生活の中に入り込むテクノロジーを、様々なテーマで考える新企画、「ライフテック」のコーナー。なるべくデジタルとは遠いビジネスをされている方にIoTNEWS代表の小泉が対談を依頼し、生活の中にテクノロジーがどう入っていくべきかを模索する。
第1回目は、株式会社βaceが展開するチョコレートブランド「Minimal -Bean to Bar Chocolate」。チョコレートにテクノロジーに掛け合わせると、どういう世界が見えるのか。株式会社βace 代表の山下貴嗣氏と、株式会社アールジーン/IoTNEWS代表 小泉耕二が対談した。
Minimalのチョコレートセラー構想
IoTNEWS代表 小泉(以下、小泉): IoTNEWSは、ビジネスとしてIoTをやりたい人に支持されています。一方で、テクノロジーってビジネスマンだけの持ち物じゃないよね、という気持ちがすごくあるんです。
去年から、J-WAVEで「LIFE TECH」というテーマで、IoTNEWSの記事の中から取り上げた記事について話すようになったのですが、IoTNEWS自体がビジネスにつかうテクノロジーの話が多く、生活者には関係ないことも多いのです。
一方で、「結局、テクノロジーって誰のためのもの?」と考えると、当然ながら一般の生活者のものとなるのです。
Minimal 山下(以下、山下): (テクノロジーは)水と空気に近くなってきますよね。
小泉: そうなんです。水道・電気・ガス・インターネットみたいな。そう考えると、もっとテクノロジーから遠い方とお話しさせていただいて、「もしかしたらテクノロジーってほんとは、こういうところに入るべきなのではないか?」といったことを模索したいというのがこのコーナーの趣旨です。
山下: IoTで一つやりたいことがあるんです。実は、チョコレートセラーやりたくて。
小泉: チョコレートセラーですか?
山下: はい。実は、チョコレートの温度管理はけっこう大事なのですが、冷蔵庫だと温度が低すぎる。そこで、ワインセラーみたいな文脈で、チョコレートセラーってありえると思うんです。
サブスクリプションモデルって僕らもやっているのですが、そのモデルってもう終わってきているんじゃないかと感じています。例えば、コーヒーをサブスクリプションで買っていて毎月届くけど、まだ余ってることってよくありませんか。
小泉: ありますね。
山下: だからAmazon Dashみたいに、欲しいときにピッと押したら届くシステムって、すごく面白いなと。同じ文脈で、ピッとボタンを押せばチョコレートセラーにチョコ届く、ということをしたいなと思っています。
「生活の中に出店する」という感覚で、人々の家にチョコレートにかかわる家具が置けてしまえば、それってその人のマインド・シェアを高めるというか、ライフタイムバリューを高めると思うので、ずっとやりたいなと思っていました。
科学的なチョコレートの世界

山下: いいチョコレートって、温度管理をちゃんとしないといければいけません。料理用語で『テンパリング』と言って、6個ある結晶の内のある結晶を取り出して安定させているんです。
小泉: 結晶って、どういうことですか?
山下: 通常、チョコレートは常温で置いていても溶けなくて、口の中で溶けますよね。それって、ある結晶の融点を利用しているのです。6個ある結晶の内の一つの融点が大体28℃から32℃くらいなのですが、その結晶だけを取り出してしまえば、25~26℃くらいでは溶けなくて、口の中の35~36℃なら溶けるんということが可能となるのです。チョコレートって実はそれを昔からやっています。
小泉: むちゃくちゃ科学的ですね。
山下: チョコレートで白い粉がふいているのを見たことがあるかもしれませんが、あれは1回溶けて結晶構造が崩れて、油分や砂糖が分離したものなのです。食べて体に悪いことは一切ありませんが、風味は少し落ちます。
融点が31~32℃くらいのチョコレートが一番安定するのが16~18℃と言われていますが、日常生活でのこの温度管理は結構難しいのです。冷蔵庫の野菜室でも8~12℃ですよね。現在でも、チョコレートマニアの人は、16℃くらいのワインセラーに入れているそうです。
これからの時代に求められるのは、きっともっと感覚的なこと
山下: チョコレート市場を縦軸と横軸で切ると、これまでのチョコレートは二分できます。
横軸に『日常使い』と『非日常使い』、縦軸の上が『コト消費』で、下が『モノ消費』と置くと、チョコレートは左下(日常使いxモノ消費)と右下(非日常使いxモノ消費)に分類されます。コンビニやスーパーに売っているチョコレートは左下、高級ブランドは右下です。
コンビニなどで買う場合、「板チョコ」「エクレア」といったカテゴリで呼ばれ、右側のものは「ピエール・マルコリーニ」や「ジャン=ポール・エヴァン」などと、ブランド名で呼ばれます。
