ECに強い物流とは ーフレームワークス秋葉氏インタビュー4

「ロジスティクス」は製造業と小売業をつなぎ、産業に必要不可欠な業種だ。ただ、ロジスティクスと一言で言っても範囲が膨大なため、簡単に語るには難しい側面がある。

そこで今回、ロジスティクス業界について、長年現場で支援を行ってきた、フレームワークス代表取締役社長CEOで、ダイワロジテック取締役の秋葉淳一氏に「ロジスティクス業界とデジタル教育」をテーマに現状を語ってもらった。第4回は「ECと物流会社の関係」について聞いた。

ECとBtoBでは作業プロセスは全く異なる

IoTNEWS 小泉耕二(以下、小泉): 「物流においてネットに強い」とは、どういうことなのですか?

フレームワークス 秋葉淳一氏(以下、秋葉): センターの中の、作業プロセスの組み立て方だと思います。

店に出す荷物は、元々ささげ(「撮影(さつえい)」「採寸(さいすん)」「原稿(げんこう)」の頭文字からくる。EC運営において重要な役割を果たす。)の機能がないということもありますが、まとめて出荷します。そして、ECでは1個、1個をきちんと梱包して、ひとつも数を間違えてはいけない。その上で、一番やってはいけないのは、例えば、小泉さんのところに僕の納品書が入ってしまうことです。こういうことは絶対にダメなのです。

ただ、店に出している荷物は名義が換わらない。例えば、「アパレル小泉の荷物」を「アパレル小泉の店」に持っていっているから名義は換わっていないわけです。そして、個人情報もないから、仮にここを間違えたとしても、叱られて「すいませんでした」と謝ればまだ済む。しかし、ECの場合には、センターを出た瞬間に届け先が個人になる。つまり、ここ(センター)が最後の砦になるわけです。

小泉: そうですね。その間違いは完全にアパレル小泉にクレームが来ます。客はまさか間の配送センターを別の会社がやっているなんて知らないですよね。

秋葉: 仮にアパレル小泉の店舗に出荷している物流センターがあった場合、基本的には数時間で行ける範囲にあるわけです。これが、コンシューマーに送るとなると、宅配事業者に渡します。

そして、宅配事業者が翌日配送するために、例えば「16時までに出してください」と言ったら、それに間に合わなかった瞬間に、お客さんには約束した翌日に届かなくなります。一方、店の場合は、何時間なので、1時間ずれても、車を待たせておけばいい。だから、もう物流に対する厳しさ、レベルが違うわけです。

小泉: そういうことを聞くと、アマゾンが辛(つら)いといって、ヤマトの人たちが嫌がっているのが何だかわかります。私もアマゾンで最初に買った一時間後に、違うものを気軽に買ったりしている(笑)。「まとめて買えよ」という話ですよね。ただ、まとめて届けてくれるときもあるけど、まとめて持ってきてくれない場合もあって、そのときには「何でだ」と思ったりはします。

秋葉: そういう話です。例えば、「店舗は開店前に持ってきてください」というのがルールだから、夜のうちに積み込んでおく。夕方までに積み込んで、次の日の開店前には車が来るというわけです。そして、先ほど言ったように、仮に1時間とか2時間ずれても、運送会社との間はあるけれども、対お客さんという意味では困らせずに済みます。

小泉: これは、eコマースが得意なロジスティクスと、これまでやってきた普通のサービスということですね。

秋葉: 一方で、eコマースでずっと伸びてきた会社に、「店をやれ」と言っても、倉庫内のオペレーションはeコマース用になっている。

小泉: 業務フローがないですよね。

秋葉: すごくきちんとやらなければいけないことを前提にした業務プロセスだとすると、コスト的に、店舗向けには合わない。彼らは、お客に叱られないように箱へ、きれいに詰めていくことや、それが間違ってないかを検査することをやっているわけです。「最悪、1個を間違ってもいいよね」という業務プロセスでコスト計算をしているのとは全く違うのです。

小泉: 全然、違いますよね。それでよいのかという問題は置くとして、でも、そういうことですよね。

秋葉: 一方で、「在庫」という部分でいえば、物理的ではなく、数字としては共有した方がいい。オペレーションをある程度、分けた方がよいという話です。

現実問題として、例えば、店に商品を送るときには段ボールケースに入ったままで送ればよい。しかし、個人に送るときには、「1個か2個なので、絶対に段ボールケースからバラします」という話になるとしたら、在庫で保存・保管をしてる場合に、段ボールケースのままと、ピッキングのために前準備でバラしておくものをある程度は考える必要がある。

段ボールであれば、段ボールを前提にした置き場所に置かなければいけない。個包装であれば個包装前提の場所に置かなければいけない。数字の話と物理的な話では、ここが違うのです。

独自オペレーションで個人も法人も対応するアスクル

小泉: そうであれば、なぜアスクルのような会社は両方を持っているわけですか?

秋葉: アスクルは全く違うオペレーションをしています。BtoBでオフィスに送るときも、LOHACO(ロハコ)で個人に送るときも、基本はバラされるのが前提なのです。毎日届くからといって、ムダなものを会社や事務所はオーダーしないですよね。

小泉: 私の場合は、紙ペーパーを買いすぎて、棚一杯になったことがあります(笑)。

秋葉: 紙は紙で面白くて、個人で紙はそんなにたくさんは出ない。だから、LOHACOの方は大したことはない。しかし、オフィスの方は誰が買うかは別として、相当な量が出る。なおかつ、オーダーが入ったうちの何割かには紙が含まれていることは、統計データでわかる。

そうすると、紙以外に何を買うかはわからないけれど、例えば、10万件オーダーが入ってくるうちの、6万件は紙を買う。そのうちのさらに半分の3万件は一包を買うということがわかっていれば、前の日から一包みを仕分けておくわけです。

小泉: あらかじめ統計から準備をしておくわけですね。

秋葉: これを前の日にできるかできないかで、全く作業が変わります。また、ECでいうと「単伝」という言い方をするのですが、明細行が一行のことをいいます。オーダーは、ヘッダーに例えば、名前や届け先などが書いてありますよね。明細票で、何々が1個、何々が1個、何々が1個って入ってくるのが伝票のイメージだとすると、それが一行なのが単伝というわけです。

小泉: 「単発の伝票」ということですね。

秋葉: そうです。そうなると、小泉さんに送るべき箱の中には1種類だけしか商品が入らない。

だから複数を集める必要がない。そのため、それだけは全く別のオペレーションをします。そして、作業効率は非常に上がります。これがベーシックな考え方です。なおかつ、最近よく売れているモノが、1個でも出る可能性が高いのであれば、前の日から用意ができるのです。

小泉: それはピッキングフロアの中の取りやすいところに、バーっと置いてある感じなのですか?

秋葉: そうです。例えば、アルコール消毒液と何か別のものの両方を買う人がいるとすると、両方がピッキングされて詰め合わせるのを待たなければいけないから、仕分けをしておいて、しばらく待っている状態にするわけです。

そして、これを待っているのであれば、2個目を待っても、3個目を待っても、4個目を待っても、基本的には一緒なのです。

小泉: 単伝ではないということですね。まるでパズルの世界です。

秋葉: そういうことをやっている人たちは、それが当たり前と思っています。そして「何でそうしているのか」や「何でこれが、効率がよいのか」については考えないのです。(第5回に続く)

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