日常生活の中で違和感のないウェアラブルデバイスに出会ったことがあるだろうか。もし、メガネをかけるだけで自分の状態がわかるとしたら。
今秋に発売予定のJINS MEME(ジンズミーム、価格未定)、これは今の自分の疲れ、気分、眠気が見えるウェアラブルアイウェアだ。
ウェアラブルといっても、これまでのカメラやディスプレイがついた大型のウェアラブルグラスとは全く違う。GoogleやEPSONが発売したウェアラブルグラスは、インターネットにアクセスできたり、迫力ある映像が目の前に出現したりという「外の世界」を見るものだったが、JINS MEMEは、外ではなく「自分の内側」を見るメガネだ。
今回、メガネ・アイウエアブランドJINSの店舗開発、VMD、MDを経て、Air frameシリーズ、JINS PCシリーズ、Jins Classicシリーズなどの商品開発を担当した、現在R&D室リーダーの一戸さんに新商品「MEME」についてお話をお伺いした。
― MEME(ミーム)はどうして作ろうと思われたのですか?
もともとの社風なのですが、みなさんに知っていただいている製品でいうと、JINS PCやJINS Moisture、JINS 花粉Cutなど、今まで目の悪い人のためのものだったメガネというものに、+αの価値、機能をつけることによって、「もっとメガネってみんなのものになるよね、いろんな人たちの生活をサポートしてくれる、かけがえのない存在になるよね」という視点で商品開発をしていました。
そういった中で、弊社の代表 田中が東北大学の川島先生とブレストをさせていただく機会があり、「頭のよくなるメガネないですか?」という、ものすごくぼんやりとした投げかけからはじまったのがJINS MEMEです。
定期的なお時間をいただく機会の中で、川島先生のお弟子さんにあたる芝浦工業大学の准教授教授の加納 慎一郎先生から、「3点で目の動きが読み取れる技術ができそうだ」というお話をいただきました。3点であればメガネがもともともっている鼻パッドだったりレンズをつなぐブリッジと呼ばれる部分に電極を仕込ませるによって、すごく自然にメガネに搭載することができるんじゃないか、と。
眼の動きがわかったら、何ができるのかというのさておき、何か面白そうだということで、研究を進めさせていただくという時間がありました。そして当時、2012年に関越自動車道高速バス居眠り運転事故があり、田中(JINS代表)が群馬県出身ということで、自分の地元でおきた大きな事故に対してすごく心を痛めました。その事故をきっかけに「目の動きがわかると人の眠気がわかるかもしれない」と考えました。
「メガネで眠気がわかれば、今回が起こったような事故を未然に防ぐことを実現できるかもしれない」、「目の動きを読み取ってコンディションを見るというところに、新しい製品の価値というかメガネの可能性が広がるんじゃないか」、とそこからはじめてJINS MEMEというものの一番根幹の部分がスタートしました。
― そういう経緯があったのですね。目の動きで眠気がわかるというのは確証されていているということですか?
はい、眠気だけに限らずなんですが、目は口ほどにものをいうということわざが昔からあるんですけども、まさにその通りで何かしらその人の中に変化が起こったとき、コンディションの変化、眠気、疲れ、ストレス、色んな変化が起こったときに、目にあらわれます。
昔の人はことわざで「目は口ほどに物を言う」と表現してたんですけど、実際の目の動きを見ていくとひとつひとつが数値化できて可視化できるというのが、我々も少しずつ紐解くことができています。そのひとつとして、眠気の解明というか眠気の早期発見というのが、今もう少しで世の中のお客様に対して提供できるところまできています。
― 目の動きがわかると眠気がわかるというのは昔から研究されてましたか?
