変わる問屋とメーカーの意識 ーフレームワークス秋葉氏インタビュー3

「ロジスティクス」は製造業と小売業をつなぎ、産業に必要不可欠な業種だ。ただ、ロジスティクスと一言で言っても範囲が膨大なため、簡単に語るには難しい側面がある。

そこで今回、ロジスティクス業界について、長年現場で支援を行ってきた、フレームワークス代表取締役社長CEOで、ダイワロジテック取締役の秋葉淳一氏に「ロジスティクス業界とデジタル教育」をテーマに現状を語ってもらった。第3回は「変わる問屋とメーカーの意識」について聞いた。

物流に対する考えが変化した問屋

IoTNEWS 小泉耕二(以下、小泉):  秋葉さんが言うバースのデータ(第2回)は、共有するのが本丸だとしても、データを買いたいお客さん、要は次の拠点である、ショッピングモールの人たちが荷物が到着する時刻を知りたいという理由で、その仕組みを買うわけですよね?

フレームワークス 秋葉淳一氏(以下、秋葉): 小売業の人たちは、基本的にはおカネを払いたがりません(笑)。、例えば、自分たちの物流センターを持ったとします。

小売業には店舗ではなく、「センター納品」というやり方があります。そして、センター納品をさせた場合、彼らは、持ってくる発荷主、つまり荷物を出している側の人たちから、センターの費用として、おカネをもらっています。その考え方は「店に1個1個を届けるよりも、1か所に納品した方が楽でしょ、コストが掛からないでしょ、代わりに、私たちがやるからセンターの費用をください」ということなのです。

小泉: 要は分配するおカネを、メーカーからもらっていたわけですね。

秋葉: 小売業では、販売員を送り込ませたり、リベートを取ったりすることは昔からあります。このことは、多分、それと同じような発想なのだと思います。

小泉: しかし、それは基本的に大手の小売りだけですよね。問屋でも同じようなことはあるのですか?

秋葉: 問屋でも以前は行われていました。しかし、企業によってはすごく変わってきています。これには、例えば、「そんなところでおカネを取るよりも、逆に自分たちがロジスティクスをやった方が強みになる」という考えがあります。

小泉: 昔は、問屋が結局、倉庫屋だったわけですよね。問屋といっているけど、イコール倉庫だった。そうではなくて、倉庫も、いわゆるトラックでの物流やおカネ周りまで含めて全体をトータルで面倒を見るとなれば、本当の強みになって、本当にきちんとロジスティクスをやっていることになるわけですよね?

秋葉: 「メーカーが直接、リテイラーになっていったらどうしよう。自分たちは帳合しか強みがなくなる」と、問屋が危機感を持った業界はそうでした。

小泉: でも、食品の場合、加工をしたり、分配をしたりしていますよね。最近の三菱食品などのホームページを見ても、問屋業というよりは、製造業・加工業みたいになっている。

秋葉: 例えば、三菱食品、伊藤忠食品、国分は、今もう外せない会社です。自分たちがやる領域を広げて、それを強みにして、逆にいないと困る状態にした。それがメーカーにとっても、小売りにとっても必要だ、という状態を彼らは作ったわけです。

小泉: そうですよね。「間に入っているだけ」と言われていたけれど、メーカーにとっても小売りにとっても、よいことやってくれるから、もう彼らに任せておいた方がいいじゃないか、みたいなことですよね?

秋葉: そうです。すごく価値を上げていると思います。そして、彼らは「この先々を考えたら物を運んでいるだけではダメだよね」「帳合をしているだけではダメだよね」と、まだまだ考えています。そして「物流に流れている情報は事実だから、このデータをもっと活用できるよね」という話になってきています。

小泉: そうなんですか。モノが動いているデータを使って、もっと別のビジネスに展開していくわけですね。

秋葉: 食品は嗜好(しこう)品ではないわけです。ということは、結局、人間の胃袋がキャパシティになる。いろいろな商品があるけれど季節波動の中でどういう動きをするのかということです。例えば、メーカーが違っていても、お茶はお茶です。また、鍋の季節になれば売れるものは決まっています。そういうデータをどうやって使うかという世界になってきているわけです。

小泉: 私はイオンなどの大型スーパーマーケットが、そうしたデータをPOSデータから取ってきてメーカーに売っていると思っていました。

秋葉: 今まではそうです。20年ぐらい前は、POSデータを持っている彼らがすごく強かった。これは小売業がいくつかあって、初めてエリアの需要予測が成り立っている。しかし、食品卸はほぼ大手3社ですよね。

