人工知能(AI)はビッグデータのような膨大なデータを正確かつ高速に処理することが得意だ。
ビッグデータを解析すると、将来の傾向やパターンを予測できる。そのため企業はAIを使って設備に不具合が生じるタイミングを予測できたり、製品が今後どれくらい買われるかといった需要を予測できる。
では、個人の行動データをAIで解析したらどうなるだろうか。例えば、ECサイトでどんな買い物をしているか、どんな人と交友関係があるのか、住宅ローンの返済は滞っていないかというような個人情報をAIが解析すると、その人が今後どのような生活を送るのか、予測がつくだろう。
その予測が特定のアルゴリズムにしたがって数値化されると、それが信用度となり、個人をどれくらい信用することができるかの判断材料となる。
2015年に中国ではじまった「芝麻(ジーマ)信用」は、まさに個人の行動データをAIに解析させることで、個人の信用をスコアリングしている。
芝麻(ジーマ)信用の仕組み
芝麻(ジーマ)信用はアリババグループの芝麻信用管理有限公司によって2015年から運営されている信用スコアサービスだ。
この芝麻(ジーマ)信用はアリババグループのモバイル決済サービス「アリペイ」の付帯機能として登場したサービスで、アリペイを使って高価な買い物をした場合には、ユーザーは信用スコアを上げることができ、様々な特典を受け取れるようになっている。
総務省の「平成30年版情報通信白書」では、スコアの評価方法が図で説明されている。
5つの要素を総合して、アリペイユーザーの信用をスコア化していくようだ。
- 身分特質(社会的地位・身分、年齢、学歴、職業など)
- 履行能力(過去の支払い状況や資産など)
- 信用歴史(クレジット・取引履歴など)
- 人脈関係(交友関係及び相手の身分、信用状況など)
- 行為偏好(消費の際立った特徴や振り込みなど)
芝麻(ジーマ)信用が、これら5つの要素にまつわるデータを参照し、アリペイユーザーのスコアを総合的に算出する。
なお、算出されるスコアは最低で350、最高で950となっており、350~550を「信用較差」(やや劣る)、550~600を「信用中等」(まずまず)、600~650を「信用良好」(好ましい)、650~700を「信用優秀」(優れる)、700~950を「信用極好」(極めて良い)と分類している。
スコアが高いと得られる特典
スコアが高いユーザーは様々な特典を得られる。かなり多くの特典があり、全て書ききることはできないので、一部を記載する。
- 傘や充電器を無料でレンタルできる(スコア600以上)
- シェアサイクルの保証金が無料(スコア650以上)
- シンガポールのビザが取りやすくなる(スコア700以上)
- ルクセンブルクのビザが取りやすくなる(スコア750以上)
市内のスーパーやホテルでは、傘や充電器をレンタルできるが、通常は保証金とレンタル料がかかる。しかし、スコアが600あれば、保証金もレンタル料も不要となる。
自転車シェアリング5社と提携しており、スコアが650あれば保証金、利用料金ともに無料となる。
中国人はどこの国に行くにも必ずビザが必要となり、銀行口座の残高が調べられ、発給申請に時間がかかる。しかし、芝麻信用で700以上あれば、アリペイからシンガポールのビザを申請できる。
スコアが750になると、ルクセンブルクのビザが申請できる。ルクセンブルクはヨーロッパのシェンゲン圏(ヨーロッパの出入国検査なしで自由に往来できる圏内)に属するので、実質ルクセンブルク含めた26カ国を自由に行き来することができる。
国家権力に支えられた芝麻(ジーマ)信用
日本でもスコアサービスは既に登場しており、「J.Score(みずほ銀行・SoftBank)」、「LINE Score(LINE)」、「Yahoo!スコア(ヤフー)」、「ドコモスコアリング(NTTドコモ)」などが知られている。
しかし、芝麻(ジーマ)信用は中国政府が後押ししている点で、これらのサービスと一線を画している。例えば、中国の裁判所はアリババと連携しており、裁判所が罰金刑を科した者が、罰金を期日まで払わず滞納した場合、芝麻(ジーマ)信用が下がるようになっている。
このように芝麻(ジーマ)信用は、民間企業のサービスであるにも関わらず国家権力と結びついているため、中国社会に多大な影響をあたえている。その結果、進学、就職、結婚といった人生を左右するイベントが、スコアによって多大な影響を受けるというほどに中国人の生活や行動様式が変わってきている。
例えば、結婚相手の信用度を探る時、出身、学歴、社歴、住まいなど、様々な観点で質問をしていたが、中国ではスコアを聞くだけで、その人が信用できるかどうかが分かる。
信用スコアが一度落ちると戻れないという課題も
芝麻(ジーマ)信用のスコアはAIによって算出されているが、そのアルゴリズムについては明らかにされていない。つまり何をしたらスコアが上がって、何をしたらスコアが下がるのかについては、分からないようになっている。
中国政府としては、あえて明確にしないで、国民が「何をするとスコアが下がってしまうのかわからない」という心理を利用し、24時間、国民が模範的な行動をとることを狙っている。事実、中国のレンタカー業界では、料金の未払いが半減するといった国民意識の変化が行動に表れているようだ。
一方、何をするとスコアが上がるかがわからないので、1度スコアが下がってしまった国民は、スコアを上げることが厳しく、下位スコア層として固定化されてしまう恐れもある。その結果、企業から採用を拒否されたり、飛行機などのチケットが取れないということも実際にあるようだ。
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現在、デジタルをビジネスに取り込むことで生まれる価値について研究中。特にロジスティクスに興味あり。IoTに関する様々な情報を取材し、皆様にお届けいたします。