僕らは「チョコレートを新しくする」という挑戦的なビジョンがあるのですが、嗜好品のポジショニングが取れていくと、それがチョコレートを新しくするということにもなると思っています。
小泉: そもそも、なぜチョコレートブランドを始めようと思われたのでしょうか。
山下: これまでコンサルティング会社にいて、論理の世界でガチガチに生きていて、コンサルタントとしてロジックで説明できることを分かりやすく説明する、ということをずっとやってきました。
でも、論理で説明できることって、たぶん普通のことというか、誰かがやったことがあるから、そういう事実があったり論証ができたりすることだと思うのです。しかし、これからの時代に本当に求められていくことって、実はその論理の奥に潜む感性みたいなもので、ビビッと来るものの中に、もうちょっと人間的なものがあると思っています。
これまで情報を持っている人たちが勝っていたところがありますが、現在では情報の入手に関してはフラットになりつつあって、「人間が人間らしく価値を見出すものって何か」という問いを考えていたときに、「感覚や感性に触れるものは、この先の世界においてすごく大事なんじゃないか」と考えました。
bean to barのチョコレートを初めて食べた時に、ちょっと自分の想像を超えたというか、素材でこんな味になるんだって思ったときに、直感的に「あ、これ、もしかしたらカウンター・カルチャーになるな」と思ったんです。
※Bean to Bar・・・カカオ豆(Bean)から板チョコレート(Bar)ができるまでの全工程(選別・焙煎・摩砕・調合・成形)を、 自社工房で一貫管理して製造する新たなチョコレートの製造スタイル。
シンプルに素材の味で、体に悪いものが入っていなくて、産地や四季によって移ろっていくというか。こういう食べ物って、それこそワインとかコーヒーもそうだと思いますが、嗜好品になっていくな、という直観があったのです。
チョコレートを刺身と考える

右:株式会社βace 代表 山下貴嗣氏
山下: 大きな市場変化がある今、チョコレートにはビジネスチャンスがあります。この分野は現在レッドオーシャンだと言われますが、実はオーナーはチョコレートを作る職人さんであることが多いんです。僕みたいにちゃんとビジネス的に入っていく人が、職人とタッグを組んだ混合チームになったら、勝てる可能性が高くなります。
僕はカカオ農家のことを「アーティスト」と呼んでいるんですけど、良いもの作りたいというアーティストを探しに年間3、4カ月、赤道直下の国に行きます。そこには、カカオに着目して良いもの作りだす農家が登場してきていて、「ちゃんといいもの作ったら高く買うよ」、という我々のような存在が登場しました。
通常、チョコレートの生地を安く買って、それにミルクや香料を足してデコレーションする人たちが、ショコラティエやパティシエと呼ばれる人たちです。
そこで作られたチョコレートが現在の高級ショコラの文化を生み出しています。ここでは、「職人が、どういう技術を持っているか」が付加価値になるので、生産者まで目がいかないのです。
そのチョコレートを、素材を生かす和食文化を持っている日本人が、新しくできるのではないかと思っています。今までの西洋の作り方は、足し算で味を作っていくのですが、僕は引き算でチョコレートをとらえ直しています。カカオ以外のものを引いて、カカオの良さをどう引っ張るかを考えます。
僕が産地行ったときには、簡単にフライパンで焼いて砕いてペーストにして、テイスティングするんです。テイスティングすると、ナッツ感が強いものもあれば、ベリーみたいな酸味や渋みがあるものもあります。「こいつの個性を一番生かしてやるには、どこを引っ張ってやればいいかな」ということと、僕たちの商品として「どういうラインがあったら面白いかな」、ということを考えながら買い付けしています。
小泉: 完全にワインのドメーヌですね。
山下: ちょっと近いかもしれません。通常、工場で焙煎するときには、150℃くらいで焙煎して個性を均一にし、後から香りを足していく事が多いと思います。一方、僕らは、低い温度で焼くことが多いのです。例えば、ちょっと酸味のあるものって発酵をしていて、酢酸菌などのいろいろな菌が作用している影響が強いです。その酢酸は118℃で揮発するのですが、当然、150℃で長時間焼くと飛んでしまうのです。ですので、ゆっくり低い温度から焼きだして、70℃くらいからトータルの熱量だけ多くすればいいのです。
1分1秒単位で調整していくと、ちゃんとフレーバーが残りつつ、チョコレートのうまみも残ります。あとはそれに砂糖を何%にするか。よく一律70%だと言われますが、僕らは68%や71%などと1パーセント単位で砂糖の調整をすると味の角が変わります。また、砂糖を入れるタイミングでも変わります。先に入れると細かくなるので、口の中の甘みを感じるところに均等に当たり、同じ70%でも甘く感じることがあります。
