ベッコフオートメーションは、ドイツに本社がある産業用PCメーカーだ。パソコンを使った制御機器専業メーカーでは世界で唯一の企業でもある。同社は、EtherCATというネットワークを生み出したり、独自性のある製品で生産現場を変えていく企業としても知られている。
そんな、ベッコフオートメーションの日本支社を任されている、ベッコフオートメーション株式会社 代表取締役の川野俊充氏に、最近のベッコフの製品についてお話を伺った。
後編は、「ロボットの部品をモジュール化し、組み立てることで自由にロボットを作ることができる」という、興味深いテーマについてだ。
IoTNEWS 小泉(以下、小泉): 続いて、ロボット部品をモジュール化して、好きに組み立てることができる製品を発表していると伺いました。
ベッコフオートメーション 川野氏(以下、川野): Automation Technology for Robotics略して、「ATRO」という製品です。
現状ロボットアームというと、決められた形状に特化したロボットが多く、例えば要件として「可搬重量が5kg、リーチが1mのロボット」というと、それに応じたロボットの身体がつくられるのが当たり前です。
一方、ロボットが活躍する現場では、「もうちょっと重いモノを持たせたい」とか「もうちょっと遠くまで届かせたい」といった、要望が後から出てくることがあります。
しかし、これまでであれば、別のロボットを持ってくるしか解決できませんでした。
そこで、ベッコフは、関節部分や腕の部分、手首の部分などの各部をモジュール化して、好きなモジュールを使えば要件に応えることができるというロボットモジュール製品をつくりました。

基本的には、「ベースモジュール」、「モーターモジュール」、「リンクモジュール(筒)」というモジュールからなっていて、それらを組み合わせるとロボットを構成できます。
そして、各モジュールには、間接部分(大きいトルクのもの、小さいトルクのもの)や、長い腕、短い腕、二股の腕など、たくさんの種類があります。
小泉: なるほど、部品を組み立てることで好きなロボットができるというのは面白いですね。このロボットが選ばれるシーンにはどういうものがあるのでしょうか。
川野: 例えば、6軸から7軸に変える、可搬重量をあげたい、などのとき。逆に、4軸で十分な場合、モーターも4個のものをつかう、など、汎用のロボットアームでは痒い所に手が届かない用途を想定しています。
小泉: 従来のロボットというと、モーターの部分と、ハンドに向かってケーブルがついていて、コンピュータの制御信号によって部品を動かすというものだったと思うのですが、このロボットは、回転も自由度が高そうだし、どうやって動いているのでしょうか。
川野: このモーターモジュールには、EtherCATのサーボドライブが付いていて、コネクタも標準化されています。
この標準化されたコネクタ部分にはいろんなモノが通るようになっています。データはEtherCATでベースからハンド部分までデータが届きます。そして、電源も供給、さらには、空気や流体を運ぶための内部配管もあります。
これらをモジュールとモジュールの繋ぎ目でもきちんと繋げる構造になっていて、無限回転も可能です。
圧縮空気を送ったり、水を送ったりする際も、ベースから指先まで無限回転しても接続されることが特徴です。

小泉: ロボットの制御部分のコンピュータは、内蔵なのでしょうか。
川野: 制御盤なしでも運用可能なコンピュータを内蔵しているベースモジュールと、外付けのIPCで動かす場合と両方に対応可能です。
一般的な用途ではベースモジュールのみで(台座の間接にコントローラーを統合しているものもある)、ハイスペックな処理、例えばカメラをつけてAI処理をしたい、力学センサーをつけたい、となると、外付けのコントローラーが選択できます。
小泉: 保守に関してはどうでしょう。
川野: モジュールの組み付けでロボット機構を構成可能なので、保守・修理はモジュール単位で交換可能です。
また、モジュールを交換するという考え方なので、製品版のモジュールと交換用のモジュールが、同じ型番で運用可能です。
なので、全部同じ型番、価格で発注することができますので、保守品と製造用部品を別々に在庫を持っておく必要がありません。

小泉: こういったことはベッコフだから実現できていることなのでしょうか?
川野: 我々の製品は、基本的に、「TwinCAT」と「EtherCAT」の技術がベースになっています。
動力源を持たないリンクモジュールも含め構成部品が全てEtherCATのデバイスとなっていますので、TwinCATでスキャンすれば、モジュールをどのように組み合わせてもアーム形状をオンデマンドで把握することができます。
これによりTwinCATが解くべき逆運動学と動力学のモデルを動的に生成することが可能になるわけです。
当社のコアテクノロジの二つを使うことで、ロボット用モジュール製品ATROが生み出されました。
小泉: TwinCATを前提としているということは、IT技術者がロボットの制御もできるようになるということでしょうか。
川野: そこまで単純ではないかもしれませんが、その第一歩になる可能性に期待しています。
現状では産業用ロボットをプログラミングするには、専用のプログラミング言語を習得する必要があります。
技術者でないユーザも使いやすいように、姿勢を変えながら動作を記録する「ティーチング」と呼ばれる方法もありますが、それだと記憶した動作しか実行できません。
Visual StudioでプログラミングをするTwinCATを使えばIT技術者にも馴染みがあるC++やST言語などの国際標準言語を使うことが可能になります。IT技術者の方々にも制御の世界に来てどんどん活躍してほしいと考えています。
小泉: ITの世界とOTの世界が接点を持ち、融合していくデジタルトランスフォーメーションがロボット業界にも到来しそうですね。
本日は貴重なお話をありがとうございました。
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IoTNEWS代表
1973年生まれ。株式会社アールジーン代表取締役。
フジテレビ Live News α コメンテーター。J-WAVE TOKYO MORNING RADIO 記事解説。など。
大阪大学でニューロコンピューティングを学び、アクセンチュアなどのグローバルコンサルティングファームより現職。
著書に、「2時間でわかる図解IoTビジネス入門(あさ出版)」「顧客ともっとつながる(日経BP)」、YouTubeチャンネルに「小泉耕二の未来大学」がある。