小泉: 要はイトーヨーカドーにも卸しているし、イオンにも卸してるから、三菱食品が見た方がよいということですよね。

秋葉: 食品は、メーカーの名前は知っているけれども売り上げ規模が小さい会社が圧倒的に多い。だから、ここでまとまっているデータが一番正しいわけです。

小売りは、前年対比どうこうという数字によくも悪くも左右されて、販売計画を立てて、在庫計画を立てて、需要予測をしています。メーカーはメーカーで自分たちの商品を売りたいという人が考えた数字から始まっている。

しかし、物流の数字は「事実」です。当然、物量としてのキャパシティを考えるために予測はするけれども通過するデータは事実なわけです。販売側の計画や予測には、人間の思わくが入るので、何月何日に、何個が発注されたとか、そのときの天気がなど事実に基づいたデータが一番の価値になるわけです。

小泉: それがわかってくるとメーカーから出荷する量もコントロールできるし、倉庫に入ってくる量もコントロールできるし、店頭に並ぶ量もコントロールできるというロジスティクスが成り立ちそうですね。

秋葉: 例えば、商品カテゴリーで見ると「最近こういうカテゴリーが人気」ということがわかる。その中で、どこまで情報を開示するかはあるが、メーカーAのこの商材のシェアはこれくらいということが全部わかる。

小泉: それは加工品やメーカー製品ですよね。NB(ナショナルブランド)などのメーカーの商品に関しては、問屋が絡むことが多いと思います。しかし、生鮮や、お酒も含めた飲料系は別分野の話ですよね。

秋葉: 別分野ですね。それでも小さいメーカーは問屋を通して入れてくる。なぜなら小さいメーカーからすると問屋に任せた方が楽だからです。大手のメーカーは代理店を通している。飲料系もそうです。お酒だけは違います。

小泉: サントリーやキリンは、自分たちでやっているイメージがあります。

秋葉: 大手の飲料メーカーは独自でやっています。

小泉: それは清涼飲料水系やジュース系とお酒系のどちらもですか?

秋葉: どちらもです。

小泉: 小規模の清酒メーカーなどの小口の人たちだけが、小さい問屋なんですね。

秋葉: その方が、販売力がないという話になってしまうからです。

規模や品ぞろえで欠品への意識は変わってくる

小泉: そうすると、小さい清酒メーカーや加工品メーカーの人たちは、問屋の営業力によって、店頭に並ぶかどうかが決まるわけですよね。これは結構イヤなことではないですか。

秋葉: 逆に、成城石井や地方ローカルのスーパーで、日本全国のおいしいものを探してきたという店が流行(はや)っています。それは消費者も多様化しているから、せんべいならせんべい、みそならみそで並んでいる中で安ければいいという人もいるし、少し高くても、おいしいもの、よいものを買いたいという人もいるので、同じだと思います。

小泉: それで今度は、大手スーパーが成城石井に寄っていって、マルコメのみそも売っているけど、ローカルのみそもあるみたいになっているわけですね。それでは、やはりイオンなどのバイヤーは大変ですね。

秋葉: イオンやヨーカドーはグループ会社も含めると店舗数が多いので、店長や売り場の人の教育が大変だったわけです。だから、成城石井のような店の広さも店舗数も、それほど大きくはない中でやっている店員と、イオンのように、全国であれぐらい大きな規模感の店舗を展開している店員さんとでは全く違うと思います。

小泉: そうですよね。欠品に対する考え方がまず違いそうです。成城石井は別に欠品していても怒らない。そもそも元々の品ぞろえが分からないから、欠品しているかが分からない。しかし、イオンでいつもの商品がないと「なぜなんだ」ということになります。消費者マインドとしても完全にそうなりますよね。

秋葉: それはアパレルも同じです。例えば、ZARA(ザラ)は2週間に2回、商品が変わります。だから、店で見て、今買わなかったら、次に来たときはないだろうということは、買いに来る人たちも思っているわけです。

一方、ユニクロの場合は、定番比率が半分ぐらいあるので、それがなかったら、客がめちゃくちゃ怒ると思います。「私が欲しい、この色サイズだけ、どうしてないんだ」という話になるわけです。だから、消費者も多様化しているけれど、売る側も多様化をしていて、それがどうやってマッチングしているかだと思います。

小泉: 一言でロジスティクスといっても、消費者が買い物をする店側の考え方のマインドも大事だし、メーカー側の方もコントロールをしなければいけないわけですね。

秋葉: そういうことをどれだけわかって提案しますか、配車の計画をしますか、センター運営を考えますか、みたいな話なのです。

小泉: 今の話を聞いただけでも、正直、倉庫は大変だなと思いました。

秋葉: 本当にそうです。そして、倉庫運営をしていても自分たちの得意分野がそれぞれあるわけです。だから、「アパレルが強いです」と言ったとしても、我々のグループに入ったアッカインターナショナルは店舗よりもネットの方が強い。一方で、店の配送というか、オペレーションが強くて、ネットの方が弱いという会社もいるわけです。(第4回に続く)

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