小泉が、実際に試食させていただいたところ、チョコレートの産地ごとに味わいが全く異なるという、初めての経験をさせていただいた。
僕は、日本食が大好きなんですけど、お造り見たら腕が分かりますよね。僕らはよく、「カツオをたたきで食べるのと、刺身で食べるのは味違いますよね」とお伝えします。普通のチョコレートって、叩いて叩いてかまぼこのような練り物にしていき、いろんなもの混ぜているイメージなのですが僕らのチョコレートは刺身で出したいのです。
かまぼこが好きな人もいるし、刺身が好きな人もいるから、好き嫌いは個人の嗜好だけど、僕らは今まで刺身で食べたことがない人たちに対して、刺身をなるべく提供したいというのが第一フェーズでした。だから、ひたすら今まではシングルオリジンにこだわってきたんですけど、次はブレンドもやろうと思っています。
ブレンドは、味を丸くして誰でもおいしいものを作るというブレンドと、トゲとトゲを合わせて面白いフレーバーの変化を作るブレンドの2つがあると思っています。そこに挑戦していくタイミングに今入っています。
チョコレートをおすすめするビッグデータやAIを活用していきたい
山下: ところで、実は今だとチョコレートは量の経済にはめられているので、量を買えない僕らは相手にされないんです。ミニマムでもハーフコンテナと呼ばれている、12.5t 20フィートのコンテナを動かして初めて「農家に対等に商売したね」と言われる世界です。
今、僕らは1店舗ずつお店を作っていますが、一気に10店舗出せば、一気にカカオを買うことも可能です。でもそれやってしまうと、職人が足りないないのに、どんどん廉価版の商品を出さないといけなくなってしまうのです。一方で、拡大しないと豆が買えないと農家に相手にされないという、ジレンマがあります。今は、人海戦術で少しずつ拡大しているので、正直苦しい時期です。
そこで、ちゃんと購買データを溜めていって、新しいフレーバー出たときに、これまでのお客さまに推薦ができるといいなと思っています。味覚のデータベース化って難しいと思いますが、数値のバランスがあるもの、例えば、「毎月1回、このフレーバーが好きで買っています」というデータを持っていれば、それをワインで置き換えたときには、「こういうフレーバーがお好みじゃないですか?」という共通データフォーマットがあれば、例えば僕らワインをお勧めすることも可能になります。
当然、人間が熱を込めて話す接客は大事にしていますが、その後、お客さまが生活の中で嗜好品を消費してもらうというタイミングでレコメンドしていくときに、僕らがお客様全員をフォローすることは難しいので、「データベース」や「インターネット」、「AI」といった文脈が時間と空間を超えて活用できるとむちゃくちゃ面白いなと思っています。
なので、チョコレートセラーは、ハードもありながら、ここで買ってくれているお客さんと僕たちのコミュニケーションツールになるな、と思っています。しかもこれって、ワインやコーヒーともすごく相性良いと思うんです。
小泉: その相性、知りたいです。
山下: 今ってすごく難しいじゃないですか。「ワインに合います」と言われても、その銘柄をじゃあどこで買えばいいの?と。
小泉: SENSY(旧社名:カラフルボード)という会社が、嗜好を理解するAIを作ろうとしています。まず、ソムリエがポートフォリオを組んで試飲をし、試飲した本人は好きか嫌いかだけ答えます。それを重ねていくことによって、ワイン・ポートフォリオ上のどこの辺りが自分は好きなのか、ということを学習させていこうという取り組みを行っています。
山下: 面白いですね。ワインがすごいのは、「ソムリエ」というコミュニケーター置いたことだと思います。コーヒーの「バリスタ」や、コミュニケーターとしての「バーテン」もそうだと思いますが、嗜好品系に寄っていくものって、コミュニケーターが必要なんですよね。
しかも、世の中のどこに行ってもそういう人たちがいるので、それってすごいことです。チョコレートを文化にするとなると、そういった職業を成立させないといけないと考えています。
データやAIみたいな文脈があると、「パーソナルソムリエ」という世界が成り立つんだと思います。そういうことは、この面白い時代に生きている中で、視野に入れていかないといけないと感じています。
チョコレートの二重構造でちゃんと儲ける

小泉: 少し話は戻りますが、産業的にはコールドストーンクリーマリーみたいに、一気に広がった方がいいわけじゃないですか。そっちに行かないってお話されていましたけど、それはそれでいいものなのでしょうか?
