MWC2019バルセロナが閉幕してしばらく経つ。日本国内ではまだ帯域が決まっていないこともあり、まだ本格的に市場が動き出しているとは言えない状態だ。先日のNTTドコモの発表では9月から始まるプレサービスでも本格サービスを意識したものを打ち出すということだが、実際に我々の事業で使えるようになるのはいつ頃からなのだろうか。
先般レポートしているように、今回のMWCにおいて、まずは数が出るスマートフォンが主要メーカーから登場した。一方で、5G通信自体がスタートしているといわれている地域でも、初めは限定的だという。
また、当初は4Gの通信と共存せざるを得ないと言う状況もあり、国内では、4Gと5Gが共存する方式となる。その結果、通信の柔軟性が予測されているよりは少なくなってしまうのだ。それは、特に上りと下りの帯域を状況に応じて使い分けることができないという点にあるといえる。
現在4Gが主流だが、ご存知の通り3Gの通信も保証されている。いまだに、地方などに旅行をすると3Gになるエリアもあるくらいだ。この状態にあって、5Gが簡単に追加されるという状態でないと言うのも理解できるだろう。
では、なぜ、上り下りの帯域を状況に応じて使い分けることができないと、よくないのだろうか。
みなさんが使っているスマートフォンは主に下りの通信を使っているといえる。高品質な動画を閲覧したり、立体的なゲームで遊べるのは高速通信といっても下り、つまりキャリアからスマートフォンへの通信だ。
しかし、IoTの時代になると上りの通信もデータが発生するようになる。例えば、現在あるセキュリティカメラは画質が良くないものも多い。ここをよくしたいと思っても、上りの通信が貧弱だとデータはクラウドにアップロードすることができない。
もちろん、この手の解決策としてエッジ側、つまりカメラ側をインテリジェントにするという考え方もあるが、セルラー通信+クラウドの価格と、インテリジェントなカメラとどちらが安いと言えるのだろうか。これは一概には言えない問題ではあるが、クラウドの潤沢なリソースに、多くのデバイスがぶら下がる構造になる可能性があるサービスでは常に考慮しなければいけない問題となる。
一つの例として、コネクテッドカーがよくあげられる。クルマが取得する大量のデータをクラウドに上げていくことが要求される前提で作られた場合、高速・低遅延・大容量といった5Gの特徴は大きく影響してくると言える。
しかし、このクルマが5Gの飛んでいないエリアで走行したらどうなるのだろうか。
現在でも、山岳地帯など電源のないエリアに電気自動車でドライブにいくのはかなり怖い。通信も同じように届かないところではこの手のクルマは走行できない、もしくはヒトが運転せざるを得ない状態になるかもしれない。
よく言われているユースケースを紐とくと、これほどまでに期待はずれともいえる状態で、なぜ、5Gにこれほど注目が集まるのだろうか。
私はそれは、リアルタイム性(低遅延性)にあると見ている。
これまで遠く離れた地域の状態をリアルタイムに見たり、操作したりすることはできなかった。ある意味瞬間移動を実現したような体験も可能なはずだからだ。
これまで体験したことのない、空間を共有するようなことが実現できるとしたら、大きく我々の体験は変わるだろう。
その一方で、期待が大きすぎるのではないかという論調も見かける。これは、5Gがこれまでの2G,3G,4Gの延長上にある通信であるからではないかと思われる。
2Gから5Gまで、基本的には高速・大容量・低遅延ということをどれだけリアルタイムに近づけることができるかというテーマで技術は成長してきていた。
一方で、4Gくらいの体験価値でもヒトは十分時間と距離を超えた体験を実感することができている。スカイプを使えば、海外にいる友人ともすぐ話すことが得きるなどこの例といえるだろう。
長年培った、洋服を着て外出する、人と会う、話す、といった、生活スタイルを崩さない範囲において通信技術の進化の恩恵を受けるには4Gくらいで十分なのだろう。
では、果たして人が求めているリアルタイム通信とはどういうものなのだろうか。
まず、5Gであっても、これまでと異なる体験ができるので、体験してみればこれまでとは違うことは理解することができる。その一方で、リアルタイム通信が世界のインフラとなった際、必要なのはその上に流れるデータの構造化であったり、データ交換を行う仕組みのはずだ。
例えば、国もルールも違うところで、自動運転のクルマが走る社会をイメージしてみてほしい。未来のクルマは、街のインフラとも連携しようとすると、データは構造化されている必要があるし、そのデータ交換の方式も決まっていないと安心して暮らすことすらできなくなるだろう。
世界には大きな株式市場があるが、例えば、ロンドン市場の動きをリアルタイムで見ながら他の市場の株を売買するといったことも、通信が高速になればなるだけ反応を早くすることができる。そうやって、情報収集のスピード格差を生かして取引を行うことは今でも十分可能だが、これがもっと高速になることが想像される。そうなった時、利用しているキャリアの信頼性に依存することとなり、通信障害などがあると多大な損害を得ることになるだろう。
遠隔医療が5Gでは現実化されるというが、これも医療機器によって異なるデータ通信を行なっていたり、通信障害を手術の途中で起こしたらどうなるかと考えると、とても現実的とは言えない。
つまり、リアルタイム通信を前提とした様々なサービスは、高速・大容量・低遅延の特徴だけでは済まされないことがたくさん起きるのだ。こういったことを、順次実験していき、必要な通信サービスを生み出せたタイミングで今はまだ見ない6Gの世界が来るのかもしれない。
いずれにせよ、まずは体験してみてそのすごさを味わうべきだ。そして、様々なユースケースに対して必要な仕組みを順次整えていくことが何より重要だ。
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IoTNEWS代表
1973年生まれ。株式会社アールジーン代表取締役。
フジテレビ Live News α コメンテーター。J-WAVE TOKYO MORNING RADIO 記事解説。など。
大阪大学でニューロコンピューティングを学び、アクセンチュアなどのグローバルコンサルティングファームより現職。
著書に、「2時間でわかる図解IoTビジネス入門(あさ出版)」「顧客ともっとつながる(日経BP)」、YouTubeチャンネルに「小泉耕二の未来大学」がある。