「ロジスティクス」は製造業と小売業をつなぎ、産業に必要不可欠な業種だ。ただ、ロジスティクスと一言で言っても範囲が膨大なため、簡単に語るには難しい側面がある。
そこで今回、ロジスティクス業界について長年現場で支援を行ってきた、フレームワークス代表取締役社長CEOで、ダイワロジテック取締役の秋葉淳一氏に「ロジスティクス業界とデジタル教育」をテーマに現状を語ってもらった。第1回は「なぜロジスティクスにデジタル教育が必要なのか」について聞いた。
秋葉淳一氏は、株式会社フレームワークス代表取締役社長CEO。
大手鉄鋼メーカー系のゼネコンに入社、制御用コンピューター開発と生産管理システムの構築に従事。
その後、多くの企業のSCM システムの構築とそれに伴うビジネスプロセス・リエンジニアリング(BPR)のコンサルティングを担当。
現在は、上記の株式会社フレームワークス代表取締役社長CEOをはじめ、大和ハウスグループの複数企業で代表取締役、取締役を務める傍ら、学習院大学、金沢工業大学虎ノ門大学院、流通経済大学で教鞭をとる。
教育がほとんどない物流業界
IoTNEWS 小泉耕二(以下、小泉): ロジスティクスの世界では、デジタルを活用すればもっと効率化がされたり、仕事が楽になったりすることが多いのに、なぜ、現状ではあまりデジタルが活用されない、むしろ、したくないというマインドになっているのでしょうか?
フレームワークス 秋葉淳一氏(以下、秋葉): それは、「体系的に教育をされていない人が圧倒的に多い」というのが課題にあるからだと思います。
仮に物流会社に就職したとします。すると、現場作業や車に乗務する、あるいは配車をするなど、実務経験からスタートする。つまり、物流やロジスティクス全体の話の理解は飛ばしたところからスタートしているのです。これが理由のひとつだと思います。
一方で、荷主側企業に「物流の担当をしたいです」と言って就職する人はあまりいないのではないでしょうか。採用する側の人も「物流部門のために人を採用しよう」という話はいままでは聞きませんでした。
小泉: それは、総合職のあるある話ですね。イオンに入ったら物流センターに配属されたみたいな話ですよね?
秋葉: 例えば、バックオフィス系の仕事は、会社ごとの違いはそれほど大きくはありません。1か月、四半期、半期、通期という単位で見たときにやることは大体決まっています。大体同じなのですが、やり方が会社ごとで「ちょっと違います」ということが多い。
しかし、ロジスティクスの場合は、僕らが普通に「物流」「物流」と言ってるのは、「食品」「アパレル」「消費財」を取扱っている範囲のケースがほとんどです。ただ、会社によっては「車を扱っている人たちもいる」という実態があるわけです。例えば、日立物流では、「重量機工」といって、列車を運んでいる人たちがいます。また、「リキッド(液体)」といって、「燃料」や「牛乳」などを運んでる人も「物流業の人」と呼ばれています。
小泉: 危険物などを運ぶ場合もありますよね。
秋葉: そうです。危険物などを運んでいる人は、危険物の取り扱いはすごく詳しい。しかし、危険物を運ばない人たちが、どんなやり方で荷物を運んでいるかをほぼ知らない。だから、本当は入り口として、「物流の範囲は、もっとこんな広いよ」ということを知る機会が必要なのです。
小泉: なるほど。そうなのですね。
秋葉: 実際、何かを発注して製造し、運んでもらう場合、物流の内容には触れず、「物流費」と1行で書かれているだけです。最近では、大分細かくなってきましたが、20年ぐらい前は「物流費」の1行だけでした。実態としては、物流費の中には、いろいろなものが含まれているのにです。
メーカーなどの物流部門も「命令されればやる」というやり方が多い。荷物を運ぶだけならともかく、ロジスティクスの在り方について、ロジカルに考えるべきなのですが考えられていないのです。
小泉: ただ、その人たちも、毎日荷物を運んでいて「何か残業が多いな」とか、問題意識はあるわけですよね?
秋葉: それはもちろんあります。
小泉: 一方で、世の中で起きているダイナミズムみたいものを学んで、「もっとこういうことをしなければ」という話にならないものなのですか?
秋葉: 残念ながらなっていきません。全てではないのですが「言われたら頑張ります」という文化が多く、これが実は一番大きい問題だと思っています。
一方で、体系的な勉強の機会も存在しています。例えば、私が関わっている「日本ロジスティクスシステム協会」には、たくさん講座があります。そして、そこで学ぶ人たちは、年間で1000人ぐらいいます。
小泉: それは若い人が多いのですか?
秋葉: そうでもないですね。直近で私が講師をしている講座には、60歳を超えている人もいます。
小泉: 「ちゃんと知らなきゃいけない」という意識は芽生えているということですか。
秋葉: 本人から自発的にそういう意識が芽生えるケースもあります。また、会社として、この講座を受けて、その資格を取得することを、マネジメントになるひとつの条件にしているケースもあります。
小泉: なるほど。昇進のクライテリア(基準)なっているのですね。
「テクノロジーの使い方」に無関心な現場
秋葉: だから「全くできていない」というわけではないのですが、それを「社内で共有する」とか「社内でディスカッションする」とか、あるいは「それをお客さんに提案する」というところまでではありません。私が関係している講座でいうと、理解の達成レベルを目的にして体系立てて講座が開設されています。しかし、「ロジスティクス全体」という上位・全体概念の話ではありません。
もうひとつ重要なのは、現在、テクノロジーがどんどん変化・進化していて、消費行動もすごく変わってるのに、「テクノロジーの使い方」という話題には、なかなかならないことです。
小泉: 社会の変化、特にロジスティクスに必要なテクノロジーを教えてくれる講座がないわけですね。でも、肌感覚としては、例えば「eコマースの取扱量が増えた」とか「小口の荷物が増えた」ということは、みなさん、わかってるわけですよね?
秋葉: 当然、わかっています。
例えば、今、物流会社に属しているとします。その場合、「売り上げを伸ばすためにeコマースの仕事を取りに行こう」とか「eコマースの現場がすごく忙しくなってきて、オーダー数も増えてきて、在庫量も増えてきたからチャンスだ」といったことは数字データを基にしてわかります。
しかし、「それをこなすことが日々の仕事」であって「これを解決するために、数字データをどう生かそう、どういうテクノロジーを使おう」あるいは「どういう人たちと提携をすると、もっと効率がよくなるのか」という話になってはいかないのです。(第2回に続く)
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IoTNEWS代表
1973年生まれ。株式会社アールジーン代表取締役。
フジテレビ Live News α コメンテーター。J-WAVE TOKYO MORNING RADIO 記事解説。など。
大阪大学でニューロコンピューティングを学び、アクセンチュアなどのグローバルコンサルティングファームより現職。
著書に、「2時間でわかる図解IoTビジネス入門(あさ出版)」「顧客ともっとつながる(日経BP)」、YouTubeチャンネルに「小泉耕二の未来大学」がある。