日立物流は1950年に創業した物流会社だ。
同社は1980年代頃から物流のシステム化の波に乗って、荷主企業から物流全般の業務(保管・配送・荷役・輸出入)を請け負う3PL事業を主力として成長してきた。
近年は、新技術(IoT、AIなど)を活用し、物流領域を起点に顧客のサプライチェーンの課題を解決していくビジネスコンセプト「LOGISTEED(ロジスティード)」を掲げている。
車両をシェアリングすることで輸配送が効率化されるか実験
昨今、人口減少の影響によってドライバーが不足している。事実、2017年度時点で配送しなければならない荷量に対し、10万人のドライバーが不足しているという。
しかし、今後、人は減っていくという状況を考えると、ドライバーを増やすというより、現在の車両の輸配送を効率化するアプローチに関して議論をするほうが建設的だ。
そこで日立物流は協力先である運送会社4社と一緒に、それぞれが担当している配送先と車両を自由に組み替えた場合、輸送効率が向上するかどうかという検証を行った。
Supply Chain Guru
日立物流が使用したLLamasoftのSupply Chain Guruは、サプライチェーンを最適化するソリューションだ。
ユーザーは、実際のサプライチェーンに関するデータ(原材料、需要、BOM、人員、設備、輸送資産)をSupply Chain Guruというソフトウェアに投入することで、デジタルツインを作成し、デジタルツイン上で在庫最適化、ネットワーク最適化、輸配送最適化などを行うことができる。
そのため、ユーザーは勘に頼らない定量的なデータに基づいて、サプライチェーン全体を最適化するための、より良い意思決定が可能となる。
例えば、輸出企業がアンチダンピング(不当廉売関税)といった貿易上の問題に直面した際、第三国を経由して輸出した場合、これまでと比較して、コストメリットはあるのか、といった複雑な問題もシミュレーション可能だ。
※アンチダンピングとは、外国企業の産品が不当に安い価格で輸入されるとき、自国産業を救済するために追加的に関税を賦課すること。
Supplay Chain Guruはクラウドおよびソフトウェアでの使用が可能だ。ソフトウェアで使用する場合は、マシンには以下のスペックが推奨されている。
- OS:Windosw10(64bit)
- CPU:Intel Core i7 プロセッサー
- メモリ:8GB
- 容量:2x500GB
- 画面:1920×1080
実証実験の詳細
同ソリューションを用いて日立物流が取り組んだのは、同社の協力会社である運送会社4社それぞれが担当する配送と、各社の車両を自由に組み替えた場合、輸送効率が向上するかどうか、また、向上するのであればどのくらい効率が上がるかという検証だった。
検証は2018年10月から2019年1月の3か月間で、以下のプロセスに沿って進められた。
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データ取得
まずデジタルツインを生成するにあたりデータを収集しなければならないが、車両の動態情報は、もともとデジタル技術で管理されていなかった。
そこで、日立物流は「出発」「到着」「荷積み」「荷降ろし」といった各作業をドライバーに登録してもらうアプリケーションを開発し、同アプリがダウンロード済みのスマホをドライバーに提供した。
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デジタルツインの作成
ドライバーが登録した作業情報は、クラウド(AWS)にアップロードされ、日立物流はアップロードされたデータをcsvでダウンロードする。
そして、日立物流は、csvファイルに含まれるドライバーの入力ミスなどで欠損していたデータを一部削除し、Supply Chain Guruへアップロード。そうすると、運送会社4社の現状の輸配送が可視化される。
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輸送最適化
現状を再現した後、同社はSupply Chain Guruの輸送ルート最適化シミュレーション機能を用いて、運送会社4社の車両をシェアリングした場合の輸送ルート最適化を行った。
その結果、コスト削減効果は16%であることが確認できた。
なお、今回はデジタル上で最適化をしてみるという試みであったが、LLamasoftのソリューションは、Ford、Unilever、PEPSICO、intel、DHLなど様々な企業で導入され、シミュレーションした結果に基づいた意思決定が実際に行われている。
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現在、デジタルをビジネスに取り込むことで生まれる価値について研究中。特にロジスティクスに興味あり。IoTに関する様々な情報を取材し、皆様にお届けいたします。