近年の日本食ブームなどを背景に、刺身向けに代表される高品質なマグロの需要が高まっており、2020年には5万トン以上を漁獲・生産する国は15か国(※1)に上るなど、マグロの需要は日本のみならず世界で大幅に増加している。
しかし、その冷凍マグロの品質の判別は、マグロの尾の断面を熟練者が目視で確認する尾切り選別をはじめとする破壊的検査が主流であり、検査可能なタイミングや場所、検査者が限定されている。
東海大学海洋学部水産学科の後藤慶一教授、および富士通株式会社の共同研究グループは、冷凍マグロの重要な品質指標の一つである鮮度について、超音波AI(※2)を活用することで、冷凍状態のまま非破壊で評価する技術を発表した。
この超音波AIを活用した検査方法では、冷凍マグロの皮の外側から超音波を当て、計測した波長の特徴から、鮮度の高いマグロかそうでないマグロかをAIでスコア化し判断する。
流通するマグロの約8割を占める冷凍マグロの身は、生の状態と異なり、一般的に超音波検査で使用される1.0MHz以上の周波数が通り難いため、超音波を用いて鮮度を検査する手法は難しいとされてきた。
研究を進めるにあたって、共同研究グループは、まず冷凍マグロの超音波検査に最適な周波数帯は、500kHz程度の比較的周波数の低い超音波ということを発見した。
次に、正常な検体と鮮度不良(死後硬直が進んでいる状態)の検体からそれぞれ取得した超音波波形を比較したところ、鮮度不良の検体は中骨からの反射波が特徴的であると発見した。
しかし、冷凍マグロの超音波検査に最適な500kHz程度の比較的周波数の低い超音波は、計測したデータの解像度が低くなってしまうという課題があった。また更に超音波はその性質上、いろんな材質の情報を検知してしまうため、CT等の他の検査に比べてノイズが多く、判別が難しいとされている。同研究では、こういった目視では判別が難しい波形も含めて判断するため、機械学習を用いている。
富士通株式会社 研究本部人工知能研究所自律学習プロジェクト 酒井彬氏は、同研究でのAI活用について、「鮮度が良い状態はこの数値がこれだけある状態だ、という科学的な数字を用意する必要なく、正常なものと異常なものを用意し、そのデータを多量に学習させることで判断が出来るようになるという、新しいアプローチで取り組むことが出来るのがAIの特徴だ」と述べた。
同研究成果は、冷凍マグロの価値を維持しつつ、場所を問わず誰でもマグロの品質評価が行えることから、国際化の進むマグロの流通に品質の信頼性をもたらすことが期待される。
両者は今後、マグロの検体数を増やすことで超音波AI技術の精度向上を図るとともに、血栓や腫瘍などの鮮度不良以外の異常検知にも取り組んでいく。さらに、水産加工工場などの現場での実証実験を進めるとともに、冷凍物を扱う畜産業や医療・バイオ分野などへ同技術を応用する研究を行うとしている。
※1:2020年に5万トン以上を漁獲・生産する国は15か国。グローバルノート – 国際統計・国別統計専門サイト「世界のマグロの漁獲量・生産量 国別ランキング・推移」より引用(https://www.globalnote.jp/post-7041.html)。
※2:超音波AI技術とは、超音波検査で取得されたデータ処理に特化したAI技術群。超音波検査によって得られたデータには骨などによる反射とそれによる影といった特徴がある。富士通は、このような超音波データが持つ特徴を軽減したり活用したりすることにより、超音波特有のノイズなどの問題に対してロバストなAI技術の開発を進めている。
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