青森県にあるリンゴ農園、もりやま園は9haの土地を有している。現社長の森山氏は、父から農園を引き継ぐ際、敷地内に何の品種がどれだけ植わっているのか把握できておらず、これからの生産計画を立てることも難しい状況であったという。
そのため、独自で木一本一本にラベルを貼ったり、PDAで作業管理をしようと試みたが、操作がしにくくなかなか作業進捗が分からなかった。
そこから試行錯誤を繰り返し、最終的にAgrion果樹をTrex Edgeと共同で開発し、導入に至った。
Agrion果樹の利用方法
Agrion果樹では、まず初期登録を行い、そして作業記録を行なっていく。
まずは初期登録の説明をする。Agrion果樹と契約をするとQRコードツリータグが送られてくる。果樹一本一本とQRコードを紐づけるために、木にQRコードツリータグをぶら下げ、品種と場所を登録する。
そして作業をする際に記録をつけられるようにするため、あらかじめ一連の作業内容、使う機材、メンバーの情報を入力する。
さらに、農薬散布の際に記録をつけられるようにするため、農薬番号と散布予定日を入力する。また、同じ日に複数回農薬を散布する場合の作業を区別するために枝番も選択できる。その情報を作業員が見ることによりその通りに農薬散布を行うことができる。
果樹園での農薬散布によく使われる薬剤噴射機SS(スピードスプレイヤー)を使用する際は、上記の情報以外にも走行速度やノズルの吐出量、10a当たりの散布量を設定することができるため、万が一途中で病気が発生したらいつの農薬の散布が良くなかったかを検証し、SSの速度や噴射量などを変更していくことができる。

次に作業記録の説明をする。
作業員は作業前にこの木にぶら下がっているQRコードをスマートフォンで読み取ると、初期登録で行なった情報が出てくる。
そこに誰が、何の作業を行うかを入力していく。そして終わったら作業終了ボタンを押す。
これで誰がどの木に対し、何の作業をいつどのくらいの時間で行なったかがデータとなって蓄積される。
データはAgrion果樹のクラウドにあげられ、スマートフォンではタイムラインとなって作業と農薬散布の履歴を見ることができる。
そしてWeb版ではそのデータが分析され、品種ごとの作業の進捗状況と、あとどれくらいでその作業が終わるのかの予測を見ることができる。
さらに作業員別の作業スピードも可視化することができる。

得られるメリット
果樹では日単位で作業工程が決まっている。決まった日にちまでに作業が終わらなければ品質の劣化、または廃棄しなくてはならない。
そのため多めに人を雇わなくてはならならないのだが、Agrion果樹では作業ごとの終了時期が予測できるため、適正な人数で作業を進めることができる。
そして誰がどれくらいの作業スピードなのかもわかるため、どの人員をどこに配置するのかもデータから考えることができる。

未経験の作業員にも以前であれば場所と品種を伝えるだけでも指導に時間がかかっていたが、分かりやすいツリータグとQRコード内の情報により作業に取り掛かるまでの時間が短くなった。
また、もりやま園はAgrion果樹を導入して可視化できたことにより、一番変化したことは1年間で作業の3割を占めていた着色管理をやめたことだという。
着色管理とは、リンゴ全体を赤くするために葉っぱを摘み取り、リンゴに光を当てるという作業だ。
森山氏はその全体の3割の労力と収益が見合っていないと判断し、リンゴ自体の見た目と関係のない干しリンゴやシードルといった6次産業化するといった経営方針に変えた。
そうしたことにより売り上げが下がったとしても、コスト削減が可能になることで結果的に利益が上がったのだという。
Agrion果樹の横展開と海外展開
このような仕組みを多くの農家にも使って欲しいという思いから、そのほかの果樹園への導入も進んでいる。
また、現在海外のトレンドとして、果樹のトレーサビリティを圃場から樹木にしようとする流れがある。輸出する際、果樹はどの木から収穫した果実なのかを提出しなければならず、今後そのような方針の国に輸出をするなら木単位での情報を持っていなければならなくなる。
その際木ごとの情報をすでに収集していれば、海外への輸出業にもスムーズに参入することができ、事業拡大へのチャンスを広げることが可能だという。
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