本稿は、一般消費者向けIoT/AI製品の事業企画を支援する「IoTNEWS生活環境創造室」(室長:吉田健太郎)が、イノベーションに挑むライオン株式会社の取り組みを紹介する連載の第2回です(全4回)。
クリニカ、キレイキレイ、トップ、バファリン―。私たちの生活に欠かせない日用品を、1891年の創業以来120年以上にわたって開発し、提供してきたライオン。同社は2018年1月、研究開発本部に「イノベーションラボ」を新設。製品の構想段階から社外と連携する「オープンイノベーション」を推し進め、デバイスやサービス、アプリなど、新しいタイプの製品開発に取り組んでいる。
目にするのはある意味、「ライオンらしくない製品」ばかりだ。しかしそこには、口腔衛生やヘルスケア、皮膚・毛髪に関する知見、そして生活者との豊富なタッチポイントといったライオンの強みが、センサーや通信機器、AIなどの新しいテクノロジーとかけあわされている。
発足から1年が経とうとしている今、どのような成果が生まれているのか。「IoTNEWS 生活環境創造室」では、イノベーションラボで革新に挑む4名の研究者を取材した。第2回の本稿では、舌の写真をスマートフォンで撮影し、口臭リスクを判定するアプリ「RePERO」の開発を担当する、尾本さよ研究員に話を伺った(聞き手:IoTNEWS代表 小泉耕二)。
※第1回「美しい笑顔は口の中から、LIONらしさが生んだ新しい美容機器「VISOURIRE」」の記事はこちら。
口臭リスクが舌の写真からわかる理由
IoTNEWS 小泉耕二(以下、小泉): 尾本さんが開発を進めているのは何という製品でしょうか?
ライオン 尾本さよ研究員(以下、尾本): 舌の写真をスマートフォンのカメラで撮影することで、口臭のリスクレベルを判定する「RePERO」というアプリです。
小泉: なぜ、写真から口臭リスクがわかるのですか?
尾本: 口臭の主な原因は、「舌苔」(ぜったい)という苔(こけ)のような白い汚れにあります。食べかすや口の中ではがれた細胞が付着して菌が増殖し、それが臭いのもとになります。
小泉: 舌に白い部分が多いとダメということですか?
尾本: はい、臭いのもとになる菌が多い状態ということになります。歯ブラシや舌ブラシできちんとお掃除する必要があります。
小泉: 「RePERO」をつくろうと思ったきっかけは何でしょうか。
尾本: 口臭を気にしている方が多いことは、弊社がこれまでに行ってきた調査でわかっていました。一方で、口臭ケアの商品は色々とあるものの、本当に効果があるのか、本人では確かめられないことが課題になっていました。
小泉: なるほど。でも、なぜ舌の写真なのでしょうか?
尾本: ライオンが保有するオーラルケアの知見から、舌の汚れと口臭に相関があるとわかっていたからです。
小泉: なるほど、口腔衛生の知見をもつ御社だからできる技術というわけですね。実際には、写真を撮って画像解析をしているのだと思いますが、測定のロジックはどういうものですか?
尾本: たくさんの舌の画像と口臭のデータを集め、機械学習させると、「どういう舌の状態だと口臭リスクが高いか」という相関が見えてきます。そのアルゴリズムを口臭リスクの判定に用いています(※)。
小泉: 判定結果と一緒に対応策も提示してくれるのですね。尾本: はい。たとえば、口臭対策の一つは「舌ブラシ」を使って舌をきれいにすることです。ところが、舌ブラシを使ってみたことがないという方も多いので、その詳しい使い方を提案するコンテンツを用意しています。また、他にも口臭に関するさまざまな豆知識が閲覧できるようになっています。
小泉: 口臭というのは、口の中だけの問題なのですか? 胃の調子が悪いと口が臭くなるという話を聞いたことがありますが、胃の臭いは関係ないのでしょうか。
尾本: はい、口臭は主に口内の環境がもたらす臭いと言われています。そうした正しい知識も、このアプリを通して提供していきたいと考えています。アプリから、弊社が提供している情報サイト「口臭科学研究所」のウェブページにリンクし、さらに深い知識をつけていただけるようなコンテンツも用意しています。
小泉: いいですね。ライオンさんのオーラルケア製品がアプリから買えたりはしないのでしょうか。
尾本: 現時点ではまだできないのですが、今後はそうしたプラットフォームとしてのしくみも検討しています。
※「舌苔」が発する臭いの成分は「硫化水素」と呼ばれるガス成分だ。「RePERO」では「ガスクロマトグラフィー」という装置を使って測定した「硫化水素の実測値」と「舌画像から得られる特徴」の相関から、アルゴリズムを作成しているという。なお、歯周病やむし歯なども口臭の原因となるが、健康な人の口臭の主な原因は「舌苔」由来と考えられている。ライオンはその舌苔由来の口臭リスクを見える化することに注力し、「RePERO」を開発した。
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技術・科学系ライター。修士(応用化学)。石油メーカー勤務を経て、2017年よりライターとして活動。科学雑誌などにも寄稿している。