富士通株式会社は、NEDOの委託事業である「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」において、AI技術を活用してモバイルネットワークの通信品質を向上させ、省電力化を図るアプリケーションを開発した。
このアプリケーションは、AIを用いてネットワーク品質をリアルタイムに推定し維持する技術と、イベント開催時などにネットワーク品質の劣化を未然に防止する技術、基地局のカバーエリアを再設計し品質を維持する技術の三つから構成されている。
一つ目の技術は、QoEをリアルタイムで推定し、QoE低下を検知した際には、自動的に他の基地局のネットワークエリアに切り替える技術だ。
この技術は、100GbpsのRANのトラフィックに対応した高速なパケット解析から、利用者単位、アプリケーション単位の統計データ(KPI)を算出し、そのKPIから特徴量を選択することで、アプリケーションごとのQoEを推定するAIモデルを生成する技術で、多様なアプリケーションに対応できる。
これにより、利用者一人ひとりのQoEを正確に把握し、必要なリソースを割り当てることで過剰リソースを抑制し、一つの基地局あたりの収容利用者数を19%向上させることが可能となった。

二つ目の技術は、自然災害などの有事やイベント開催などの際に、通信トラフィックが通常時から上昇していることをAIで予兆検知することで、それまでスリープさせていた基地局を事前に起動させ、利用者の通信品質の劣化を未然に防止する技術だ。
これまでは、エリアごとのトラフィックをリアルタイムに監視し、起動させる必要のない基地局をスリープさせることで省電力化を図っていたが、今回はそれに加え、例えば小規模の花火大会や地域のイベントなど、通常時とは異なる人流の増加を検知することで、その後のグリッド単位でのトラフィック上昇を予兆する技術を開発した。
この予兆検知技術により、実証期間の99.8%の時間で利用者品質に影響を与えず、事前に基地局を起動することを実現した。
三つ目は、基地局の電波によって形成される通信エリア(以下、セル)が単一ではなく、周辺セルとトラフィック傾向を比較してAIにより判断する技術だ。これにより、適合率92%以上という故障検知精度を実現したほか、少ない故障データでの教師あり学習や、教師なし学習にも対応している。
また、セルの重畳状況を踏まえたサービス影響度を把握することにより、優先的に復旧させるエリアを判断することが可能だ。
この異常検知技術によって、サービスへの影響が大きいと判定されたエリアに対して、同技術ではさらに、影響があるエリアを救済するため、周辺セルの指向方向や負荷状況に加えて、実フィールドのパスロスを考慮した電波伝搬予測モデルにより、最適な周辺セルにおけるチルト角の算出を行い、故障セルによるサービス品質への影響を最小化する。
これにより、装置故障など異常発生時においてこれまで復旧までに1日程度かかっていたところを、1時間以内に短縮した。

今後富士通は、今回新たに開発したアプリケーションをO-RAN仕様の運用管理システム「FUJITSU Network Virtuora Service Management and Orchestration」に搭載し、2024年11月から全世界のモバイルネットワーク事業者へ順次提供を開始する計画だ。
無料メルマガ会員に登録しませんか?

IoTに関する様々な情報を取材し、皆様にお届けいたします。