2017年1月のCESを皮切りに、ほぼ毎月のように様々な国と地域を訪問した。
通常、展示会に行く目的としては、「新しいネタ」を探すために行く場合が多いと思うが、私の場合は毎年参加することで、昨年までと比較を行い、大きな流れの変化を感じるようにしている。
展示会で発表があったものが、すぐに製品化されるものばかりではないので、すでにできているのか、もう儲かっているのか、ということを聞きながら歩くことで、どういうことが世界で起きているのかがわかるのだ。
例えば、台湾で開かれるCOMPUTEXに参加した際、今年教えていただいたことがある。「COMPUTEXに同じようなものが並び始めると、米国などからそれに類する商品の大量発注がかかっていることが多い」ということだ。
例えば、スマートフォンが流行りだした時のCOMPUTEXは、有名メーカーのスマートフォンの類似製品やサプライ商品が多く並んだのだ。
そして、今年のCOMPUTEXでは、スマートフォンの展示はほとんどなかった。ドローンやスマートホーム、VRといった展示が少しずつ展示スペースを分ける形になっていて、決め手に欠ける展示会になってしまっていた。これは、現状の世相を反映しているなと感じた。
一方で、2017年、NVIDIAに代表されるようなGPUを使ったAI向けコンピューティングが、エッジ側で展開されだしてきていることを考えると、もしかしたら来年のCOMPUTEXではGPUの展示や、そのインプリメント製品が増えているかもしれない。
こんな感じで、それぞれの展示会を分析していくのだが、IoTのコンセプトの普及からか、最近では業界別、目的別展示会でもIoTが取り上げられるようになってきていてる。そこに加えて、大手企業を中心にプライベートイベントを開催するケースが増えてきていて、出展する側も、取材する側も対応に追われる状態といえるだろう。
スマートホームの多いな展示会といえば、毎年1月にラスベガスで開催されるCESと、9月にベルリンで開催されるIFAだ。これらの展示会で発表される多くの展示物は、PoC段階のものと、製品化されているもの、さらに、製品化されてビジネスになっているものに分かれる。
PoC段階のものは、当然のことだが、まだこれからどうなるかはわからないものが多い。では、スマートホームの分野において、どういうものがPoC段階で、どういうものが製品化されてビジネスとして成立しているのだろうか。そして、2018年はどういう考え方が必要になるのだろうか。
すでに製品化され、ビジネスになっているもの
コンシューマ向けサービスである程度市民権を得ているものとしては、スマートホームのためのデバイスがこれにあたる。米国BESTBUYやAmaozonなどで販売していて、実際に生活の中に取り入れられているものだ。コンセプトレベルで毎年変わらず展示し続けられているモノもあれば、すでにセールスができておりグローバルに展開を始めているモノもある。
RINGは2012年にスタートした後付けドアホンで、カメラが付いているので遠くにいても、訪問者がわかるというモノだ。
電池駆動で動くタイプが設置しやすいのだが、画質をよくしすぎたり、頻繁に通信をするとすぐに電池が切れてしまうためか、モノクロの映像にしたり、インターネット経由でみるために、あえてコマ落ちした画像を表示するなどの工夫をしている。
この業界ではガリバーとも言われる、ハネウェルのシェアを着々と食いつぶして行っている状態だ。
なぜ、数あるスマートホームのソリューションの中で、RINGが結果を出せているのだろうか。
スマートホームのソリューションは、大きく分けると、以下の5つにわけることができる。
- 1. 安全性を高めるもの
- 2. 省エネを進め料金が安くなるもの
- 3. 家ナカ家電をコントロールするもの
- 4. 健康増進をはかるもの
- 5. エンタテイメントとして楽しむためのもの
この5つの分類において、1と2については目的を消費者に訴求しやすい。一方で、3,4,5は訴求しづらいものとなる。
前述した、RINGは安全性を高めるもので、すでにこの手のサービスはあったのだが、庶民には手が届かない価格のものが多かった。スマートフォンの普及タイミングとも同期して展開できていて、安全性に関して関心の高いエリアでは従来のセキュリティ製品の廉価版を出したり、これまでインターネット経由でできなかったことを実現したりすることで、「顕在化していた需要」を喚起してビジネスにすることに成功している。
エコ意識をたかめる啓蒙活用だけでは広がることがなかった省エネ関連製品も、省エネを実現した結果、電気料金や水道料金が安くなるIoT製品がでてくることで、「顕在化していた需要」を喚起することに成功しているのだ。