はい、そういう研究や論文であったりというのは古くからあったんですけど、あくまでも限られた実験の中のものだったんです。我々が想定しているのは、日常生活の中でちゃんと取れるかどうか、眠気、その人のコンディションの変化というのがあぶりだせるかどうかというところを、芝浦工業大学の加納先生と一緒に研究させていただいています。
またそれ以外にも、共同で運転しているドライバーの方の運転環境の向上の一環としてデンソーさんと一緒に研究を進めさせていただいて、一連の研究の中から人の眠気というのが形になってきたなというのが今の現状です。
― 日常生活の中で、日差しが強いところや夜の暗いところなど、いろんなコンディションの中でもわかるようになっているんですか?
そうですね、「運転している時の眠気は、確実に取れるようになろう」というのは第一弾で、一番大きな目標です。
あとは、眠気以外にもオフィスで仕事をしているとき、映画を見ているとき、そういうシーンの中で、その人の中のコンディションの変化というのを導き出して、例えば「これって興味持ってるということになるよね」とか「完全に退屈してるね」とか、ひとつひとつ見えてくるというのがこの先繋がる研究として今いくつか進めています。
― そうすると一番に使ってほしいのはドライバーさんですか?
そうですね、まずは日常的に長距離を運転される方はもちろんですが、その他にも例えば週末2時間くらいかけて家族をのせて走るお父さんだったりとか、慣れないことをすると疲労も大きくなってくるので、帰りの安全運転をJINS MEMEがサポートできれば、すごくそれは幸せなことだなと思います。
― 眠くなってきたというのは本人にはどう伝わるんですか?
JINS MEMEとスマートフォンが常に接続されている状態ですので、スマートフォンに専用のアプリケーションをインストールしていただくと、スマートフォンからフィードバックがきます。例えばドライブの場合だったら、画面をつぶさに見てるわけにはいかないので、音声のフィードバックと、アラート音で知らせてあげることが大事になってきます。メガネとスマートフォンの間は Bluetooth Low Energyで接続しています。
― メガネに電流が走って、ピリっとなったりしないんですか?
それはあんまり考えてないです(笑)。
― 開発時の苦労したところを教えていただけますか?ないものを作るってどんな気持ちですか?すでにあるものであればそれに不満があったりとか、こうなったらいいよねというのがあると思うんですが。
開発は苦労しかしてないですし、ないものを作るのは、大変ですね(笑)
ベンチマークがないというのが一番大きいポイントですね。とはいうものの世の中にあるものが、なぜこういう仕様でこれだけ素晴らしいものなのに、世の中に受け入れられてないのかという紐解きというのは、かなりの製品に対してやってきました。
では、メガネである意義ってなんなんだろうというところを突き詰めてリサーチをして、その中でJINS MEMEとして実現すべきものってこうだよね、というのを手探りなんですけど、目の前にあるものからひとつひとつ紐解いていって掘り下げていくというイメージですかね。
―技術的な行き詰まりもありましたか?
基本行き詰まってしかないですけど(笑)、順風満帆だったのがこの数年1度もないですね。
一番苦労したポイントとしては、我々はメガネ屋なので「どれだけメガネでいられるか」という点です。
カメラやディスプレイがついているメガネ型ウェアラブルデバイスという領域がありますが、実際に研究が進んでJINS MEMEというものを製品化しようとGOをかけたときに、一番最初に我々が排除したのはそのカメラとディスプレイだったんです。
なんでかというと、こういうウェアラブルデバイスが普及しきらない一番の理由は、そのデバイスをつけなきゃいけない状況をユーザーに強いてしまうというのが一番問題だったんだな、というところにいきついたからなんです。
そうなったときにモノはどういうモノであるべきかというと、今まで「かけてた、触れてた、着けていた」ものに、どれだけ自然にそこに到達できるか、メガネでいうとどれだけメガネでいられるかというのがポイントになってきます。
それが世の中に対して広まってウェアラブルといわれている領域が、一歩先に進むために必要な要素だろうなと思っています。そうなるとどれだけ小さくできるか、薄くできるか、繊細にできるか、というのが一個一個技術を、感度をあげる必要がある。そのためにはこういう電極を使った方がいいなど、あーだーこーだといって、また一歩進んでというのをずっと繰り返しているような感じです。
普段かけてかっこよくないものって1回流行したとしても飽きちゃうはずなので、そういうものはたぶんウェアラブルとして、日常生活の全てをその人の状態をみて何かしらの結論を導くという使命に対しては答えられないので、どれだけ普通にメガネでいられるかだけを守れるかどうかというのを考えています。
― そして、そこが難しいわけですよね
すごく難しいですね。電池も何も積んでないメガネでさえ、ある部分がコンマ1ミリ太くなっただけでお客様は手に取らなくなる、というせめぎあいをして1つ1つ商品を作っていて、徹底的なこだわりをもってやっているので、こだわっている以上、一番苦労するポイントですね。
開発する身としては、完成したら自分でかけたいですし、かっこわるいメガネはかけたくないと思っています。
― 技術的にはアイトラッキングをしてるわけではないんですか?
