富士通株式会社は、無線機器に使われるパワーアンプの周波数2.45ギガヘルツ(以下、GHz)において、電力変換効率85.2%を達成する技術を開発した。
今回発表された新しいパワーアンプ技術は、電波を遠くへ飛ばすために必要なパワーアンプの電力損失を低減するものだ。
特殊な素材「窒化ガリウム(GaN)」と、電気を速く移動させる「高電子移動度トランジスタ(HEMT)」(以下、GaN-HEMT)の組み合わせで作られている。
従来のパワーアンプは、信号を強くする際に使う電気の一部が無駄になっていたが、GaN‐HEMTを使用することで、使った電気を効率よく電波に変換する。
「GaN-HEMT」は、シリコンを用いたトランジスタよりも出力や効率における性能が優れているため、2000年代半ばに移動通信の基地局向けパワーアンプとして実用化されているが、今回、電流を多く流したいチャネルと呼ばれる層の高品質化と、電流を流したくないバッファと呼ばれる層の高抵抗化を行った。

チャネルの高品質化については、結晶成長条件を見直し、半導体結晶中の不完全な部位である「電子トラップ」の原因となる結晶中の残留炭素原子を低減した。
バッファの高抵抗化については、電子を放出して抵抗を下げてしまうシリコン原子不純物を無効化するために鉄原子を添加することで、200Vの高電圧条件下においても漏れ電流を抑制した。
これらの技術により、ISMバンド(Industrial Scientific and Medical Band)である2.45GHzにおいて85.2%の電力付加効率(※1)および89.0%のドレイン効率(※2)を達成した。
※1電力付加効率:電力変換効率を表す指標の一つ。与えたDC(直流)電力がどれだけ信号の増幅に寄与したかを示す。
※2ドレイン効率:電力変換効率を表す指標の一つ。与えたDC電力がどれだけ出力電力に寄与したかを示す。

この技術により、無線通信だけでなく、レーダやワイヤレス電力伝送など、さまざまな分野での省エネ化が期待されている。
今後富士通は、同技術の実用化を目指し、実装技術の開発と信頼性の評価を進めていくとしている。
また、ミリ波やサブテラヘルツ波などの高周波デバイスにも同技術を適用することで、広い周波数範囲でワイヤレス機器の省電力化を行うとのことだ。
なお、今回の成果の詳細は、応用物理に関する成果を掲載する学術論文誌「Applied Physics Express」に、2025年3月19日付で掲載された。
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