なぜかと言うと、IoTの世界で製造業は現在、マス・カスタマイゼーションに向き合っているからなのです。変種変量生産しなきゃいけないと言われているのですが、変種変量生産ってさっきからおっしゃっているように儲からないわけですよ。
じゃあどうなるかというと、サプライチェーン全体の流れを見たときに、「店頭でこの傾向のチョコレートが欲しいと言っている人がいるから作る」とすると、無駄がなくなるからいいじゃないか、という理屈で考えるわけです。でもそんなうまくいくわけもなく、間で板挟みになっている人たちは、「そんなこと言われたって明日作れるわけでもないし、そもそも材料どっから持ってくるんだ!」となるはずです。
だから、嗜好を細分化してどこかに落としどころを見つけ出して、規模に合いそうなものを打ち出していくしかないと言えるわけです。これ理屈は合っているんですけど、もう1回逆に検証していくと、変な話で、「じゃあそこそこのものってほんとにそもそも売れるんだっけ?」、みたいな。やっぱりビジネスとしては、決め打ちで大量に作ってバンって売れた方が楽じゃないですか。でも、そこにはいかないというあたりはどうお考えなのでしょうか。
山下: 僕は、二つの見解を持ってます。
一つは、「変種変量」については、ピラミッド構造でいう、「ボトムの商品」と「トップの商品」の、両方に分けて考えることが大事だと考えてます。マーケティングやブランディングに近いと思うのですが、ブランドとして自分たちのファンになりうる人たちをどう作っていくかが非常に重要です。
Appleなどのトップブランドは、ファンを作るための突き抜けた商品を作り続けます。今までなかった潜在的な需要、それはプロダクトアウトでもマーケットインでも極論どちらでもOKだと思います。世の中にないような新しいモノづくりって、究極そこを目指すということをやっていくので、これをやり続ける。でも、これはすごく時間が長い話なので、ボトムのクオリティをどれだけ上げていくかということが大事になります。
さっきの話をピクセル化させていって、もうちょっと細かく砕いたところで差別化できるところが絶対あるので、ボトムはそこを探しに行くのです。
例えば、「チョコレートらしい」ラインが好きな人もいれば、「ちょっと酸味のとがった」ラインが好きな人もいるので、商品ラインナップの中で、ボトムをちゃんと広く取っていきます。これは消費者向けのメーカーとしては、両方をちゃんと考えていかなければいけません。
そしてもう一つ、実はチョコレートメーカーを始めるときに、確実にそのジレンマに陥るなというのが分かっていました。しかし、チョコレートは二重構造なのです。消費者向けビジネスとしては、あまた多くある、個々人の好みに向き合わないといけない。しかし、ミニマルはとがったチョコレートも作っています。
ここで、チョコレートは、カカオからチョコレートの材料をつくる一次加工と、パティシエなどによる二次加の工程があるので、実は企業向けビジネスの構造も成り立つのです。
僕らが消費者向けの企業として、すごく良い生地や、良質なチョコレート作れるという評価が取れれば、大手メーカーから「豆から自社向けのオリジナルの生地を作ってくれ」という話が来ます。そして、これはもうすでに実際に起こっています。
そうすると、それは僕たちが消費者向けに商品を出すほど、とがっている商品ではなくてよく、大手チョコレートメーカーの「こういう生地が欲しい」と言ったものを僕らは作ってあげればいいのです。
最近よくお話をいただくのは、売上300億ほどの中堅メーカーです。そこでは大体1,000tほどを使っています。そうすると、「1,000t全てミニマルのチョコレートにはできないけど、その内の10%、100tはオリジナルの高級チョコレートを使いたい」というニーズがあるんです。
現在日本では、5,500億ほどの市場があって、年間で25万tほどの生地を使っています。そうすると、仮に10%のプレミアム市場があったとしたら、2万5千t、さらにその1%を取ったとしたら、僕らは250tほど取れるわけです。
小泉: だいぶ輸入の貨物が動きそうですね。
