2012年に創業したH2Lは東大発ベンチャーだ。
H2Lが開発したのは、電気が流れるデバイスを腕につけるだけで、小鳥が手に乗った感触を体験できたり、ゲームを操作したりゲーム内の衝撃を感じたりすることができる、触感型ゲームコントローラUnlimitedHand(アンリミテッドハンド)だ。
米クラウドファンディングKickstarterでも大人気で、現在6万ドルの資金を集めている。これからのゲームの楽しみ方が変わりそうなこのコントローラーについて、H2L株式会社 代表取締役の岩崎健一郎氏にお話を伺った。
東大の研究からスタートしたH2L
-御社はもともと何をやっていらっしゃったのでしょうか?
はじめは、電気刺激の装置「PossessedHand」を作っていました。コンピューターから指を動かす装置なのですが、パソコンにつなげて、人間の腕に二本のベルトを巻き付けると、電池のプラスとマイナスみたいな形でコンピューターからの指令によって、指が動きます。さらに、曲げるだけではなくて、伸ばす方の筋肉も動かすことができます。この製品を研究者向けに販売しています。
-研究者向けということですが、何の研究に役立つものなのでしょうか。
様々な分野があるのですが、ひとつは筋肉の構造や、解剖学的な生物学の研究です。筋肉の構造には個人差がありますので、それを吸収するシステム、キャリブレーションシステムが備えられています。さらに、脳と運動学習といって、脳からの指令で手がどのように動くのかという研究をされている方や、手以外にも使えないかという研究など、引き合いが様々あります。
脳科学は脳の中で動かす指令を出す部位と、動いた結果が返ってくる脳の部位というのが違う場所にあります。今までの実験機材ですと、実際に手を動かしてもらわないといけないので、どちらの部位も反応してしまいます。しかし、この装置を使うと動いた結果だけが返ってくるので、自分の意思は反応させずに分離した研究ができます。
-もともと学生時代にこの研究をされていたのでしょうか?
そうですね、共同創業者の玉城が博士課程で研究をしていまして、そのテーマで事業化をしました。
-学校側からの抵抗感はありましたか?
教授も起業していたので、起業は歓迎される雰囲気がありました。通常、大学の研究成果を事業化する場合は権利の帰属が問題になるのですが、東大は学生の発明は学生に帰属するというルールがありますので、なんとかなりました。
-学校側からのバックアップはあるのでしょうか。
公式なバックアップは特にないですが、個人レベルで、色々な東大関係者の方に支援頂いています。例えば弊社の立ち上げを支援してくれた鎌田さんは東大の大先輩にあたりますし、学生時代には東大のベンチャーキャピタルでインターンをしていたので、経営についてVCの方から教えてもらうことができました。あとは産学連携本部の先生とは親しくさせていただいています。
ただ、いずれも個人的なお付き合いのレベルです。今は違うのかもしれませんが、我々が起業した頃は、起業家育成プログラムのようなものはあまりありませんでしたね。
-何かあるといいですよね。少しもったいない気がします。
大学発ベンチャーはまだそこまで成熟していないみたいです。
-シリコンバレーを取材していると、スタンフォードまわりはそういう環境が良くできていて、学校にベンチャーキャピタルや企業も入り込んでいます。そのかわり、自分で独立するのは難しいのですが。「PossessedHand」はなぜ発売に至ったのでしょうか。
もともとは理学系の脳の研究やバイオ系の研究者からほしいというニーズがあって、学会発表しました。技術仕様もほとんど公開しているので、作れるかと思ったのですが作れないということがわかったので、それであれば私たちが作って販売するという、ごく基本的なビジネスをはじめたという流れです。
「PossessedHand」は研究用の機材で、実際に人を使った実験にお使いいただくので、あまりお手軽にみえるものではなく、あえて仰々しいこの形にしています。
触感型ゲームコントローラUnlimitedHand(アンリミテッドハンド)
-腕に巻くだけで直感的にゲームを操作でき、ゲーム内の衝撃を感じたりキャラクターを触ったりできるというUnlimitedHandについて教えてください。
これは発売前の構想なのですが、運転中のドライバーのハンドルサポートやゴルフのサポートのような、手を使うアプリケーションが色々あるだろうと思い、その中で触覚の提示というのがありました。
-触ってないのに触ったような感覚ですね。
この技術は指を曲げるだけではなくて、伸ばすこともできるので、おそらくできるだろうと思っていました。ちょうどOculus RiftというヘッドマウントディスプレイがFacebookに買収されて、これからVRの時代がくるのではと思い、今までの研究者向けのビジネスから方針変換をしてコンシューマー向けのモノを作っていこうと考えました。それがちょうど去年の夏ごろです。そこからおよそ1年かけてこの形を作りました。
-コンシューマー向けのデザインは、全然仰々しくないですね。
そうですね、こちらは気軽につけられて、一般の方でも楽しめるようなものにしています。
-ゲーム内の物体に触れた感じがするというのはイメージがつくのですが、操作するというのはどういうことなのでしょうか。
これはセンサーがついていまして、手の腕の動きと指の動きが取れます。研究者向けのPossessedHandは出力して動かすだけなのですが、UnlimitedHandにはセンサーを付けたので入力出力が同時にできるようになりました。
-そうすると、応用の仕方が広がりますね。
一人称視点ゲームというのが流行ってきていますので、その中でコントローラーというのがどういう状況か?というと、固くてボタンがついているというものが主流だと思います。私たちはそうではなくて、直接その世界に入り込めるような仕組みというのが作れるだろうなと考え、そこはまだ誰もやってないから、やる価値があるだろうと思いました。
-現状どれくらいまでできていますか?
