運輸安全委員会によると、2009年から2019年に発生した船舶衝突事故は日本だけでも2863件で、年間平均286件発生している。大型船舶の衝突事故が発生した場合、船員の人命や船舶の破損、海洋汚染など多大な影響を社会に及ぼす可能性がある。
海上保安庁は交通量の多い航路等において、レーダーおよび船舶自動識別装置(Automatic Identification System )(以下、AIS)を組み合わせたVTSシステム(※1)を運用し、海上交通センターなどで航行支援を行うことで海上交通の安全を図っている。
しかし、多数の船舶の動きを認知・予測して危険性を判断することは容易ではなく、危険回避の情報提供を、どの船舶に対し、どのタイミングで行うかといった判断は、運用管制官の経験や技量に依存しているといった課題がある。
こうした課題を解決するため、富士通株式会社は海上保安庁との請負契約により、海上交通管制業務を行う東京湾海上交通センター(※2)において、富士通が開発した船舶同士のニアミスを予測するAIを活用した船舶の衝突リスク予測技術の実証実験を2019年12月6日~2020年3月23日の期間に実施した。その結果、衝突リスクの早期発見への有効性を確認した。
同実証実験では、株式会社富士通研究所が開発したAI技術「FUJITSU Human Centric AI Zinrai」を用いた船舶の衝突リスク予測技術を活用し、東京湾において船舶衝突リスクの検知と衝突リスクの集中するエリアを予測することが可能であるかについて検証を行った。
同実証実験では、東京湾海上交通センターの訓練環境を用いて、現職の運用管制官6名が過去に発生したヒヤリハット事例を再現した疑似オペレーションを以下の2つの手法で実施し、監視するエリアや運用管制官の経験や技量の違いなど、延べ36パターンを分析してその変化を考察した。
- 運用管制官が自身の経験や技量に基づき船舶の動きを認知・予測し、危険性を判断する従来通りの業務手法(以下、評価1)
- 従来通りの手法に加えて海上保安庁から受領した過去のAISデータを活用し、船舶の衝突リスク予測技術で計算したリスク情報を運用管制官が確認しながら業務を行う手法(以下、評価2)


統計分析の結果、評価1に比べ評価2では、運用管制官の船舶に対する注意喚起の警告のタイミングが平均して2分程度早まり、衝突リスクのある船舶の早期発見に効果があることを確認した。また、最終的に衝突リスクがさらに高まった船舶に対して行う危険回避の勧告の回数が従来に比べ2倍近くまで増加し、より積極的かつ予防的に管制を行い、安全性強化につながる可能性を確認した。
さらに、同技術は衝突リスクという定性的な状態を定量化して運用管制官に認識させることにより、運用管制官の経験や技量に依存することなく、一定のレベルで業務の遂行が可能となった。特に経験年数が浅い新人の運用管制官に対して大きな効果があり、新人でも経験豊富なベテラン運用管制官同等の管制アクションが可能となる場合もあり、運用管制官の技量の平準化にも効果があることがわかった。
今後富士通は、2020年4月より安全航行支援に関わる事業体制を強化し、同技術を取り入れた海上交通管制や運航船舶向けの安全航行支援のサービス化を推進していく。
※1 VTSシステム:Vessel Traffic Servicesの略称。航行の安全性と効率性の向上を目的に、レーダーや船舶自動識別装置(AIS)などから取得される様々な船舶情報を集約し、船舶に対し必要な情報を提供するために用いられる。
※2 海上交通センター:船舶の安全運行に必要な情報の提供と航行管制を一元的に行うことにより、輻輳海域における海上交通の安全を図っている。
プレスリリース提供:富士通
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