ではないですね。金属のパーツが肌に触れることによって、目が動いたときに、少しだけ皮膚に発生する電気の変化というものを読み取っています。目を見てるわけではないんですね。
― 疲れ、眠気などはどうやったらわかるんですか?
いくつか段階があって、目が動くと皮膚の表面の電位というものに変化が訪れて、それを読み取っています。目の動きかたをダイレクトに取ろうと思ったらカメラがいいんですが、そうなるとメガネが大きくなってしまうので、目が動いた時の3点の電極で読み取っています。
■ロングドライブ時、眠くない場合と眠い場合の違い
目の動きと、6軸センサーというケータイなどにも入っている前後左右上下の体の動きと回転の動きをXYZ3軸ずつ、加速度で3軸、角速度で3軸という6軸のセンサーを積んでいるので、頭の動きというのに目の動きと合わせてトラッキングすることができます。
■体を動かした時のイメージ
頭が背骨の上に乗っているのはご存じだと思うんですが、人間がなぜ2足歩行ができるかというと、頭を背骨でしっかりとバランスよく背骨の上に載せてる状態だからなんです。体軸と呼ばれるものの上に、ボウリング玉一個分くらいの重さになる頭があって、なぜそんなに重いものが乗っていても走ったりバランスを取ったりできるかというと、体の軸の上に綺麗に乗っているからなんですね。
逆に、動いたときに体の軸が動くので、その影響が一番どこに出るかというと頭なんですね。その頭の動きをみるということは、つまりその人の体の動きを見ることとイコールになってくるので、目の動きと体の動きというものがJINS MEME1本で知ることができるんです。
※現在、アプリケーションを開発中ということで、アプリになる前のローデータの一例を見せていただいた。
― 自分の状態がわかったあとのサポートは何か検討してますか?
当然自分の状態がわかることだけって半分しか意味をなさないと思うんですね。わかったからこういう対処をしなければいけない、ひとつひとつ自分に起こっている課題や不具合に対して、こうしたらいいというTipsというか、Call To Actionまでつなげたい。メガネをかけてくれてる人の生活がもっといいものになっていくというところまでサポートしたいという想いがあります。
― 全体的なお話からにじみ出てるのが、生活者の人がメガネをつけてどういう生活をしているのか、というリアルをイメージしながら作られているんだなというのが伝わってきました。
そうですね。その人に寄り添ったものを提供できなければウェアラブルとして意味がないのかなと。必需品にならないといけない、と思っています。
― ありがとうございました。
一戸さんがかけているメガネは、センサーが入ってるウェアラブルデバイスだと言われなければ、普通のメガネだと思うだろう。これなら、いつものメガネを付け替えるのもそう億劫にはならないはずだ。
今はまだ、最新の技術を全面に打ち出したウェアラブル端末が多いが、身に着けるものはもっともっと生活者に寄り添わなければ、ブームで終わってしまう。
毎週のように大手メーカーからスタートアップまで、様々な企業がウェアラブル製品を発表しているが、JINSのように本当に生活者のことを考えている企業が打ち出すウェアラブル端末は、早い段階で暮らしに定着していく可能性があるかもしれないと感じた。
【関連リンク】
JINS MEME
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