東芝、電力市場における当日の取引で最適な入札のタイミングと入札量を算出する「時間前市場取引AI」を開発

世界規模でカーボンニュートラル社会の実現に向けた取り組みが加速する中、国内では固定価格買取制度であるFIT(Feed-in-Tariff)制度が順次終了し、固定価格ではなく、卸市場などにおいて市場価格で売電したとき、その価格に対して一定のプレミアム(補助額)を上乗せするFIP(Feed-in-Premium)制度が2022年4月に導入された(※1)。

FIP制度の活用にあたり、電力市場取引では、再生可能エネルギー(以下、再エネ)発電事業者が発電量の変動による「インバランスリスク(※2)」と市場での価格変動などの「マーケットリスク」を管理して安定的な収益を確保するニーズが高まっている。収益の確保には、太陽光や風力などの複数の再エネ発電事業者による再エネ電源を束ね、電力市場における最適な売電計画を実行する再エネアグリゲーターの役割が不可欠である。

そこで株式会社東芝は2021年12月に、電力市場取引における事業者の戦略的取引の最適化を支援する「電力市場取引戦略AI」を開発した。

電力市場における卸電力取引は日本卸電力取引所(JEPX)で運営され、主要市場として、実需給の前日に取引を行う「前日市場(スポット市場)」、当日の発電不調や発電・需要調整の場として、実需給の1時間前までに取引を行う「当日市場(時間前市場)」がある。

アグリゲーターは、実需給の前日10時までに一度スポット市場で入札(※3)を行い、時間前市場が開場する前日17時から当日の実需給が始まる1時間前(ゲートクローズ)までの間に複数回に分けて時間前市場の入札を行うことができる。

電力市場取引戦略AIは、東芝独自の「発電量予測AI」「価格予測AI」で再エネの発電量と価格をそれぞれ予測し、その予測に基づき「スポット市場取引AI」でスポット市場への売り入札量を算出する。

再エネアグリゲーターは、通常、スポット市場で前日時点での予測に基づいて大部分の取引を行い時間前市場で残りの取引を行うが、スポット市場と時間前市場のそれぞれの売電割合の決定には戦略的な判断が必要であり、昨年のAIはこの前日時点の意思決定を支援する目的で開発された。次のステップとして、時間前市場取引において、最適な「入札のタイミング」と「入札量」の意思決定を支援する仕組みが求められていた。

このほど東芝は、電力市場取引戦略AIの拡張機能として、再エネアグリゲーション向けに、時間前市場において最適な入札のタイミングと入札量を算出する「時間前市場取引AI」を新たに開発した。

同AIは、当日の天候や稼働プラントの状況に併せて電力の需給バランスを調整する時間前市場取引において、入札実行時点の最新の発電量予測と価格予測、過去の市場取引結果に基づいて、最適な入札のタイミングと入札量を算出する。入札のタイミングが適切でないことで電力の需要量と供給量の差分が発生する「インバランスリスク」と、一度に大量の入札が発生することで価格下落を引き起こし収益が悪化する「マーケットリスク」を考慮し、取引収益が最大となるように最適化する。

東芝、電力市場における当日の取引で最適な入札のタイミングと入札量を算出する「時間前市場取引AI」を開発
時間前市場取引AIの概要
具体的には、まず過去の時間前市場の取引実績データをAIが学習することで、リスクの重み付けの判断を支援するリスク感度パラメータを算出する。さらに、計算時点での最新の各種予測値(再エネ発電量、市場価格、インバランス単価)を取得し、その時点までにスポット市場や時間前市場で入札した量と、最終的な入札量との差分(予測インバランス)を計算する。そして、予測インバランスをゲートクローズまでにゼロにするような複数回の入札量を算出する。

その際、各時刻での価格の予測値や上述したリスク感度パラメータに基づいて累積の取引収益を見積り、膨大な数の組み合わせが存在する入札手順の中から、最大収益の入札手順を発見する。

同AIにより、従来は困難だった取引当日の発電量予測と価格予測に基づいた時間前市場取引の意思決定支援が可能になる。また、変動の大きい再エネの安定的な供給を可能とし、再エネの主力電源化の促進およびカーボンニュートラル社会の実現に貢献するとしている。

なお、同AIは、東芝エネルギーシステムズ株式会社および東芝ネクストクラフトベルケ株式会社が参加する経済産業省の再エネアグリゲーション実証事業での実証実験にて採用され、実際の発電設備を用いた活用を開始している。

※1 FIT制度:再エネ導入初期における普及拡大とコストダウンを目的に2012年に導入された。再エネ事業者が発電した電力について、電力会社が一定価格で一定期間買い取ることが約束されている。これにより、いつ発電しても収益が変わらず、電力の市場価格が高い需要のピーク時に供給量を増やすといったインセンティブが働かないといった課題があった。2022年度に新たに導入されたFIP制度は、FIT制度により再エネ導入の初期目標を達成したことを踏まえ、再エネを競争電源に位置づけ、再エネの主力電源化に向けたステップとなる。電力需要のピーク時に一定のプレミアムが上乗せされ、収入が市場価格に連動するため、発電事業者に対して蓄電池の活用などで供給量を増やすインセンティブを促す目的とされる。(「FIT制度の抜本見直しと再生可能エネルギー政策の再構築」,資源エネルギー庁,2019.4.22を基に記載)
※2 インバランスリスク:再エネ発電量が計画値から外れてインバランスが大きくなると、供給する電力の品質低下や停電などの要因となる可能性がある。また、インバランスによる調整コストとしてインバランス料金を支払う必要がある。
※3 入札:電力量の売買取引のため、時間前市場の取引システムを用いて、30分の時間帯商品毎に市場の状況を見ながら、50kWhを最小単位として売りまたは買いの電力量を入札する。

無料メルマガ会員に登録しませんか?

膨大な記事を効率よくチェック!

IoTNEWSは、毎日10-20本の新着ニュースを公開しております。 また、デジタル社会に必要な視点を養う、DIGITIDEという特集コンテンツも毎日投稿しております。

そこで、週一回配信される、無料のメールマガジン会員になっていただくと、記事一覧やオリジナルコンテンツの情報が取得可能となります。

  • DXに関する最新ニュース
  • 曜日代わりのデジタル社会の潮流を知る『DIGITIDE』
  • 実践を重要視する方に聞く、インタビュー記事
  • 業務改革に必要なDX手法などDXノウハウ

など、多岐にわたるテーマが配信されております。

また、無料メルマガ会員になると、会員限定のコンテンツも読むことができます。

無料メールから、気になるテーマの記事だけをピックアップして読んでいただけます。 ぜひ、無料のメールマガジンを購読して、貴社の取り組みに役立ててください。

無料メルマガ会員登録