昨今、産業用ロボットの活用が進んでいるが、安全で正確な動作を実現するには、実機を用いて事前に何度も試行錯誤させ、ロボットの動きや力の加減を制御するパラメータを、ロボットが置かれた状況に応じて細かくチューニングする必要がある。
チューニング方法は、主にシミュレーション環境(モデルベース)と実機での試行錯誤(実機ベース)に分けられ、モデルベースには、実機ベースに比べて、大量の試行錯誤を効率的に実施できるというメリットがある。
しかし、接触を伴うタスクは、ロボットが人や物に触れた時の動きや力(接触ダイナミクス)の複雑さからシミュレーションが難しく、実機で何度も人が教えながら試行錯誤する必要があった。
そこでパナソニックホールディングス株式会社(以下、パナソニックHD)は、接触の多いタスクにおけるロボット制御の学習を効率化・高精度化する、ロボット制御向け拡散モデル「Diffusion Contact Model」を開発した。
今回パナソニックHDは、画像や音声生成に用いられる拡散モデルが有する、複雑で非線形なモデルを表現できる特長に着目し、拡散モデルのノイズ除去プロセスと接触シミュレーションの最適化プロセスの類似性を応用することで、実機を使うことなく複雑な接触ダイナミクスをシミュレートできる「Diffusion Contact Model」を開発した。
「Diffusion Contact Model」は、ロボットが物体に触れた際の力を段階的にシミュレーションし、ロボットが物体に触れた際の力を高精度に予測できるため、モデルベースで制御パラメータを効率的にチューニングできるようになる。

上図上段に示す従来法では、まずベイズ最適化アルゴリズムにより制御パラメータを推定した後、実機で評価を行ってパラメータを再度調整するという試行錯誤のループを所望の性能を得るまで繰り返す。
一方、上図下段に示す「Diffusion Contact Model」においては、従来法同様に、まずベイズ最適化アルゴリズムにより制御パラメータを推定するが、評価の際、実機の代わりに「Diffusion Contact Model」を用いる。
まず、シミュレーション環境での実験では、従来の深層モデル(DNN)と比較して、「Diffusion Contact Model」が接触力を高い精度で予測できることを示した。
複雑な接触ダイナミクスを実機を使わずにシミュレーションできるようになれば、従来の方法に比べて、実機を必要とする場面を減らすことができる。
また、ふき取りタスクを対象とした実機での実証では、主に人手でロボットに教え込む作業により、全体で80分かかっていたふき取りタスクの学習を約25分に短縮できることを示した。
なお、この技術は、AI・ロボティクス技術のカンファレンス「IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems(IROS)2024」に採択され、2024年10月14日から18日まで、アラブ首長国連邦アブダビにて開催される同会議で発表されるとのことだ。
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