまうため、都市部や山間部においても同様にGPSの精度が落ちる。
つまり、厚い雲、高い建物、山々といったものが遮蔽物となって、電波の発信や受信を妨げるのである。
これらを踏まえると、トンネル内でドローンの位置を特定するのは、GPSでは困難なこととなる。
なお、ゼンリンデータコムとJR北海道の実証実験では、トンネル内での位置情報の特定方法について詳細に公表されていないものの、レーザーセンサーやカメラを用いて、ドローンがトンネルの断面形状をリアルタイムに把握し、その情報から自己位置を推定しているようだ。
他にも非GPS環境下において、ドローンが安定的かつ自律的に飛行をするために、様々な取り組みが行われているので、一部を紹介したい。
Blue innovation「T-FREND」
ブルーイノベーション、大成、NTT東日本が共同開発し、2018年10月から開始しているサービスが「T-FREND」だ。
これはドローンがオフィス内を巡回撮影し、在籍する社員の退社を促すというもの。当然、オフィス内になるので、GPSは入らないが、「BI(ビーアイ) AMY(エイミー)」という屋内に特化した独自の機体と自動飛行技術により高度な自己位置推定を可能としている。
ドローンによる下水処理場の日常点検
日水コン、月島機械は新潟浄化センターでドローンを使った日常点検の実証実験を行った。
24時間、365日稼働する下水処理場では設備の老朽化が問題となる一方、人口減少による下水道使用料収入が減少していることから、設備を刷新する余力がない。
そのため、日々の点検、整備、維持管理は必須だ。通常は、毎日、人が目視で点検しているが、ここにドローンを利用することで点検漏れの防止や点検の時間を短縮するといったことが期待されている。
オートモダリティ社「Perceptive Navigation」
オートモダリティ社は2014年に設立されたアメリカの企業で、世界最大手ドローンメーカーのDJIのパートナーにもなっている。
同社が開発している技術の「Perceptive Navigation」は、レーザー光を使って、対象物を認識し、自己位置の推定が可能な技術だ。対象物の絶対位置を認識することでドローンの自己位置推定の精度が高くなるという利点がある。
「Visual SLAM」技術を開発する自律制御システム研究所がオートモダリティ社の「Perceptive Navigation」を補完的に取り入れるということも発表しているようだ。
空の産業革命におけるロードマップ2019
2019年6月、経済産業省が「空の産業革命に向けたロードマップ2019」を発表した。そのなかで、2022年度には、レベル4の「有人地帯での目視外飛行」が目標として掲げられている。
なおドローンの飛行レベルについては以下のとおりだ。
- 飛行レベル1
- 飛行レベル2
- 飛行レベル3
- 飛行レベル4
目視内での操縦飛行。活用方法は、農薬散布、空撮、橋梁、送電線などのインフラ点検など。
目視内での自動・自律飛行。活用方法は、空中写真測量、ソーラーパネルの設備点検など。
無人地帯での目視外飛行。活用方法は、離島や山間部への荷物配送、被災状況の調査や行方不明者の捜索など。
有人地帯での目視外飛行。活用方法は、都市の物流、警備、発災直後の救助や避難誘導など。
今年の6月に楽天と西友がドローンを用いて、西友リヴィンよこすか店から、観光地の猿島までの1.5kmをドローンが飛行し、商品を届ける取り組みを行っているが、これはレベル3に該当すると思われる。
とはいえ、まだ実験的な試みなので、本格的な運用はこれからだ。実際、現状では飛行レベル2までの取り組みが多い。
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現在、デジタルをビジネスに取り込むことで生まれる価値について研究中。特にロジスティクスに興味あり。IoTに関する様々な情報を取材し、皆様にお届けいたします。