こういった米国(特に西海岸)での成功をみて、「日本でも同じことを実現したい」と考えても、社会の環境が異なるため同じようにはいかない。日本は夜中でも出歩けるくらい安全な地域が多く、省エネ対策がなされた家電製品で溢れている。元来、無駄使いをしないことを美徳とした国民性からは大きなコスト削減効果を得ることは難しい。
そこで、市場は小さいかもしれないが、「都会の一人暮らしの女性向けに安全性を考えたサービスを展開する」「老々介護者の課題を解決するサービスを展開する」といった、ターゲットを絞ったサービスを展開することが重要になるのだ。
しかし、こういったサービスは、その有用性がターゲットに届かないとビジネスとしては成立しづらい。しかも、マーケットが小さいため、これまでのコスト構造では大手企業が参入しずらい。
また、マーケットが小さいとテレビCMなどを使ったわかりやすい訴求をすることもコスト的に難しくなる。一方で、今の課題を解決するような新商品は、テレビで受動的な「ながら視聴」をするような消費者に訴求するのが有効だから、2018年は「社会現象としての安全や高齢化社会」という文脈の中でうまくPRをしていうことが重要になるだろう。
こういった顕在化した課題を解決するスマートホームのソリューションはイメージもしやすいし、ビジネスモデルさえ描ければ投資もやりやすいだろう。マーケットが見えやすいのでファンディングもやりやすい。
しかし、3,4,5のいわゆる「おもしろいモノ」については、ビジネスとしてみたとき苦戦しているというのが現状だといえる。
実際、展示会でも様々な面白いモノが登場しているが、「それでどれくらいの市場が取れそうなのか」「どういうマーケティングを考えているのか」という質問をぶつけると、「クラウドファンディングを使って認知を広げつつ販売する」といったくらいの話しか出てこないのだ。もちろん、クラウドファンディングを使って認知を広げたその先まで検討していて展開するための資金を融通したり、量産のための生産工場に目処が立っているのであればよい。しかし、多くのこういった商品が、例えば屋外での利用を想定しているにもかかわらず防水などの対策が考えられていなかったり、販売後のサポート組織がなかったりと、当面の認知促進にばかり目がいっていて、ビジネスとしては幼稚なものが多いのも事実だ。
モノの製造と販売は、インターネットサービスと同じようにはいかない。
これからのビジネスとして期待できるもの
Amazon EchoやGoogle Homeなどは、「音声応答」という新しい体験を提供することで「話題性」を創出している。しかし、実際に使ってみるとスマートフォンのような「手放せない」感が薄く、「使いこなせる人」と「使いこなせない人」に大きく分かれているという状況だ。
かつて、ソニーのウォークマンは、「音楽を外でも聞くことができる」ということで、音楽好きの消費者にとって「手放せない存在」となっていった。「おもしろいモノ」を作る場合は、こういった「潜在的な需要」に気づき、それを喚起することが重要になる。
その後、音楽プレーヤーは様々な進化を遂げたが、iPodが発表されるまでウォークマンのようなヒット商品がでることはなかった。これは、音楽プレーヤーとして満たされるべき機能的な進化にコンシューマはすでに満足しているのに、さらに技術面からのアプローチで進化させようとした結果と言えるだろう。
その後iPodがアップルから発表されて、そのプロモーション内容から、「スタイルとして取り入れることのクール」さがとりだたされるようになったが、実は技術的な側面でも意欲的なアプローチが行なわれている。
実際、ハードウエアとしてのiPodが実現できたことはすでに他のメーカーの製品でも十分実現できていた。そこで、アップルは、インターネットの普及という「外部環境の変化」にあわせてiTunes Storeと呼ばれる楽曲ダウンロードサイトを充実させることで、店頭であらゆるアーティストの楽曲が買えるようなシチュエーションをコンシューマに提供したのだ。
戦略的に見ると、SWOT分析における、S(Strength)の拡張とO(Opportunity)への着目と言える。
つまり、ハードウエアメーカーにとってみれば一見関係がないと思われていたインターネットの普及を、自社の得意分野にうまく取り込んで楽曲提供するというサービス自体をリビルドしたことがiPodとiTunes Sotreの起こしたイノベーションだといえるのだ。また、消費者にとっても、特定のジャンルや特定のレーベルのアーティストだけ聞けても意味がないことにも着目し、テクノロジーの裏側でハードなアーティストとの交渉が行われたことも大きい。
使い古された例かもしれないが、この例でもわかるように、いわゆる「おもしろいモノ」をサービスとする場合、社会の動きを捉えた(Opportunityに着目した)展開が重要になることがわかるだろう。そして、単純な機能の優位性では商品がうれない昨今、この展開を行うことが必須になるのだ。
