2021年11月に岸田内閣がはじまり、デジタル田園都市構想を掲げ、デジタルによる活性化を進めようとしている。
さらに、先日発表された「アナログ規制」や「マイナンバーへの取り組み」、「スーパーシティ構想」、「地方自治体のシステム標準化」、「web3に向けた法整備」など、スマートシティ関連ではデジタル・ガバメントの話題が多い2022年だった。
デジタル田園都市構想
「デジタル田園都市構想」と聞いて、私は、当初これがなんなのか全く理解できなかった。Society5.0という言葉が出た時も同じだが、それっぽい言葉が並べられているだけで、具体的にどうなるかのイメージはつきづらい。
しかし、ここにきて、ホームページなども充実し、デジタル田園都市構想のコンセプトも明確に打ち出されるようになっている。
ホームページによると、「デジタル田園都市国家構想は、デジタルの力で、地方の個性を活かしながら社会課題の解決と魅力の向上を図ります。そして、「地方に都市の利便性を、都市に地方の豊かさを」を実現して、全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会を目指します。」とある。
デジタルによって何をするのかと深掘りをすると、「地方に仕事を作る」そして「人の流れを作る」というのだ。そのために、地方まで高速ネットワークをひき、人材育成をするという。
しかし、仕事や人は、経済の中心のある街にあつまるわけであって、インフラがあるから仕事や人が集まるということではない。あるとすれば、本質的にはよい学校を作り、若者が、「そこに居続けたい」と感思うような街を作ることだろう。街の成熟にはすごく時間がかかるのだ。
工場誘致のようなことばかりしていても、作業者として雇用が生まれることはあっても、その地域が発展するような状況にはなりずらい。実際IT特区となった沖縄ではコールセンターが誘致されたが、市民の平均賃金がすごく上がっているわけではないし、企業側も安い賃金を求めて作っているに過ぎない。
「誰一人取り残さない」と言っているが、正直インターネットの出現によって、情報を主体的に取りに行ってアクションにつなげる層と、誰かの決定を待って従ったり不満を述べたりする層の間の格差は確実に、そして大きく広がってきている。
「政府がインフラを整えてくれたから」、「機会を作ってくれたから」と喜ぶような人材が世界で勝っていけるとは思えないし、実際、web3のような法規制が未整備な分野でビジネスを展開する人は、現場税金の安いところに流れていっている。
おそらく、政府が打つべき一番重要な手は、世界の中で、日本でビジネスをするのが最も有利と感じられる税制を作ることだろう。これができていないのに、地方都市で世界レベルのデジタル産業が発展するということは考えにくい。
一方で、金融分野において、税優遇を行うことで発展したシンガポールなどでは、海外からの移住組と現地在住組での格差が生まれているという実態もある。
この辺はどこを落とし所にするかが難しい問題で、骨太の方針とリーダーシップが重要になる。
どちらかと言えば、少子高齢化が進む中、地方の人口は激減していて、デジタル化を進めなければ近い将来現場レベルでの住民サービスを提供することは困難なので、早めに手を打ちたいというところではないだろうか。まずは、ここに手を入れないと、生活が困難になってきてから、今の政権にNOを突きつけても、そこから手を打つのでは遅いということになることが予想される。
この辺が、「地方に都市の利便性を」というところにあたるのかもしれない。
そういう意味では「デジタル基盤の整備」の部分、この後解説する、アナログ規制や地方自治体システムの統合、マイナンバーによる住民情報との連携などは、最低限進めていくべきなのだ。
アナログ規制
政府は、各省庁が定める点検などの業務のうち、デジタルによって利便性が増したりやり方が変わるようなことを各省庁から1万個あげ、期間を区切ってデジタル化していく規制を発表した。
薬局で薬剤師が常時勤務している必要があるところをオンラインでもよいとしたり、デジタル認証によりコンビニのセルフレジで酒やタバコが買えるような仕組みに変えたりと、身近なものから、ダムやトンネルの整備など一般市民には縁遠いが重要な業務までが対象となっている。
