広島県は、AIとIoTを活用し、地域の課題解決に向けた新しいソリューションを生む実証実験のフィールドとエコシステムを提供する「ひろしまサンドボックス」を始動。5月17日、東京都渋谷区で「AI・IoT実証プラットフォーム事業 ひろしまサンドボックス記者発表会」を開催した。
同発表会では、「ひろしまサンドボックス」に参加するパートナー企業の応募を広島県内外にひろく呼びかけるとともに、東京都渋谷区との連携も発表。地方と都市、互いの強みを活かした共創による街づくりを行うとした。
「AI・IoT実証プラットフォーム事業 ひろしまサンドボックス記者発表会」の登壇者
- 広島県知事 湯﨑英彦氏(トップ写真・中央右)
- 渋谷区長 長谷部健氏(トップ写真・中央左)
- ソフトバンク株式会社 代表取締役 副社長執行役員兼CTO 宮川潤一氏(トップ写真・左)
- 西日本電信電話株式会社(NTT西日本) 取締役 中国事業本部長 永野浩介氏(トップ写真・右)
広島県を”まるごと”AI・IoTの実験フィールドに
広島県は、自動車メーカーのマツダ株式会社の本社・製造拠点があるなど、自動車分野を中心に「ものづくり」がさかんだ。また、それだけでなく、農業や漁業などのさまざまな産業も幅広く行っていることが広島県の魅力と言える。
一方で、人口減少や高齢化、グローバルな競争環境など地方としての課題もかかえている。そこで、広島県は製造業や農業、漁業などのこれまでの基盤に、「デジタル」などのテクノロジーをかけあわせることで、「イノベーション立県」を目指しているという。
具体的には、広島県は次の3つの取り組みを行っている。一つは、企業が交流し、イノベーションを創出するための拠点「イノベーション・ハブ・ひろしまCamps」。次に、マツダなどのものづくり企業が中心となり、産学連携により人材育成やデジタル化を促進する「ひろしまデジタルイノベーションセンター」(2017年11月設立)だ。
そして3つ目が、AI・IoT実証プラットフォーム事業「ひろしまサンドボックス」。狙いは、AIやIoTにより、「これまでにない新しいソリューションを共創するためのオープンな実証実験の場を提供すること」だという。広島県はこの取り組みに、平成30年から3年間で最大10億円を投資する。
広島県内の企業、大学、自治体などのさまざまな団体が実証実験の主体となるほか、県外からも先進的なスタートアップ企業や専門人材を呼び込み、連携するエコシステムを構築。共創により「すでに商品化されたものではなく、これまでにない新しいソリューション」(広島県知事 湯﨑英彦氏)の創出に取り組むという。

「ひろしまサンドボックス」のコンセプトは、「作ってはならし、みんなが集まって、創作を繰り返す、『砂場(サンドボックス)』のように何度も試行錯誤できる場」だという(発表会資料より引用)。
広島県知事の湯﨑英彦氏は、「ひろしまサンドボックスは、トライ&エラーを繰り返し、面白いこと、新しいことに取り組む場だ。失敗してもいい。成功することは目的ではない」として、他のコンソーシアムやエコシステムとの違いについて説明した。
また、「この取り組みを通して、規制緩和も同時に進めていく」と湯﨑氏は述べた。
同事業のスタートに伴い、「ひろしまサンドボックス推進協議会」を発足。通信事業者やITベンチャー、大学などさまざまな企業や団体に参加をうながすとともに、企業に対する知見および技術の支援、企業間の情報交換やマッチングの場を提供する。
「ひろしまサンドボックス」内で複数の企業や団体からなるコンソーシアムを立ち上げ、「審査委員会」による審査のうえで、各コンソーシアムに委託金として広島県から資金が提供される。
また、コンソーシアム同士の情報共有の場やナレッジを共有するコミュニティなども、同推進協議会によりアレンジされるという。
6月から「第1公募」を開始。7月に採択し、それ以降実証実験を行っていく。また、9月には「第2公募」を実施し、10月以降実証実験を行う。約3年間のプロジェクトとなる。
ビルや商店街、道路などさまざまな施設、企業からなる街や地域全体のバリューチェーンをつなげ、最適化する「スマートシティ」の取り組み。ビルならビル、道路なら道路など個々のソリューションが必要となるが、それらの異なるプラットフォームが互いに「データ結合」できることがきわめて重要だ。
そこで、「ひろしまサンドボックス」では共通基盤となるIoTプラットフォームを構築。その中心となるのは、ソフトバンク、NTT西日本、広島県の3者だ(上図)。
ソフトバンクは、本年1月に「ひろしまサンドボックス」と連携協定を締結。同社の代表取締役 副社長執行役員兼CTO 宮川潤一氏は、「テクノロジーを使えるヒトを育てる、人材育成の取り組みが重要だ。そこで、ソフトバンクは、広島県を”ひとづくりNo.1”にするべく支援していきたい。それらの成果を広島県だけにとどめず、全国へ展開していきたい」と語った。
また、本年4月に連携協定を締結したNTT西日本の取締役 中国事業本部長 永野浩介氏は、「広島に赴任して2年、この地域のもつポテンシャルを実感している。海外からの観光客も多く、世界にも開けている。一方、国内での存在感はまだまだであり、今回のプロジェクトがいい機会となる。NTTグループ全体の知見を活かしていく」と語った。
広島県と渋谷区が連携、都市と地方の垣根をこえた「共創」モデルを構築

渋谷区は、「ちがいを、ちからに変える街。渋谷区」を基本構想としてかかげ、産官学民による連携組織「一般社団法人渋谷未来デザイン(FDS)」を本年4月に発足した。
広島県は、「ひろしまサンドボックス」のパートナーとして東京都渋谷区ならびにFDSと連携。地方と都市の垣根をこえ、スタートアップ企業などの事業プレイヤーを渋谷から広島県へ呼び込むなど、共創の取り組みを行うとした。
それに伴い、同説明会では広島県知事の湯﨑氏と渋谷区長の長谷部健氏がトークセッションを行った。
湯﨑氏は、渋谷区とタッグを組む理由について、「広島県に足りていないのは、渋谷区にあるようなヒトの熱量、エネルギーだ。渋谷区と組むことで、その熱量を広島県にももたらしたい」と述べた。
また、「(東京一極集中のなか)広島県から優秀な人材が渋谷に流れているのは事実。そうした人材を広島県に還流」もすることも狙いとしてあるという。
長谷部氏は、「都市と地方がつながることに意味があると思う。(都市にいるヒトが地方に貢献する方法として)ふるさと納税という方法もある。ただ、『ひろしまサンドボックス』のように、一緒に課題を考えていく方法も、真の地方創生と言えるのではないか」と意気込みを語った。
湯﨑氏は、「広島県には都市も田舎も、製造業も農業も漁業もある。『ひろしまサンドボックス』は、これらすべてを実証フィールドとして提供する。そこで、これまで誰も考えてこなかったような新しい製品やサービスをつくってみたいと考えている多くの企業や個人に参加してほしい」と呼びかけた。
【関連リンク】
・ひろしまサンドボックス
・ひろしまサンドボックス推進協議会
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技術・科学系ライター。修士(応用化学)。石油メーカー勤務を経て、2017年よりライターとして活動。科学雑誌などにも寄稿している。