近年、労働人口の減少に伴い、プラント運転の人材確保やその運転技術の継承が、プラントを運営する企業にとって共通で抱える大きな課題となっている。その解決策の1つとして期待されているのがプラント運転を支援するAIである。しかし、運転員のオペレーションは複雑であり正確にモデル化することは技術的に困難を極めるため実用化には至っていない。
横河ソリューションサービス株式会社とNTTコミュニケーションズ株式会社(以下、NTT Com)は、自動制御が困難なため手動オペレーションが不可欠なプラント運転をAIにより支援する「AIプラント運転支援ソリューション」を、JNC石油化学株式会社市原製造所(以下、JNC石化)に導入し、実証実験に成功したことを発表した。
同ソリューションは、プラントに蓄積されたプロセスデータ(※1)と現場の運転員の知見をもとに、手動オペレーションを模倣学習でモデル化する。稼働中のプロセスデータにそのモデルを適用することで、AIが運転員に手動オペレーションの推奨値をガイダンス表示するとともに、その根拠を提示する。
なお、同ソリューション開発にあたっては、横河ソリューションサービスが提供するプラント制御改善コンサルティングのノウハウ、NTT Comが提供するAI開発ツール「Node-AI」(※2)により作成されたAIモデル「アトリビューションマップ作成技術」(※3)による要因可視化を組み合わせ実現した。
他方、同実験では、運転員による手動オペレーションが不可欠なプラント運転において、運転中のプロセスデータからAIが提示した推奨値を運転員にガイダンス表示し、手動オペレーションに反映することで、さまざまな経験年数の運転員への支援に対する同ソリューションの実用性を評価するものである。
AIモデルの精度を評価するMAE(※4)、および運転員による「提示されるAI推奨値の信頼性」、「ユーザーインターフェイスの視認性・判読性」、「同ソリューションの有効性」に関する評価を基準とし、定量・定性的な観点から総合的に同ソリューションの実用性をJNC石化プラント内の対象のプロセスで確認した。同実証実験の結果に対する運転員の評価は以下の通り。
- 提示されるAI推奨値の信頼性について
- ユーザーインターフェイスの視認性・判読性について
- 同ソリューションの有効性について
AIが提示する推奨値が実際の運転員の操作と高い精度で一致した。
なぜそのような値をAIが推奨したのか要因が示されるため理解がしやすく、実際の要因についても納得できるものであった。
オペレーションの改善活動や技能伝承の効率化にも繋がる可能性があり、将来的には自動化を期待できると感じた。
今後両社は、同実験の結果をもとに同ソリューションのさらなる改善に取り組み、2021年度中に商用化予定としている。また、化学プラント以外の業界への展開も検討する。
※1 プロセスデータ:プラント内の各種センサーから取得した温度や圧力などのデータ。
※2 Node-AI:現場の専門家や意思決定者などさまざまな関係者がコラボレーションし、コードを書くことなく簡単にAIの設計を行うことができるNTT Comが開発を進めるツール。
※3 アトリビューションマップ作成技術:提示した推奨値の根拠となるプロセスデータとその影響の強さを示すNTT Comの特許技術。
※4 MAE(Mean Absolute Error):機械学習分野で用いる誤差を評価する指標であり、運転員による操作とAIの推奨値との誤差を評価するために用いている。
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