株式会社日立製作所は、X線を用いた手荷物検査において、AIを活用することで手荷物内の物品一つひとつを認識し、材質、密度などから安全性を自動識別する技術を開発したと発表した。
同技術では、一見安全な物品でも材質や密度が通常と異なり、改造や細工が疑われる場合は目視検査を提案。検査員は安全な物品の検査に時間を取られず、AIから提案された危険性が疑われる物品の検査に集中できるため、検査の待ち時間を短縮できるという。
今回、同技術を適用したX線手荷物検査システムを試作し、社内実験を行った結果、全ての手荷物を目視検査する場合と比べて、検査員が同じ時間内に検査可能な手荷物の数が約40%増加したことが確認された。日立は同技術を活用したX線手荷物検査システムの2018年度中の実用化を目指す。
背景
空港をはじめとして、高いセキュリティが必要な一部の駅、公共施設、イベント会場などでは、ナイフや爆発物などの危険物の素材である金属、有機物を識別可能なX線検査装置を用いた手荷物検査が行われている。
従来は検査を支援するため危険物の形状を識別して検査員に警告する機能などが活用されていたが、見落としを防ぐため、危険物が含まれない荷物も含めて全ての手荷物を目視検査する必要があった。
そこで日立は、危険物の見落としを防ぎながら検査の効率化を図るため、AIを活用して手荷物内の一つひとつの物品を認識した上で、安全性を識別する技術を開発するに至った。
技術の特長
1. 複数の物品が接していても別々に認識可能な、物品領域抽出技術
同技術では、まずX線の透過量から物品の単位面積あたりの質量を推定することで、X線撮影画像から物品が存在する領域を画素単位で網羅的に特定する。
次に、深層学習(ディープラーニング)を活用して物品らしい形状を抽出することで、複数の物品が接していても別々に認識することが可能だ。
物品らしい形状が存在する領域と、はじめに特定した物品の存在する領域との間に差異がないかを検証することで、物品の認識漏れも防ぐことができるという。
2. 安全性判定の誤認を防ぐ、2段階の安全性識別技術
危険物を誤って安全と判定しないために、「ディープラーニングを用いた、安全な物品の識別」と、「物品の標準的な特徴を用いた、識別結果の信頼性検証」の2段階の安全性識別技術を開発。あらかじめ安全な物品をディープラーニングを用いて学習しておくことで、抽出した画像が安全な物品か否かと、その種類を識別する。
次に識別した物品のX線画像から得られた材質、密度、大きさなどの特徴を、あらかじめ準備しておいた同じ種類の物品の標準的なデータと比較することにより、識別結果の信頼性を検証する。同技術により、確実に安全な物品のみを安全であると識別することができる。
今回、同技術を適用したX線手荷物検査システムを試作し、スポーツ・音楽イベントを想定した延べ60人の来場者に対する手荷物検査の実験を行った結果、全ての手荷物を目視検査する従来の方式に比べて、検査員が同じ時間内に検査可能な手荷物の数が約40%増加したことが確認された。
【関連リンク】
・日立(HITACHI)
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技術・科学系ライター。修士(応用化学)。石油メーカー勤務を経て、2017年よりライターとして活動。科学雑誌などにも寄稿している。