山下: そうです。そうすると僕らからすると、産地を持っているので、どこかから「こういう生地作りたい」と言われると、「分かりました、豆から探してきますね」ということができます。探して良い豆が見つかれば、そこの貨物を動かすときに自分たちのチョコレートも入れられるので、コストが下がるのです。メーカー側からすると、プレミアム市場というのは一応マスでもあるので、そこと同じくらいの金額に抑えてあげれば、同じくらいのコストを使っているのに、「おれたちオリジナルチョコレートができたぜ」と、マーケティングにも使えるのです。
その時には、ミニマルというブランド名は出しません。
小泉: ある意味、OEM販売ですよね。
山下: そうです。僕が思っているのは、モノづくりのエッジを立て続ける、消費者向けビジネスのところと、企業向けビジネスでも広げるところ、この二重構造でちゃんと儲けないと良いブランドは作れない、ということです。
世の中が変わるようなプロダクトを作り続けるには、お金と投資と体力が必要です。だから、消費者向けブランドを3年前に立ち上げて何がやりたかったかと言うと、1点目は原料地開発です。カカオの質が、これからどんどん良くなるから世界中の良い農園とつながろうと思いました。
2点目は商品開発です。ヨーロッパの品評会で金賞もいただいたのですが、世界最高の場所で金賞が取れるくらい、技術を持って僕たちはこのチョコレートを作ろうと思っています。シンプルに板チョコです。そうすれば勝手に話が来るので、あとはブランド開発です。ミニマルってなんか面白い、世界的に認められているチョコがあるらしい、話題になっているぞ、と。
小泉: とがらせればとがらせるほどいいですよね。
山下: そうです。俯瞰して構造を見るとたぶんそういうことなんですけど、細かい部分を見ていくと、実はかなり失敗しています。僕はチョコレートを選んだときに、面白いなと思ったポイントは二つで、一つは一つは「嫌いな人や苦手な人が少ない」ということです。もう一つはさきほどもお話しましたが「二重構造」になっていて、原材料としても卸せるので企業向けのビジネスも成り立つし、自分たちが小売りとしても成り立つという部分です。モノづくりって、その技術があるという前提があれば、自分たちが稼げるキャッシュポイントをさらに応用できる部分があるはずです。
小泉: 多くの企業は「匠のモノづくりだ」と言って、「今のままでいいんだよ、無理しなくていいんだよ」って言ってほしいのだと感じています。でもほんとは儲けなきゃいけないのに、そこを諦めちゃうので、発展しないんですよね。
片方で中国は、匠の技なんかどうでもいいからとにかく儲けることをやろうとするわけですよ。そしたら、粗悪なモノが大量にできてしまうのですが、やっているうちにそこそこレベルが上がって、さっきのピラミッドで言うとボトムの少し上の部分も作れるようになってきます。
そうすると、結構な敵になってきます。片方は、ピラミッドの頂点ばかり一生懸命やっているもんだから、でもどんどん下の方が駆逐されていって、量で取れるところがなくなってしまって、結局儲かりません。一生懸命やるのはいいことなのですが。
これはもう完全に国力低下の話になっています。全部中国に持って行かれちゃうんじゃないの?ってみんな悩んでいますが、山下さんのような発想があれば持っていかれないはずです。
オムニチャネルをどう考えるか
山下: 今って、オムニチャネルやO2Oが当たり前の時代じゃないですか。でも、僕らは今すごいアナログなんですよ。ポイントカードもないですし、データは何も取れませんという状態で、ECもやっとこの1年立ち上げたくらいです。データがなかなか取れてないということは、本当の意味でのオムニチャネルを、どういうふうに考えていけばいいのか悩んでいます。
少なくとも分かるのは、コアなファンの人たちがいるのに、購買データが一切取れていなくて、その人たちとつながる手段がかなりアナログになっていることです。
小泉: はじめに伺ったチョコレートセラーの考え方が、それを打開する話になりそうですよね。ありきたりなO2Oの話は、時間をかけてできるところから順番にやっていかれると思います。
結局のところ、今一番問題になっていることって、さっきからおっしゃっていることのオウム返しになってしまいますが、情報が多すぎるし、モノが多すぎるから、そもそもどれ選んでいいかよく分からない人が多いわけですよね。これを「毎月買わなくていい、なくなったら買ってくれればいいんだよ」って安心感を与えられる人って案外いないんじゃないかなと思います。
