従来のインフラ設備の巡視・保守点検作業では、カメラで現場や設備の状態を撮影し記録することから始めるのが一般的である。撮影した写真は、点検情報として、撮影位置をサイバー空間上の図面にポイントとして残すことで管理する。しかし、GPSが届かないプラント施設などの屋内では、撮影位置の特定に手間がかかる。
屋内での測位方法として、無線基地局の建物内への設置や、看板など位置を特定するための目印(マーカー)を設置する方法がある。しかし、無線基地局の設置は追加機材の導入にコストがかかる。またマーカーの設置は、一枚の写真内に撮影したい劣化箇所とマーカーの両方を収める必要があるため、膨大なマーカーを設置する必要が出てくる。
写真に写した劣化箇所の大きさの測定も課題である。メジャーを直接当てて計測する方法が一般的だが、手の届かない場所では計測できないほか、測り忘れた箇所があると、現地で再び計測する必要がある。非接触型の計測法であるレーザースキャナやデプスセンサでは、劣化箇所を撮影するカメラ以外の機材を現場に持ち込まなくてはならない。
株式会社東芝は、インフラ設備の点検作業において、一般のカメラ(※)で撮影した1枚の写真から撮影場所とひび割れ等の劣化箇所の被写体の大きさを認識する「点検情報管理AI」を開発した。
同AIは、東芝がこれまでに開発した、画像から撮影位置を特定する「位置認識AI」と、大きさを認識する「立体認識AI」の2つの技術を組み合わせたもので、GPSからの電波が届かない発電プラント施設内等の巡視・保守点検作業の効率化に貢献する。
位置認識AIでは、導入時にインフラ施設内の写真を撮影し、それぞれの写真の撮影位置と図面上の位置とを紐づけたデータベース(位置データベース)を作成する。運用時には、位置データベースにより、撮影した写真のカメラの撮影方向と空間位置を図面上で自動的に認識できる。東芝の位置認識AIは、深層ニューラルネットワークモデルにより構成しており、ディープラーニングにより低解像度の画像からでも方向・位置を認識することができる。
立体認識AIは、被写体までの距離に応じて生じる画像のぼけをディープラーニングで解析することにより、背景に映る情報がどのようなものであっても距離を計測する。このため、市販の単眼カメラでステレオカメラ並みの精度で距離計測を実現することができる。
今回開発した点検情報管理AIは、点検の際に撮影した1枚の写真をサイバー空間にアップロードするだけで、撮影位置と被写体の大きさの認識を同時に行う。これにより、追加の機材を導入することなく、点検情報をサイバー空間上の図面に蓄積することができる。蓄積された点検情報は、図面の該当箇所にアクセスすることで容易に入手することができる。
東芝は今回開発した点検情報管理AIを、東芝エネルギーシステムズ株式会社のエネルギーシステム向けIoTプラットフォームを使って公開し、2022年度の実用化を目指すとしている。
※ 一般のカメラ:単眼カメラのこと。対象物を複数の異なる方向から撮影することにより、その奥行き方向の情報も記録できるようにしたステレオカメラを用いる必要がないことを示す。
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