サムスン電子が、「GALAXY Note 3」と同時に腕時計型端末「GALAXY Gear」を発表したのが、2年前のIFA。昨年はASUSが「ZenWatch」を、サムスンが「Gear S」を、ソニーが「SmartWatch 3」を、そしてLGエレクトロニクスが円形の「G Watch R」をそれぞれ公開し、IFAはウェアラブル端末、特にスマートウォッチのお披露目の場にもなっている。Apple Watchが発売された後だけに、今年のIFAもその勢いは衰えることを知らなかった。
もっとも高い注目を集めていたのが、サムスン電子の「Gear S2」。円形のディスプレイを採用し、より外観が腕時計に近づいた。この円形はユーザーインターフェイス(UI)のモチーフにもなっており、ベゼル部分をグルグル回して操作できる。サムスン電子によると、このUIは、タッチでスマートウォッチの小さな画面をふさいでしまわないことを目的としているという。


単にスマホの通知を受けるだけでなく、Gear S2は様々なアプリケーションを追加可能だ。アクティビティトラッカーとして使ったり、メールやメッセージを送受信したり、ナビで目的地に誘導してもらったりと、各種用途に活用できる。OSにはサムスン電子主導で開発したTizenが採用されており、スマホ経由で、アプリの追加も可能だ。フォルクスワーゲン、BWMとも連携して、車のロックを外したり、エアコンを調整したりといった、スマートカーのコントローラ的な使い方もできる。



円形ディスプレイを採用し、デザインも時計に近づけた。ノーマルバージョンのほか、より時計のモチーフを取り入れたクラッシックバージョンも発表している。また、Wi-Fi版のほか、3G版も用意。3G版には、物理的なSIMカードではなく、ソフトウェアで書き換え可能なe-SIMが採用されている。これによって、SIMカードぶんのスペースを削ったことが予想される。e-SIMは、サイズ的な制約の大きなIoTデバイスに向いた技術として、注目を集めている技術。将来的な技術動向を追う上でも、Gear S2は重要なスマートウォッチと言えるだろう。

サムスン電子のGear S2には独自OSのTizenが採用されていたが、それ以外の多くは、スマートウォッチの“業界標準”とも言えるAndroid WearをOSに搭載していた。IFAで発表されたのは、ファーウェイの「Huawei Watch」、モトローラの「Moto 360」、ASUSの「ZenWatch 2」。いずれも最新OSを搭載することで、Androidだけでなく、iOSにも対応端末を広げている。Huawei WatchやMoto 360はGear S2と同様、円形のディスプレイを搭載しており、この形がスマートウォッチの1つのトレンドになりつつあることがうかがえた。



同じAndroid Wearだが、デバイスごとの差別化もされている。Huawei Watchのように金属をふんだんに使ったり、Moto 360のようにオンラインでカスタマイズ可能にしたりと、同じOSを採用しているからこそ、こうした差別化が重要になってくるのは、スマホと同じだ。デザインがより時計に近づき、質感も上がったことで、一般のユーザーがウェアラブルに手を出しやすくなってきたというのも、今年のIFAを通しての傾向だ。

その点では、さらにデザインを突き詰め、時計としての完成度を上げたのが、ソニーの新規事業創出プログラムから生まれた、「wena wrist」だ。このモデルは、いわゆるスマートウォッチとは異なり、できることは非常に限られている。バンド部分にLEDライトとFeliCaチップが埋め込まれており、スマホの通知は光で確認する。FeliCaにはiDやANAのスキップサービス、楽天Edyといったアプリを追加することができ、決済やチケットにも利用可能だ。


ドコモの「おサイフリンク」の仕組みに対応しており、iDや楽天Edyなどのサービスを利用できる
とは言え、一般的なスマートウォッチのように、ディスプレイを搭載しているわけではなく、あくまでできるのは通知が届いていることを確認する程度。逆に、ケース部分はアナログ時計をきっちりと再現している。それもそのはず、このwena wristは、時計の経験を積んだデザイナーによってデザインされており、ケース部分はシチズンが設計、開発している。まさに本物の時計というわけだ。

スマートウォッチから必要な部分だけを見極め、それ以外を徹底的にそぎ落とすことで完成した時計とも言えるだろう。wena wristは、ソニーのクラウドファンディングサイト「First Flight」で出資を募っており、現時点で7000万円を超える支援が集まっている。こうしたことからも、注目の高さが伺えるだろう。未来に進みすぎてしまったスマートウォッチだが、一歩立ち止まって、あるべき形を追求したことが評価されているのかもしれない。
このように、多種多様なアプローチのスマートウォッチが発表されたのが、今年のIFAの傾向だ。一般層にまで普及しているとはまだまだ言えないスマートウォッチだが、その壁を超えようとするアプローチを採るメーカーも出てきた。こうした競争が続けば、スマートウォッチの市場もさらに成熟してくるはずだ。
無料メルマガ会員に登録しませんか?
IoTに関する様々な情報を取材し、皆様にお届けいたします。