例えば、それが車みたいに10年くらい使うものであったとしても、じゃあ10年使って、次の車何乗り換えようってなったときに、決められる人って案外いないんじゃないんですかね。
「これを買ったらいいんだ」って安心感をどう与えられるかだと思います。例えば、キッコーマンのしょうゆであれば、海外で食べたとしてもきっと大丈夫だと思えるじゃないですか。
山下: 産地の途上国行って食べるのって、実はカップラーメンだったりします。
小泉: 安心しますよね。それがブランドと呼ぶのかは分からないですけど、本質的なオムニチャネルって、そもそもこれを常に選びたいという気持ちがない限りには成立しない話です。オムニチャネルはテクニカルな話なのにもかかわらず、それを目的化してしまう人がすごく多いわけです。でもそれって、昔からCRMなどで言っている話で、完全手法の世界です。
でも、本当に大事なことは、たくさんのモノがある中で「おれ、これが好き」という安定感みたいなものをどうかもし出すかの方が、よっぽど大事な気がします。
山下: 本質的な問いですね。確かに、そうですね。
小泉: 私は、あるスナック菓子が好きなのですが、一時期、店舗から消えたんです。よほど売れなかったんだろうなというのと、新商品に走っている時代だったからだと思いますが、最近また戻ってきているんです。こういう現象は、生活者と向き合わず、POSのデータばかりみるからだと思っていました。デジタルの力を過信すると、生活者と向き合えなくなるのだと思いますよ。
山下: それ、耳が痛いです。僕らもPOSデータを見て、どれが売れているとかリアルに見ますから。
小泉: 小売りの人たちは、そこの戦いなんだろうなって思います。売れ筋、死に筋の話は当然するんですけど、じゃあ売れ筋だから置いておけばいいという話でもないですよね。
すごく難しいテーマと向き合われているのもよく分かるし、特にこういう「生もの」を扱われているから、長期保存すると味が飛んじゃったりするんでしょうし、なるべく早くさばかなきゃ、という部分もあると思います。しかし、そこで置いてきぼりにされていく生活者を見失ってしまうと、すごく残念な結果にならないとは言えないですよね。
山下: そうですね。だから、僕は人の育成と拡大のスピードをなるべく一緒にしようと決めています。結構今、良質な案件を多くいただきます。そこで人が追い付いていないと、駄目だと思っています。だから、例えば富ヶ谷店本店には、本店にずっといる店長がいるんです。
そうすると、彼にお客さまが付くし、彼がお客さまの好みを把握しています。POSのデータ上は実は観光客がワーッと来て、あるフラッグシップ商品がめちゃくちゃ売れました、というデータがあるんですけど、実は全然売れていないニッチな商品を毎週買いに来るお客さんがいる、というのを彼は肌感覚で分かっているのです。
だから、彼の意見を聞きながら商品構造を決めて、やっと今少しずつ、店舗ごとに、誰に、何を、どのように、というのを全部変えて、商品のラインナップとか置き方の配分とかもちょっとずつ変えるようになってきたんです。今までは「POSデータだけを見て、こういうパターンだよね」とやっていたので、今身につまされている感じです。
「この店舗に付いているお客さまは、これが好きだよね」、という肌感覚を人が持てるということが価値だなと僕は思っているから、僕らは人を育てながら拡大をしていくということが、すごく大事だと思っています。でも、人ってそんなに簡単に育たないんですよね。だから一方で、データやインターネットが補完してくれる、この両輪で動かしていかないといけないなと思っています。
小泉: 少し見方を変えると、実は100%データが取れれば、きっと変わるのではないかと考えて居ります。問題は、2~3%の情報しか取れないことです。2~3%の情報に基づいてマーケテイングプランを練るから間違えるわけであって、100%取れれば大丈夫だと思っています。じゃあどうやって100%取るんだ?という話は、たぶんこれがIoTの妙ですが、個人の嗜好である食べ物はたぶん最後の聖域です。
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