近年、不特定多数の人が集まる公共スペースで刃物・銃・爆発物を用いたテロや無差別殺人事件が相次いでいる。例えば2007年の世界全体のテロ発生件数は14,415件でピークに達しており、セキュリティ対策の強化等により近年は減少傾向にあるが、2017年には依然8,584件のテロ事件が起きており、テロを未然に防止するセキュリティ対策は世界共通の課題である。
一般的なセキュリティ強化策として監視カメラ配備が進んでいるが、犯人が凶器を衣服の中に隠し持つ場合の検知はほぼ不可能である。高度なセキュリティが要求される空港の保安検査場などでは、検知器と検査員による検査が行われているが、人件費や設備導入費用などのコストが高く、多くの人が利用する場所で通行の妨げとなるため利便性の低下が避けられない。
このため、公共スペースにおいて利便性を損なうことなくテロリストや不審者を検知して警備を支援する高性能・低コストの検査システムの実現が望まれている。
株式会社東芝は、駅の改札や空港の保安検査場など公共スペースにおいて通行者の流れを止めない新たな警備支援サービス向けに、ミリ波レーダー(※)を照射することで、衣服に隠れた危険物であっても可視化する電波イメージング技術を開発した。これにより、駅や空港、ショッピングセンターなどの公共スペースにおいて、立ち止まり検査を必要としないウォークスルー方式で危険物の検知が可能となる警備システムを構築できる。
同技術は、自動運転や衝突防止で用いる車載ミリ波レーダーに着目し、ミリ波が衣服は透過する一方で、銃やナイフで使用される金属は反射し、爆薬などの粉体は吸収する性質を利用してイメージングする技術である。面状に配置したアンテナがミリ波レーダーによる反射信号を捉えてイメージング画像を生成する。
一方で、対象物以外の余分な虚像が映らないイメージング画像を生成するには、照射するミリ波の半波長間隔(約2ミリ程度)で測定することが必要となるため、アンテナ設置数やデータ量が膨大になるという課題がある。今回、互いに素となる半波長以上の間隔で測定した2つのイメージング結果を合成することで虚像を打ち消しあう特性を発見し、半波長間隔で測定した場合の約15%の測定数でイメージング画像を生成する方式を開発した。
同技術を活用することで、測定数の減少に伴ってアンテナやセンサーの設置数やメモリ量を削減できるため、システム導入時の負担を抑えることが可能となる。東芝は同技術の実証実験を行った結果、衣服に隠れたモデルガンを可視化できることを確認した。
東芝は今後、2020年以降の鉄道会社やアミューズメントパークと連携した実証実験を目指して研究開発を継続していく。
※ ミリ波は、周波数にして30GHzから300GHz、波長にして1ミリメートルから1センチメートルまでの電波で、電波の中でも光に近い周波数帯であり、比較的光に近い性質を有している。直進性が強く、雨や霧、雪といった耐環境性に優れ、長波に比べ遠くまで伝送できないが情報伝送容量が大きい特徴を持つ。このミリ波をセンサーとして応用したのがミリ波レーダーで、離れた対象物との距離や速度、角度を測定することができる。
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