2. 顧客が自ら製品をデザインする時代へ
最近ではさらに、「マスカスタマイゼーション」の次の展開として、「パーソナル・ファブリケーション」というコンセプトも期待されている。これは、顧客のPCと企業などが持つ3Dプリンターや工作機械がつながり、顧客が自らオリジナルの製品を設計・製造できる環境のことを指す。
3Dプリンタの普及や、ものづくり関連のデジタルデータが増えていくことによって、このような「顧客が自ら製品をデザインできる」しくみは次のトレンドとなるだろう。
実際に事例も出てきている。製造業を中心とした企業が垣根をこえて“つながる”ものづくりを推進するフォーラム、インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)は、「コンビニ型ファクトリー」をテーマにかかげ、「製造現場と最終顧客をつなぐ」新しいものづくりのしくみをつくろうとしている。
具体的には、メーカーの工場と消費者の間に「コンビニ型ファクトリー」を設け、消費者が欲しいB2C商品を「いつでも、どこでも」オーダーメードできる場所やWebサイトによるプラットフォームをつくる。消費者ニーズはSNS活用により収集し、製造現場のエッジと連携させる。
メーカーのマーケティング戦略用途においては、消費者がその場でオーダーメードが試せる「試験店舗」の出店も行うという。
3DEXPERIENCEプラットフォームを展開するダッソー・システムズは、ユーザー自らが家具やキッチンをデザインできるサービス「Homebyme」を提供している。
家具やキッチンはずっと使うものであるから、顧客が自分でデザインしたいというニーズは高いと考えられる。しかしこれまでは、家具やキッチンを顧客自らがデザインするには、紙の図面や設計者と顧客のコミュニケーションを用いるしか方法がなかった。それが3D空間を使うことで、設計者と顧客がアイディアと工程を共有しながら、より柔軟にデザインができるようになるのだ。
3Dプリンタによる積層造形では、「ジェネラティブデザイン」という考え方も新たに出てきている。
従来の製品の設計においては、3DCADデータを用い、基本的には規定のデザインに沿って、強度などのパラメータを最適化していった。しかし「ジェネラティブデザイン」においては、ある「強度」のパラメータさえ入力すれば、人工知能(AI)がその強度を担保した最適なデザインを、植物の葉や動物の骨などの自然法則をもとに導き、3Dプリンタなどの機械が自動で出力する。
そうした場合には、人間がこれまでに見たことないような、ある意味”奇妙な”デザインの製品がつくられることもあるという。しかし、どんなに形が悪くても、「強度」を最優先に求める顧客にとっては、魅力的な生産方法になるのだ。
次ページ:3. スマホユーザーの実態にみる、顧客ニーズの変化
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技術・科学系ライター。修士(応用化学)。石油メーカー勤務を経て、2017年よりライターとして活動。科学雑誌などにも寄稿している。