2018年に考えるべきOpportunity
では、2018年はどういう変化がおきるだろう。2017年単年をみるかぎり、「インターネットの登場」のようなインパクトのある社会の変化は起きていないように感じられる。大きな変化はあるとき突然やってくるが、その一方で大きな変化がない年というのも当然存在する。
2017年のCESやIFAでは、「Alexa対応」をうたう製品で溢れかえっていた。その一方で、既存のメーカーの方にインタビューをすると、「とりあえずいれているだけで、どういう価値がでるのかはっきりしていない」という。音声応答エンジンによる価値は、別の記事で解説している通り、「生活の自然な流れの中に溶け込む音声でのやりとり」だといえる。つまり、単体の製品に対して音声応答エンジンを取り入れる明確な理由はあまりないのかもしれない。
例えば、これまで家電製品が故障した際、無機質なエラーコードが表示され、どこに行ったかわからないマニュアルを探し出してはひっくり返し、なかなか繋がらないフリーダイアルに電話をしていたという事実がある。そこで、故障を認識したら対応方法を音声で伝え、部品の調達が必要な場合は購入時の情報などにしたがって対応の流れの中で購入が可能となり、微妙な不明点も音声のやりとりやディスプレイを使った映像での解説をつかって解消するということを考えるのだ。
考えてみれば、ECによる注文は以前と比べて抵抗がなくなってきているヒトも多いのではないだろうか。その割には、ECは単体のサービスとなっていて、他のサービスと接続していないケースがほとんどだ。こういったIoTで検知できることをECに繋げるというサービスについても2018年は検討の余地があるだろう。
家電製品に対しては、これまでの操作の代わりとして、単純に音声応答の仕組みを導入しても、習慣として「スイッチを押すだけ」という利用に慣れている場合、その機能が「とても欲しい」と思う人は少なくなってしまう。
そこで、音声スピーカーやスマートフォンについては、「私的なエージェント」になると考え、複合的に系の中で利用することで新たな体験を生み出すこととなると考えるべきだ。
「帰るときに洗濯を開始しておいて」とエージェントに伝えると、GPSなどでスマートフォンが「帰るとき」を認識して、自宅の洗濯を開始するといった具合だ。
そして、こういった変化は、音声応答エンジン以外にも見られる。
自動運転がそれだ。現在、SF的なハイテク感だけでなく、物流におけるラストワンマイル問題の解消や、シェアリングバス、過疎地域での高齢者の移動補助など様々な利用シーンが打ち出され始めている。
これと「家」との接点はどう考えれば良いのだろう。例えば、荷物の配送が自動運転化されるのであれば、「荷物の受け取りもロボット機構のある宅配ボックスが自律的に受け取る」というシーンが考えられる。ロボットが受け取る前提であれば、そこにブロックチェーンの技術をつかった認証システムをいれることで、これまで不在時には受け取ることができなかった、高いセキュリティレベルが求められるモノの受け取りもできる、新しい物流サービスをつくることも可能になるかもしれない。
IoT/AIによって創出される価値が、「モノ同士が(ヒトを介さず)協調して動くこと」だとした場合、自動運転との組み合わせで、こういうサービスはいくつも思いつくだろう。
そういったサービスの系の中で、自社の強みが生きるのであれば自動運転を研究開発しているチームと共創していけば、新たな市場を自社のサービスでとっていくことも可能なのだ。
こういった、着実な変化としての「自動運転による移動の再定義」と「音声応答エンジンによるユーザ体験の再定義」そして、「あらゆるモノのロボット化」が起きている。そして、これに関して、すでに大きな変化を予感しているひとも多いことだろう。
多くの消費者にとっての「当たり前」を覆し、「飽和している」と考えられている市場を湧き立てるようなサービスは、こういった「変化」と「当たり前」を掛け合わせることで実現されるのだ。
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IoTNEWS代表
1973年生まれ。株式会社アールジーン代表取締役。
フジテレビ Live News α コメンテーター。J-WAVE TOKYO MORNING RADIO 記事解説。など。
大阪大学でニューロコンピューティングを学び、アクセンチュアなどのグローバルコンサルティングファームより現職。
著書に、「2時間でわかる図解IoTビジネス入門(あさ出版)」「顧客ともっとつながる(日経BP)」、YouTubeチャンネルに「小泉耕二の未来大学」がある。