昨今の小中規模生産者の離農は著しく、過去10年間で戸数が30%減と酪農生産の基盤を揺るがしかねない現状にある。その原因として長時間労働、生産性、設備投資の重さなどが挙げられており、IoTやAIの導入など高効率な酪農生産の実現が期待されている。
酪農・畜産向けIoTソリューションを提供する株式会社ファームノートホールディングス(以下、ファームノートHD)の子会社である株式会社ファームノートデーリィプラットフォーム(以下、ファームノートDP)は、北海道標津郡中標津町に自社牧場を立ち上げ、酪農生産を開始した。
今回生産を開始する自社牧場は、さらなるDX推進のためにIoT・AIソリューションの活用のみならず、牛舎設計から搾乳等の自動化技術・牛の遺伝改良技術・疾病予防技術・繁殖改善など酪農生産技術を両立させパッケージングした酪農生産のDX化を実証する第一号牛舎となる。新牛舎の詳しい特長は以下の通り。
- 従事者一人当たり、3倍の生産性を実現
- IoT・AI技術の活用により牧場業務オペレーションの効率化を実現
- 牛舎のリノベーションにより建築コストを半減
- 環境負荷の低減
- 動物の快適性に配慮
これまで日本の牛舎では人と牛の最適な生産環境が設計レベルから追求されてはおらず、酪農業の長時間労働が改善されていなかった。今回ファームノートDPはフィンランドの4dBarnの設計思想を取り入れ、自動搾乳ロボットを中心とした働く人にも牛にも配慮された牛舎を実現した。
具体的には搾乳・繁殖・乾乳・分娩・育成・治療等の作業が一つの牛舎内ですべて完結するよう導線が設計されており、一般的な牛舎の4倍程度のソーティングゲートを設置・活用することで、作業者一名でも牛の移動が短時間でスムーズに行えるようになった。その結果、牛舎内の総労働時間として1日あたり8時間程度、同規模の牧場の約1/3の時間で作業が可能になる見通しだ。
新牛舎ではFarmnote Cloud、Farmnote Colorならびに自動搾乳ロボットを導入し集積された生産データを分析することで、牧場業務オペレーションの高効率化を進める。
Farmnote Cloudで生産データを可視化して全ての従業員に分析結果を共有し、Farmnote Colorによって誰でも発情や疾病兆候といった牛の状態変化を発見できる。さらに搾乳ロボットによる搾乳作業の自動化や整備されたオペレーションマニュアルによって従業員の習熟度にかかわらず業務の再現性が向上し、業務の最適化と従業員教育の効率化につながる。
生産データの共有に加えて、クラウドカメラによる牛舎状況のリアルタイムな観察と、ボディコンディションスコアカメラ(※1)による牛の栄養状態の自動分析によって、牧場管理者が遠隔から牧場の状況を適切に把握して従業員に指示を出したり、獣医師など専門家が遠隔から生産状況を確認して適切なアドバイスをすることも可能となった。
従来、酪農生産コストの約20%を占める減価償却費は主に牛舎建築コストが占めている。新牛舎では既存牛舎の改築というアプローチによって、同規模の牛舎を新築した場合に比べ約半分のコストで牛舎を建築した。リノベーションというアプローチは、酪農経営の競争力強化に繋げることができるという。
新牛舎では、固液分離機により糞尿を処理し、分離した固形分を敷料として利用することで、排出される家排泄物を30%程度削減できる。牧場から排泄される糞尿が減少することで、家畜排泄物による悪臭や水質汚染といった環境負荷の軽減と、敷料コストの圧縮という経済性を両立している。
分娩前後の牛に配慮した牛舎設計、自動開閉カーテンによる暑熱対策、自動フットバスの設置による蹄病予防、常駐獣医師による疾病予防に重点をおいた牛群管理マニュアルの作成など、アニマルウェルフェア(※2)に配慮した飼養管理に取り組む。
※1 ボディコンティションスコア:牛体への脂肪蓄積の程度から牛の栄養状態を評価する手法。自社開発のボディコンディションスコアカメラによって牛体の画像から栄養状態を自動的に評価する。
※2 アニマルウェルフェア:動物の生活に関わる環境と関連する動物の身体的・心情的状態。快適な環境下で家畜を飼養することでストレス軽減や疾病減少につなげ、結果として生産性の向上や安全な畜産物の生産につなげる取り組み。
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