NTT・VTJ他、IoT端末に実装可能な拡張低レイヤデータ通信技術を開発し野生鳥獣対策の効率化に成功

野生鳥獣対策では、主に「罠設置」「見回り」「捕獲」の作業が必要になる。「罠設置」におけるおおまかなエリアの情報は、一般的に狩猟コミュニティ内で共有されている一方、現場で実際に罠を仕掛ける具体的な場所や個数は、現場の獣道の状況、野生鳥獣の足跡や糞などの痕跡から、設置する各々の猟師が判断する。

また、将来的に猟師の負担軽減を実現するには、毎日の見回りを多くの猟師で分担する必要があり、罠を設置した猟師とは別の猟師が見回りを行うケースが必要となる。

このため、罠設置場所の詳細を把握していない猟師においても、山林の罠設置ポイントにおいて効率的に罠を発見し、さらには一定期間捕獲ができていない罠の再設置を効率的に行える仕組みが必要となっている。

これまでに、既製品のIoT端末を使って野生鳥獣対策の効率化を試みているケースもあるが、罠ごとに設定を手動入力する必要があることや、IoT端末の設定が煩雑であることなど、運用面での課題があったのだという。

NTT・VTJ他、IoT端末に実装可能な拡張低レイヤデータ通信技術を開発し野生鳥獣対策の効率化に成功
山林の罠設置エリア(左:外観、右:罠設置ポイント)

そこで日本電信電話株式会社(以下、NTT)、日本仮想化技術株式会社(以下、VTJ)、ジャパン・マルチハンターズ株式会社、NPO法人おだわらイノシカネットは、野生鳥獣対策作業の効率化評価を目的として、IoTを活用した日々の設置罠見回り作業中の「罠探索」「罠再設置」に対する作業効率化の効果を検証した。

今回の実証実験では、ジャパン・マルチハンターズとおだわらイノシカネットによって野生鳥獣対策が行われている小田原市の山林において、NTTが開発したIoT向け拡張低レイヤデータ通信技術を、VTJの屋外設置型IoT端末に実装した罠センサ、および罠センサから送信される位置情報を元に、設置方向を表示する罠探索キットを用意し、作業効率化の評価を行った。

NTT・VTJ他、IoT端末に実装可能な拡張低レイヤデータ通信技術を開発し野生鳥獣対策の効率化に成功
野生鳥獣対策の現状、および実証実験イメージ

罠探索作業における評価では、罠設置エリアに4個の罠センサを仕掛けた条件において、罠の場所を知らない被験者が、BLEビーコンと既存アプリを用いた探索といった既存技術と、今回のNTT提案技術と探索キットを用いた場合における罠発見時間の比較を行った。

NTT・VTJ他、IoT端末に実装可能な拡張低レイヤデータ通信技術を開発し野生鳥獣対策の効率化に成功
日々の見回り作業フロー

既存技術を用いた場合、4個すべての罠の発見に平均32分56秒を要したのに対し、今回の技術を用いた場合では、平均14分7秒に短縮でき、57%の作業時間効率化を達成できた。

また、一定期間捕獲できていない罠再設置作業における評価では、手作業で行っていた従来の方法では1個の罠あたり10分12秒の作業時間を要していたのに対して、今回の技術を用いた場合では1台あたり1分32秒に作業時間を短縮でき、85%の作業効率効果が確認できた。

この成果は、技術的観点では、処理リソースが限られるIoT端末に対し同技術を実装した場合においても、実フィールドで要求される性能を十分に発揮できることを示しているのだという。

また、猟師の見回り作業効率化の観点では、罠の設置位置を把握していない複数の猟師による日々の「罠探索」と「罠再設置」の作業分担が可能となり、狩猟コミュニティ全体での狩猟フローの効率化が期待できる。

なお、今回NTTが開発した拡張低レイヤデータ通信技術は、通信の標準規格において規定されているレイヤ2制御フレームの中で、開発者が任意に実装可能と規定されている拡張領域に付加情報を格納してデータ発信を行うことにより、主通信に影響を与えることなく付加情報を収集することを可能としている。

NTT・VTJ他、IoT端末に実装可能な拡張低レイヤデータ通信技術を開発し野生鳥獣対策の効率化に成功
IoT向け拡張低レイヤデータ通信技術

このようなレイヤ2制御フレームの拡張領域を活用したデータ通信機能をIoT端末に実装することにより、ネットワーク接続が確立していない状態においても、付加情報収集が可能だ。

これにより、設置現場においてIoT端末を探索することが可能となるほか、設置場所等の付加情報に応じた複数のIoT端末への一括設定投入など、従来は1台ずつ人手で行っていたIoT端末の新規設置・移設作業の自動化が可能となる。

今後は、今回の実証実験の結果をもとに、スマート農場・工場・倉庫など、大量のIoT端末が設置されるようなユースケースでの適用評価と研究開発を進めるとしている。

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