洋上風力発電やブルーカーボン(※1)など海洋の利活用が進む中、設備管理や海中の調査のため、水中IoT機器や自律型無人探査機(AUV)、水中ドローンなどの運用ニーズが高まっている。これらを効果的に運用するため、安定した水中通信の実現は喫緊の課題となっている。
水中音響通信は、海中での安定した通信を実現できる技術ではあるものの、その特性上、移動体への通信にはドップラー効果(※2)の影響があり、また水平方向には海面・海底などへの反射・屈折によるマルチパス波(※3)の影響があるため、移動する機器との通信や水平方向の通信には課題があった。
日本電気株式会社(以下、NEC)は、日本電信電話株式会社(以下、NTT)および三菱重工業株式会社(以下、三菱重工)の協力のもと、通信モジュールを三菱重工の水中無人探査機に組み込み、2.5km離れた海域を2~3ノットで航行する水中無人探査機を遠隔から制御し、水中無人探査機が収集したデータを受信する双方向通信のユースケースを実証した。
今回、NECが長年培ってきた送受波器技術や水密技術などのソーナー関連技術を応用すると共に、マルチパス波の影響を除去するNTTの時空間等化技術を組み合わせ、移動する機器間で水平方向の双方向・長距離通信を安定して行えることを実海面で実証した。これにより、水中音響通信は深さ方向だけではなく、水平方向の数kmの範囲で水中無人探査機や水中ドローンを制御し活用するなど、様々な海洋産業のユースケースに対応が可能となる。
NECは今後、通信モジュールの小型化や様々なパートナーとの実証実験を進め、2024年度の商用化を目指すとしている。
※1 ブルーカーボン:海草や藻などの海洋生態系に取り込まれた炭素のこと。地球温暖化防止の新しい二酸化炭素吸収方法として注目されている。
※2 ドップラー効果:音波の発生源が移動するあるいは、受信機が移動することにより発生する周波数が変化する現象のこと。
※3 マルチパス波:反射や屈折などにより発生する直接波以外の複数の波のこと。海中においては、特に水平方向音通信を行う場合に、海底や海面での反射により数多く発生する。
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