この取り組みは、期間も切られているし、何より網羅的に検討したということなので、一旦これで進めることが重要だろう。足りなかったとしても、それは課題を見つけ次第工程表に組み込めば良いだけだ。
そして、この施策でPOS業者やドローン業者、AI業者など、DX周りのベンダーは来年以降特需を迎える可能性がある。
なぜなら、アナログ規制の対象は1万件だが、例えば橋の点検について言えば、全国に橋梁と呼ばれるものは約70万橋はあると言われているので、ドローンによる点検をする事業者がいたとして、その対応を1社で行うことは難しい。こういったテーマが1件、1件と集まって1万件の工程表になっていることに目を向ける必要がある。
つまり、各自治体周りでドローン事業を営む事業者などにとってみれば、アナログ規制によって、大きなチャンスがくるということなのだ。さらに、手が回らない分野も発生するので、事業者間でも競争が起き、サービスレベルの向上も期待できる。
この取り組みは地方のデジタル関連産業の活性化にもつながり、結果的にデジタル田園都市構想にも寄与するだろう。
地方自治体システムの標準化
一方、地方自治体システムの標準化はいただけない。
てっきり、デジタル庁が全国で使えるシステムを開発し、それぞれの自治体が使うのかと思っていたら、標準仕様書は作り、補助金は配るから、あとはそれぞれで作ってガバメントクラウドにのせてね。というものだからだ。
念の為言っておくと、どこかの自治体が作ったシステムを他の自治体が使うことは可能なので、効率化ができないわけではない。
しかし、このやり方の場合、仕様書に従って作るものの、システム開発に明るくない地方自治体からすれば、ベンダーロックインの状況もそれほど変わらないだろう。
これでは抜本的な無駄をなくす取り組みにはならない。(実際30%しか削減効果がないとしている辺りは正直なところか)
全国にある1700の自治体全てが使える業務システムなんて現実的ではないのはわかるが、統合していくマイルストーンも明確にしていかなければ、抜本的な無駄の排除には繋がらない。
スーパーシティ構想
デジタルトランスフォーメーションや、スマートシティといった言葉が話題になる中、鳴り物入りで登場したのが「スーパーシティ構想」という言葉だ。
言葉だけ聞くと、近未来のハイテクタウンが実現されるのか、と思うものだが、実際31の自治体が応募した内容によると、スマートシティの話題でよく出てくるデジタル化の話題がほとんどだ。
それもそのはず。既存の街は「ブラウンフィールド」とも呼ばれるもので、長い歴史を経てできているものであり、いきなりハイテクタウンに生まれ変わるなんてできない。
電信柱を地中に埋めるのだって簡単ではないのを見れば、街全体を「スマート」にするなんて簡単なわけがない。
逆に、トヨタが作っているWovenCityのように、未開発の土地「グリーンフィールド」を使って、まったく更地からやるとなれば、違うものもできるのかもしれないが、どこの地域にもグリーンフィールドがあるわけではない。
2度の公募を行い、ついに今年3月、つくば市と大阪市が「2030年まるごと未来都市」として特区に選ばれた。
なぜ2度行ったのかというと、2021年に一度審査があったが、前述した通り、未来都市と呼べるようなアイデアは出てこなかった。それで、再度提案内容の「熟度」によって選出するということになった。
つくば市は、「インターネット投票の導入」「パーソナルモビリティの最高速度の緩和」「マイナンバーの利用拡大」といったブラウンフィールドの取り組みを進める案を定時、「グリーンフィールド」の取り組みについても、つくば市らしく、「科学」をキーワードに先進的なまちづくりを進める。
具体的には、「移動・物流」「行政」「医療・健康」「防災・インフラ・防犯」などの分野で、ロボットによる荷物の自動配送やインターネット投票、データ連携による医療サービスなど様々な先端的なサービスに取り組むということだ。
