今後は産学連携を深めていく
小泉: 今後のマクロミルの方向性について教えてください。
マクロミル 篠田徹也氏(以下、篠田): 国内における活動のひとつとして、より専門性を追求するために、産学連携を深めていきたいと思っています。昨年、滋賀大学のデータサイエンス学部と提携を行いました。
今年の7月には、2校目となる連携協定を横浜市立大学のデータサイエンス学部と結び、2019年4月には共同研究室を発足する予定です。取り組むテーマとして「データの等価方法」と「欠損データ」のふたつから始める予定です。
この取り組みは、データにまつわる産業構造が大きく変化していく中で、マーケティングリサーチのリーディングカンパニーであるマクロミルが大学と共同研究をしていきながら、そこで得た研究結果を広く産業界に対して提供してゆくことも目的としています。
さらにそこで経験を重ねた人材が産業界に巣立っていくような人材の孵化的機能も期待して、19年4月から共同研究室を発足した次第です。
小泉: 本格的にデータを分析していこうという傾向自体は海外ではよく聞きますが、日本だとどうなのでしょうか?
篠田: 数年前からそういった動きはありますが、どうしても一企業単体のデータに対する分析ですと、分析の深みが限定的になり、データを読み解く人に依存してしまう状態でした。
ここ最近は、自社以外の様々なデータと統合的に分析を可能にする環境が広がってきていますし、人だけではなくマシンを使って解析していく、深めていくといった環境がひろがっていますので、さらに大きな地殻変動が起きていゆくタイミングだと捉えています。
小泉: 外部データを取り込もうという気持ちになってきたというのは、けっこう大きい話ですよね。マシンパワーは多分ほっといてもだんだん良くなっていく気はしますが、人の気持ちが全然ついてきてないというか(笑)でもみんなでちゃんとデータ使って、みんなで儲けようよみたいな人達が出てきてきましたね。
原: マネタイズとのバランスという点では、ユーザー側にどういう許諾をとっていくかという部分も含めすごく慎重に検討されていますよね。
小泉: それは仕方がない部分はありますよね。IoTの世界だと生体データから始まって購買データだの、行動データだのありとあらゆる個人情報が今データでトラッキングできるようになっているので、もう生きてく上で一筆書いてもらうしかないですよね(笑)。
日本人の行動様式って特殊なんだなと感じがすごくしています。特に細部にこっちのウォシュレット文化だと言いますか、あとはお刺身文化とか言いますか、何かに付けて細かいというのがあって。これ日本人を解析しない限り日本のマーケットは難しいだろうと思います。
中国の方とWeChatペイについて話し合ったりすると、「便利になるからいいじゃん」と言うんですよ。「国にトラッキングされてるよ。イコール信用照会されていて大丈夫なの?」って言ったら、「別に悪い事してなきゃいいよね」、とか言うんですよね。
ま、その通りなんですけど(笑)。なんか私が悪い事しているみたいな気持ちになったけど、「嫌じゃないの?トラッキングされていて」と言ったら「逆に何が問題なの?」と。便利になるにはいいんだという主張なんですよね。
篠田: 私は2011年から13年まで上海の現地法人にいたんですけど、その頃はまだ、WeChatペイやQRコードでの決済は、ほとんど見かけない状態でした。
まさにこの3~5年の急激な進化なんだろうなと思います。中国人はその急激な進化を身をもって体感しているので、そこに対して多少不安感があったとしても、社会全体としてより良くなっていくからいいじゃないかということなのでしょうね。
失敗したらそれは今後の糧にしていこうよというのが、スタートアップの世界でもそうでしょうし、社会の変革という意味においても根底にあるんだろうなと。日本も、多分1960年代の頃はそういう時代だったと思うんです。
小泉: 車が来たときに、きっと最初は怖かったはずです。事故も相当ありましたし、都市計画自体もいろいろ紆余曲折があって今の状態で、ある意味カオスな状態になっているじゃないですか。信号なんかないところだったはずですよね。
篠田: そうですよね。一方で最近の日本人というと、0パーセント成長がずっと続いてきた中で、変化に対しあまり前向きに捉えられないという深層心理があるんじゃないのかなというのが、日本に戻って感じている印象です。
個人情報を取り巻く環境において、新たな市場創出への期待と不安が話題となっている今、マクロミルは非常に面白い立ち位置にいると思っています。そのような中、収益性や利便性ばかりが先行しないように気をつけています。
生活者の貴重な情報をお預かりして事業活動をしているわけですから、生活者からの信任や期待があってこそ成り立つビジネスモデルだと捉えています。
その意味でも、私たちの事業活動を通じて、生活者が便利になったり、豊かになったり、総じて幸せになっているかどうかが重要です。
産学連携も自社のためだけではなく、広く社会に役立つ専門性を高めてゆくために、真摯に取り組んでゆきたいと考えています。
小泉: なるほど、勉強になりました。本日はありがとうございました。
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