原理試作はできていますので、ご体験いただける形にはなっています。基本的な設計はほぼ2人体制で、協力会社と一緒に作っています。例えば、この数字は加速度・ジャイロセンサーの値が出ていまして、私が手をあげるにしたがって変わっていき、手の動きを出すことができます。
基本的には、ゲームを個人で作っている開発者向けに売るというスタンスでやっていく予定です。開発者の方がちょっとプラグインを足して、使えるようになる予定です。
体験してみますか?
-ありがとうございます。
UnlimitedHand(アンリミテッドハンド)体験
では、まずは、どんな風に動くかをお見せします。出力については、バイブレーションモーターが動きます。
-今、きてます。
では、鳥を手のひらに飛ばします。
-手の上に、ポンと鳥が乗せられた感じですね!けっこう重たいですね。面白いです。
(デモ体験終了)
あとは、よく皆さんおっしゃるのは、「指先につるつるらざらがこない」ということです。触感型コントローラーといわれるものの、触感には2つありまして、ひとつは表面で感じるものは、ハプティクス(触覚技術)の中でも tactile(タクタイル)と呼ばれる感覚です。
もうひとつは、kinesthetic(キネステティク)、骨が実際に動くことによって、体の位置を感じています。一番わかりやすいのは、りんごが落ちてきたときに受け止めて、手首の形が変わりますが、その感覚です。分厚い手袋をつけていると、表面の感覚を感じないと思いますが、指の形が変わるという、そういう感覚に近いです。
-グローブをつけてキャッチボールするイメージですね。それが感じられるから、鳥が止まったときに、ぐーっとくるという感じなのですね。今後、こんなゲームができるのでは?というイメージはありますか?
横方向にも手首を動かすことができますので、例えば、斧やハンマーを使って何かモノを叩くとか地面を掘るとかしたときに、反動を感じられるゲーム体験を作ることができると考えています。
-そうすると、全般的に戦うゲームに向いていますね。これから先は体の五感に訴えかけるものが出てくるように感じます。いつごろ発売予定でしょうか。
製品自体は3月に出荷をする予定になっています。
-あくまでも開発者キットですよね?開発者は何で作るのでしょうか?
Unityと、Unreal Engine(アンリアルエンジン)を使っています。
-ライブラリみたいなものが用意されるのでしょうか?
プラグインで、今まで作っていたゲームに簡単に統合できるようになっています。
-今はPCから操作されていますが、実際に遊びで使う場合は、繋いでないとダメなのか、単体でいいのか、どちらでしょうか?
用途によりますが、基本的にはBluetoothで繋げていただきます。プログラムはPC側で制御するというのが基本的な流れになります。オープンソースのマイクロコントローラーを使っていますので、ちょっとハードウェアに詳しい方であれば、書き換えることができます。
-ハッキングできるわけですね。
はい、ハッキングできるように作っています。ですので、単体で動かすことも可能です。こちらのバージョンは単体で動作するのですが、拳銃を撃ったような動作が出せるプログラムを書き込んでいます。撃つと今バイブが出るんですが、それと一緒に電気刺激が流れ、手首が動いて銃の反動を感じることができます。
-楽しそうですね。子どもは遊べるのでしょうか。
電気を流すので、今のところ15~18歳以上にする予定です。
-Bluetoothではなくもう少し長距離飛ぶ電波で、サバイバルゲームができたら面白いですね。
そうですね。もともとUnityだけのつもりでUnreal Engine(アンリアルエンジン)は対応していなかったのですが、かなり反響いただきましたので、Kickstarterで6万ドルのストレッチゴールを達成したところで対応しました。
Unreal Engineはけっこうハイスペックなコンピューターが必要になるんですね。そこで株式会社サードウェーブデジノス様にご協力いただいています。ゲーム用のハイスペックPCを製造している会社で、秋葉原にあるパソコンショプ、ドスパラというお店の関連会社です。GALLERIAというブランドで出しているPC は、将棋の電脳戦(コンピューターとプロ棋士が戦う)で使われたほどです。ハイスペックなパソコンについてご協力をいただいています。
Unreal Engineは実際にゲーム開発で使われるようなものなので、ノートパソコンなどでは動かないため、そのようなタフなPCを使う必要があります。サードウェーブデジノスもPCゲームの市場を盛り上げていこうとしているので、お互いメリットがありそうです。
-台湾や韓国はゲームPCの市場はすごいのですが、日本ではまだまですね。
日本はコンシューマーゲーム機が強いですね。次の8万ドルのゴールに向けて、進めていきます。
-本日はありがとうございました。
【関連リンク】
・UnlimitedHand(アンリミテッドハンド)
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