また、大阪市は、「移動」「物流」「医療」「まちづくり」「防災」といった分野において、「自動運転バスによる貨客混載運送」や「データとAI分析を活用した健康プログラム」「空飛ぶクルマでの観光周遊」などの新たなサービスの社会実装を進める。
具体的に各省庁と調整がつきそうなものや、実現可能そうなものを中心に、近未来の都市生活が描かれる市が特区として採択されることになった。
夢絵空事に予算をつけても仕方ないし、一部のベンダーにお金が流れて終わりという取り組みもつまらないので、私のようなマニアにとって、「現実的だけど、実際に住んでみたい」と思わせるような仕上がりにして欲しいものだ。
マイナンバーへの取り組み
デジタル庁は、マイナンバーカードの普及状況を可視化する取り組みをすすめ、Twitterなどでも発信している。
「申請」枚数が、運転免許証並みの8100万枚を超えたというニュースもでてきて、その普及度合いも増してきている。
国がなぜここまでマイナンバーカードにこだわるのか、他の国では断念した国もあるという議論がある中、個人的には推進してほしいと思っている。
さらにいうと、この議論、マイナンバー自体はすでに国民全員に振られていて、カードの発行数の議論になっている(つまり、カードやその番号を活用した行政などのサービスが受けられる状態にする)ということを忘れてはならない。マイナンバー是か否か、という議論はすでにナンセンスなのだ。
マイナンバーが国民を監視するツールになるといった都市伝説もあるが、実際デジタル社会になること自体は、不可逆なのにも関わらず、セキュリティが一定担保された本人確認の手段がないというのは怖いことだ。もう少し先の未来になれば生体認証などで、認証することも考えられるが、コストのこともあり、現場生体認証の機器を全国津々浦々にばら撒くことは難しい。
また、全国の自治体のシステムがデジタル化されることで、個人の住民票や戸籍などのデータは、必然的にマイナンバーと紐付けがされる。今のように、各自治体だけで管理していて、申請用紙と委任状を書いて、提出したら、ろくな本人確認もされず情報が取り出せるというやり方の方がむしろ怖い。
引っ越しをしたら、免許も更新するために警察にいかなければならなかったのが、マイナンバーだけ変えておけば関係各所に情報が連携される方が圧倒的に楽だ。
少子高齢化が進み、紙ありきでの事務手続きが限界に来ている今、データの連携と利活用は必須なのだ。
引っ越しなんてそんなに頻繁にすることがないので、ある時、引っ越して「あれ、便利になったな、こんなのでよかったんだっけ?」と感じる程度だろうが、事務処理をしている市役所職員の負担は激減するだろう。
健康保険証との一体化もメリットが多い。
医療機関でも、現在月一回の健康保険証提出が必要だが、マイナンバーカードを使えば、データ連携により医療履歴が取得できるので、感染症拡大時期などの非対面での受付が可能になるほか、転職をしても企業側で手続きをするので個人は同じマイナンバーカードが健康保険証となる。また、高額医療費が必要な場合でも、高額医療費の上限額が医療機関でわかるので、一時負担の必要がなくなる。
多くの人は、生活者としての視点でしかモノをみていないため、全体でかかっているコストに目がいかないのは仕方がないが、少子高齢化によって税収が減るだけでなく、高齢者を支える仕組みが必要になる。無駄なコストはどんどん省いていかなければ、現状の生活を維持することすらできなくなる可能性があることにも目を向けて欲しい。
そして、若い世代が子供を欲しいと思うようになり、育てやすい社会にしていくことこそがスマートシティの目的なのではないかと思う。
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IoTNEWS代表
1973年生まれ。株式会社アールジーン代表取締役。
フジテレビ Live News α コメンテーター。J-WAVE TOKYO MORNING RADIO 記事解説。など。
大阪大学でニューロコンピューティングを学び、アクセンチュアなどのグローバルコンサルティングファームより現職。
著書に、「2時間でわかる図解IoTビジネス入門(あさ出版)」「顧客ともっとつながる(日経BP)」、YouTubeチャンネルに「小泉耕二の未来大学」がある。